クルマを題材に、油彩画でスーパーリアリズムの絵画表現を追求する田邉光則さん。クローズアップで対象を捉え、クルマの新たな魅力を引き出す作品を発表しています。
ご紹介の2作品は、田邉さんが得意とする「赤」の表現。そして、1970年代、子どもたちを熱狂させたスーパーカーブームのエピソードは、当時を知る読者には大いに共感する体験談です。
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作品の素材は1点とも、キャンバスに油彩です。今回のテーマはボディの「艶(つや)」です。
油絵具を薄く塗り重ねる「グリザイユ」と呼ばれる古典絵画の技法、「スフマート」と呼ばれる「ぼかし」技法を駆使して、クルマの魅力を引き出すことに力を注ぎました。
作品①は、2025年制作の『ポルシェ911ターボ』です。
ボクは1967年生まれで、子どものころからスポーツカーが好きでした。きっかけとなったいちばんのインパクトといえば、小学校時代の「スーパーカーブーム」でした。とにかくもう夢中でした。筆箱や下敷き、カードにプラモデル、中でも当時1回20円だった「ガチャガチャ」の『スーパーカー消しゴム』に熱中しました。お小遣いのほぼすべてをガチャガチャに費やしてしまい、親に怒られました。
「BOXYのボールペン」でスーパーカー消しゴムを飛ばして、友だちとその距離を競ったり、画用紙でサーキットを作ってレースをしたり、そんな他愛もない遊びがとても楽しい少年時代でした。
ボクのお気に入りはポルシェ930ターボで、なぜかカウンタックやBBよりも930が好きでした。そのDNAを引き継いだ964ボディのモデルを描きました。この作品のモチーフは、つくばサーキットのイベントで取材したものです。
実は、911ターボは、5年前に一度同じ構図で描きましたが、満足いく仕上がりになりませんでした。一昨年、AAF オートモビル・アート連盟作品展で、大先輩の空山基さんから仕上げに関しての貴重なアドバイスをいただき(内容は企業秘密)、今回の作品を仕上げることができました。
空山さんはボクの恩師である上田薫先生がデザイナーをしていた頃、一緒に仕事をしていた時期があったそうで、ボクにとって「オジキ」のような存在です。これも先生が紡いでくださった縁かと感じました。
2台のクルマの赤い絵の具の調合は、上田先生直伝のレシピで行っています。
作品②は、2023年制作の『チシタリア202クーペ』です。イタリアのカロッツェリア(デザイン工房)ピニンファリーナがデザインを手がけた「イタリアの小さな宝石」と称賛される流麗なクーペは、ボクの大好きなクルマの1台です。
このクルマを知ったきっかけは、古い雑誌の表紙です。まさに「ひと目惚れ」でした。1940年代後半、第2次世界大戦後に誕生した「イタリアの虫たち」とよばれる多種多様な小排気量のスポーツカーの中で、他のメーカーとは一線を画する洗練された美しさを持つチシタリア202クーペにボクの心は釘付けとなりました。
ボクは作品に取りかかる前に、必ず実車を取材します。「湘南ヒストリックカークラブ」の名士が主催する「西家鼎談」という知る人ぞ知るクルマ好きの紳士たちが集う社交場にこのクルマのオーナーがいて、快く取材を引き受けてくださいました。
ボディ、ボンネット、フェンダー、ヘッドライトなどを一体化させ、面を滑らかに連続させたフラッシュサイドという技法。その完成形を目の当たりにしたときの感動は、何物にも代えがたい体験でした。そして、このクルマの最大の特徴であるフェンダーとヘッドライトが一体化した部分をストレートに真正面から描きました。
いまは、クルマがいちばんカッコよく見える角度は「左斜め45度」という「魔性の角度」からの作品に取り組んでいます。今年11月に銀座で開催する個展で発表する予定です。
ぜひ原画を鑑賞していただければうれしい限りです。
たなべみつのり/1967年、茨城県出身。1992年、茨城大学大学院教科教育専攻美術教育専修修了。1990年、一陽展・特待賞受賞、以降毎年出品。第23、24回現代日本美術展出品。2007年、AXIS GALLERYにて個展。2022年、銀座にて個展。愛車はアバルト595コンペティツィオーネ。 一陽展会員、AAF オートモビル・アート連盟会員。茨城県結城市在住
インタビュアー/山内トモコ
