フェラーリ849テスタロッサの国際試乗会は、スペイン南部・アンダルシア州のセビリア近くにある、モンテブランコ・サーキットを舞台に行われた。当日の午前は公道走行プログラムとして、サーキット周辺を約155km、所要時間にして約2時間20分のルートが設定された。市街地から高速道路、そしてワインディングロードがあり、クルマとじっくりと向き合える。途中オフィシャルクルーとの撮影時間も含め、約半日をこの新型849テスタロッサと共に過ごす内容だ。
見知らぬ土地、それもスペインで。初めてのクルマ、しかもまだ誰も乗っていないフェラーリの新型車である。ほどよい緊張感と期待感を持ちながら、エンジニアからの操作説明を聞き、サーキットを後にする。まずは高速道路を15km弱走行。第一印象は、静粛性と乗り心地のよさが思っていた以上ということだった。フロント 265/35 ZR20、リア 325/30 ZR20という大径ロープロファイルのスポーツ・タイヤでありながら、日本に比べてやや荒れぎみともいえる路面を、整然と進んでいくのが心地よい。視界もいい。左右のフェンダーが張り出していて、車両幅の感覚は把握しやすい。
体も馴染んできたところで、一般道に入り、市街地を抜けると、いよいよワインディングロードが待っていた。実はここまで、ほとんどをEV(eDrive)走行していた。マネッティーノはSPORT、eマネッティーノはHybridだったが、一般道はもとより高速道路でさえ、バッテリー残量に余裕があればテスタロッサは積極的に電動走行を選択する。その振る舞いは、環境あるいは周囲への配慮なのか、最近のフェラーリの特徴ともいえるジェントルな振る舞いだ。
ワインディングロードでパドルを引くと、瞬時にエンジンがかかり、それまでとはまったく異なる空気がキャビンに広がった。意外と低め、そして緻密に乾いた音が混ざる官能的なエンジンサウンドだ。ステアリングはほどよい重さで、絶妙なセッティングである。
RACEモードに切り替えると、やや硬めの乗り心地に変わるが、これがイメージどおりのフィーリングかもしれない。強めのブレーキングの際、フロントが若干沈むのだが、これがまたほどよい。ガチっとしすぎておらず、荷重変化がわかりやすいのだ。そして、スタビリティが異様に高い。グイグイ曲がるし、妙な挙動がいっさいない。これがFIVEの恩恵なのか、オン・ザ・レールともまた違う不思議な感覚に陥る。この先にある世界はトラックで試すことにしよう。
849テスタロッサは、ずいぶんと立派で、大きなサイズに映る。SF90が跳ね馬V8ミッドシップの典型だったのに比べ、はるかに挑戦的で新鮮味あるスタイルとなったからだ。とくにハンマーヘッドのように薄く広がるフロントと1960年代のレーシングカーのように張り出したリアフェンダーがそう思わせる。ドアを開けると、その断面さえ美しい。マラネッロが持つアルミニウム成型の特許によって生まれた曲線美である。ドア断面そのものがこれほど美しいクルマは他にない。オーナーの密かな歓びになるだろう。
以前からこの3モーター+V8ツインターボの性能レベルは公道領域を完全に突破していた。峠道などではおいそれと解放できないレベルだ。そういう意味では自制心ある大人のスポーツカーだが、はやる気持ちを抑えきれない人がステアリングを託されても安心なように、すべての車両制御は最新かつ繊細である。
乗り心地がいい。SF90ストラダーレより引き締まっている。フロントアクスルにおけるモーターの存在感が薄まった結果、よりミッドシップカーらしい動きになった。これが動的な車体のサイズ感を、見た目の印象とは逆に一段小さく感じさせてくれる。だからスペインの田舎の村や狭い農道でも車幅をさほど気にすることなくドライブできた。
微速域におけるパワーデリバリーの丁寧さや回生ブレーキの素晴らしいフィールも印象に残る。要するにド派手な見栄えとは裏腹に上々のシティカーとしても振る舞う。
1050cvを操る恐怖心がまったく芽生えない。
フェラーリ849テスタロッサを公道で走らせた印象をひと言で説明するなら、こうなる。
理由は明快。操りやすく、快適性が高いからだ。先代のSF90はエンジンの始動/停止に伴うショックが過大で、クルマを一定速で走らせるのにもやや難儀した。一方、スロットルペダルを踏み込んだ直後のレスポンスはハイブリッドシステムの助けもあって良好だったが、パワーが高まっていく過程では微妙な出力の山谷があって、スロットルワークには細心の注意を払う必要があった。
以前、SF90のこうしたキャラクターについてフェラーリのエンジニアと議論したところ「SF90は最新テクノロジーのショーケースなので、新技術の存在をはっきりと示したかった」との説明を受けた。つまり、フェラーリは意図してSF90をそうしたキャラクターに仕立てたのである。
ところが849テスタロッサは出力特性のリニアリティが高いおかげで、欲しいパワーがいつでも即座に手に入るだけでなく、出力コントロールも容易。また、ハイブリッドシステムの動作も格段にスムーズになった。だから恐怖心を覚えないのである。
ステアリングやブレーキの印象も同様で、いつでも自分の思いどおりに操ることができた。しかも、スーパースポーツカーとしては静粛性が高く、乗り心地も良好。恐怖心が煽られなかった理由は、そんなところにあったようだ。
