精密なモノクロイラストから、色鮮やかな街並みとクルマ、街で活躍する重機など、多彩なイラスト作品を発表する鬼武龍一さん。友人・知人の愛車を描くイラストでは、特徴的なボディの輝きは新車の輝きではなく、「オーナーの愛情あふれる、ワックスがけしたような輝きに仕上げる」と以前うかがいました。時間と手間をかけて、心をこめて丹念にクルマを磨き上げる、そんなオーナーの日常生活を想像させるような素敵な作品です。
ボクは、ちょっぴりクラシックなクルマに興味があります。このようなクルマたちがまだまだ現役で走っている姿を見るのは、本当にうれしいですね。
イラストは、友人・知人たちから依頼を受けて彼らの愛車を描くことが多いですが、手の空いている時には街で見かけたり、出会えた、気になるクルマを作品にすることもあります。今回はそんなイラストをご覧ください。
作品①は、銀座で開催中だった友人の個展を見に行ったときに出会った美しいクルマです。
アニメ『ルパン三世』の愛車として知られるメルセデス・ベンツ SSK1928年。そのレプリカとして BUBU(光岡自動車)が製造・販売したモデル[BUBU Classic SSK]は、1989年に限定200台発売されました。フォルクスワーゲン・タイプⅠをベースに、大幅に改造したボディが特徴です。リアエンジンのVWがベース車となっている関係で、オリジナルのSSKではエンジンが入っているボンネット下は、BUBU Classic SSKではトランク・スペースになっています。
エンジンのメンテナンスをしていたオーナーに写真撮影の許可をもらって取材し、作品に描きました。連絡先を聞かなかったので絵を見ていただけないのが心残りです。銀座とSSKが妙にしっくりとくる景色で、出会えた時の感動は忘れられません。クルマ以外の表現に予想外の時間がかかり、イラスト作成は約3週間でした。
作品②は、行きつけのガソリンスタンドで給油待ちしていたときに、偶然、目の前の赤信号で止まった鮮やかな紫色のクラシックカーが目にとまり、急いでiPhoneで写真を撮りました。その写真をベースに描いたイラストです。
車種が不明で、いま流行のAIに聞いたところ、[1940 Ford DX Coupe]との予測でした。フロントとバックを取材していないのではっきりとはわからず、スタンドのスタッフに完成したイラストを渡して、このクルマが給油に来たら聞いてもらうことにしました。その後も何度かスタンド前を通過しているようなので、いつか判明する日を楽しみにしています。
イラスト作成時には、アスファルトや手前の歩道の表現に苦労しましたが、完成まで2週間ほどかかりました。背景は行きつけのお蕎麦屋さんです。
作品③は、10年ほど前に愛車の[オースチンヒーレースプライトMK1]が引き取られる夏の日の朝、心を込めて洗車した際の様子をイラストにしました。20年間ほど乗っていましたので、ワックスがけはとくに念入りに。夏の足元の暑さは想像以上でした。すれ違う人たちは皆さん笑顔でしたので、ボクも涼しい顔で手を振ったりしたのが楽しい思い出です。長年の愛車がいなくなってからは後悔の日々です。
イラスト作成には、なるべく取材した写真を生かすように努力しています。とくにヘッドライトやグリルなどを正確に表現するのは難しく、細かく描くほど写真と間違われてしまう点はもどかしいところです。
それでも、ボクの性格は変えられないようです。あなたの愛車を心ゆくまでぜひ描かせてください。
AAFの仲間の空山 基さんは自作のイラストを[ピカール](仕上げに使う金属用磨き材)で磨いて仕上げると冗談をいっていましたが、ボクはワックスをかけたようにツヤツヤに描くのが本当に楽しみなんです。結果的にピカピカしたクルマのイラストがほとんどですね。
おにたけりゅういち/東京都出身。1968年、東京藝術大学美術学部工芸科卒業。1970年、同鍛金専攻科修了。HONDAのエポックメーキングなバイクやクルマのイラストを手がける。2009年、初個展 (K‒ HOUSE画廊)。2011年「奇才カクテル・三人展」(文春画廊)。2013年「鬼のいるまに」展 (いりや画廊)。2023年9月「おにのいる間に」展 (神田アジギャラリー)。AAF オートモビル・アート連盟会員。東京都在住
インタビュアー/山内トモコ
やまうちともこ/TOKYO-FMパーソナリティを20年以上つとめ、インタビューした人1000名以上。映画評論家・品田雄吉門下生。ライター&エディター
