チューニングパーツメーカーの老舗、HKSのグローバル営業戦略課に勤務する細田優太さんをゲストにお迎えして、「Z世代のチューニング意識」についてお聞きしました。
イベントやSNSで“クルマ好きのZ世代”を見ているとカスタマイズカーやチューニングカーに関心がある層も多いと感じます。そんなZ世代のクルマ好きは他の世代と違いはあるのでしょうか? チューニングパーツメーカーの老舗HKS(エッチ・ケー・エス、本社・静岡県富士宮市)で、営業部グローバル営業戦略課に勤務する細田優太さんと対談して、“チューニングカーに対する考え方には世代による違いがある”ことがわかりました。
細田さんは筆者と同学年世代で、現在はHKSで取材対応や自社SNS運用はもちろんのこと、東京オートサロンの出展プロジェクトなども手掛けています。幼少期からお父様の影響でクルマ好きだったそうですが、当初はチューニングカーよりもモータースポーツ観戦がクルマと最も接する機会だったとのこと。そんな彼がHKS、そしてチューニングという存在を知ったのはゲームの[グランツーリスモ4]を通じてでした。

ほそだゆうた/1998年生まれ。埼玉県出身。大学にて心理学を学んだ後、2020年にHKSに新卒入社し一貫して広報業務を担当している。趣味はドライブ旅行と温泉めぐり、冬はスノーボード。クルマはジャンル分け隔てなく好きで、愛車遍歴も日産シーマからホンダ・シビック・タイプRやダイハツ・エッセ、TVRキミーラを経て現在はBMW M3(E46)
「幼少期にいろいろなレースゲームで遊んだのですが、その中でもとくにグランツーリスモ4は印象的でした。さまざまなクルマが登場するのはもちろんですが、実在のチューニングパーツメーカーが複数収録されていて、その中に弊社もありました。ゲームを通じて、クルマをチューニングすると速くなること、そしてHKSという会社を知りましたね」
筆者もグランツーリスモ4をプレイして幼少期を過ごしましたが、ボクたち世代にとってグランツーリスモは単なるレースゲームではなく、どんな国にどのような自動車メーカーがあるのかを知ることが出来る“バーチャル上の自動車図鑑”であり、どんなチューニングをすればどのような変化がクルマに起きるかを知ることが出来る“とても楽しい参考書”だったのです。
細田さんはご自身で調べたり、映像媒体などを通じてチューニングを知っていったそうです。そして「チューニングをすれば日本車は世界のスーパースポーツとも渡り合えるハイパフォーマンスカーになる……つまり日本のチューニングカーはジャイアントキリングな存在になれると気づきました。そこに心を打たれましたね」
ジャイアントキリング……その言葉は日本のチューニングカーにピッタリだと筆者も思ったのですが、クルマに限らず日本の工業製品の歴史そのものを表している言葉だなとも思いました。チューニング技術や文化に関しては日本が最も進んでいるとされることが多いですが、それは日本の工業製品に“ジャイアントキリング”というDNAがあるからこそでしょう。
「弱い者が強い者に勝つ……そんな日本人が好きなロマンがチューニングカーにはあるんです」と細田さんは語っていました。HKSをはじめとした日本のチューニングメーカーが得意とするターボ技術は「小排気量で大排気量に勝つ」というまさにジャイアントキリングなメカニズム。世代が違っても日本人として好きなものの方向性は大きく変わっていない、だからこそ若い世代のクルマ好きにもチューニングカー好きが多いのではないかと発見した瞬間でした。

にしかわしょうご/1997年生まれ、富士スピードウェイの近くで生まれ育つ。大学時代から自動車ライターとして活動開始。さまざまなメディアで自動車記事を執筆。定期的なサーキット走行や自身でのモータースポーツ参戦を通して運転技術の鍛錬も忘れない。目指すは「書けて、喋れて、走れる自動車ジャーナリスト」。2026-2027日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
大学は文系の学科へと進んだ細田さん。自動車関係への就職を考えていたそうですが、当初はHKSは検討していなかったとのこと。ところが、文系出身でも就職できる自動車関連企業や職種を調べていたときにたまたまHKSで募集があるのを発見し、応募したそうです。
「幼少期から知っていた企業であり、日本チューニングのパイオニアであることは選んだ大きな理由ですが、マイカーにメーカーの縛りがないというのも選んだ理由になりました。やっぱり好きなクルマに乗りたいですしね。正直にいえばいま乗っているBMW・M3に使える自社製品はオイル・プラグしかないです(笑)」
日本のチューニングカーといえば、世界的には“JDM”という言葉で親しまれている90’sスポーツカーが人気です。当時は若者でも手の届くスポーツカーが多く存在しており、SNS上でもそれを羨ましがる現代の若者の声をよく見かけます。それでも細田さんは「昔はいまほど道路網がよくなかったし、音楽もスマホをクルマに繋げて好きには聞けませんでした。プラスマイナスで考えたらさほど変わっていないと思うんです」と語っています。
これは筆者も強く共感していることであり、自動車メディアを通じて、Z世代の1人として届けたい声のひとつです。もちろん、昔が羨ましい部分もありますが、クルマを被写体にしてこだわった写真をSNSにアップしたり、そうしたSNSを通じてクルマ仲間の交流の輪が広がったりと“昔はできなかったこと、現在だからできること”があるので、「プラスマイナスで見れば変わらない」という細田さんの考えには強く共感しているのです。そして何より現代のクルマ好きな若者は世間が思っているよりも多くいるとクルマのイベント取材に行くとより強く感じます。
最後にイベント現場で実際のユーザーともコミュニケーションを取る細田さんに「Z世代ユーザーは他世代とどんな違いがある?」と聞くと「性能よりも目に見えてチューニングしているという分かりやすさを求めている人が多い気がします」と返ってきました。わかりやすい例でいえばマフラーエンドのカラーで、若者世代はチタンの焼き色を好むのに対し、そのほかの世代はマットな金属らしい色合いを好む傾向が多いとのこと。簡単にいえば「性能よりも見た目重視」なのです。
技術と性能を売り続けてきたHKSとしては、このような背景を考えると、ユーザーをどのようにして次世代へ繋げていくかが課題と感じているとのこと。そのためWebやオートサロンの展示では「わかりやすさ」、SNS発信では「親しみやすさ」を重視しているそうです。オートサロンでは多くの製品を並べると同時にHKSのオイルカラーを全面に出すなど、わかりやすさを重視した展示を展開。
SNSでは「毒キノコ」の愛称で親しまれている商品“スーパーパワーフロー”の収穫……といったような遊び心のある投稿を行っているそうです。そのようなアプローチの甲斐あってか、「SNSを見てきました!」という若者の来場者も多くいたとのこと。各自動車関連企業のSNSを見ていても、親しみやすさは重要な要素の1つだと筆者も感じていて、大きな老舗も人間が動かしている企業であることを感じられるツールがSNSだと考えています。親しみやすさが持てれば、次世代への認知に繋がっていく……これは自動車業界全体で取り組むべきものなのかもしれません。
前回に引き続き、着目しておきたい言葉があります。それは「ロマン」です。クルマにロマンを感じる……というフレーズは当たり前のように感じるかもしれませんが、私たちZ世代も同様なのです。これはきっと、世代を超えてクルマ好き共通のものなのだと思い始めています。
