※本記事は雑誌『CAR and DRIVER』(2026年8月号)の巻頭コラム「from Editors - カー・アンド・ドライバー編集部の視点」より抜粋したものです
一昨年の認証不正問題、昨年の日産との経営統合協議、そして今年、またしてもホンダが世間を賑わせた。電動化戦略見直しによる2兆5000億円もの損失可能性ともなれば、経済メディアをはじめ一斉に大きく報じるのは当然のこと。その多くはネガティブな内容で、「ほれみたことか」と上段から構えた論調や、経営責任を問う声も聞こえてくる。
しかし、株主ならまだしも、まったくの外部の者からすれば、所詮は他人事である。経営陣に対して、結果責任は一定問われるにせよ、今後想定される負け戦から撤退する、というのは極めて妥当な判断であり、むしろ私見としては、よくやったな、とさえ思うところだ。
ホンダが掲げた四輪電動化戦略が、いかに大きな挑戦であるかは誰の目にも明らかだった。最初から多くの人がそれに対して冷ややかであったのは間違いない。それでもホンダは突き進んだ。2年前のコラムで、当時三部敏宏社長と直接交わした会話の中で「(エンジンの)研究はやめない、残す」という言葉を受け、「正義のダブルスタンダード」だと表現させてもらった。そのダブルスタンダードに、ホンダという大企業としての“大きさ”は感じていたが、今回の戦略変更によって、ある種の“強さ”が実証されることになった。
かつて本田宗一郎が最前線で活躍していた時代、1960年代後半、高性能な空冷エンジン開発の技術的追求をするも玉砕、そして技術者の第一線から引退。しかし、ホンダはその直後にマスキー法を世界で初めてクリアしたCVCCエンジンを世に出すことで、一躍大成功を収めることになる。最近の電動化戦略に当てはめてみれば、この先ホンダに何が起こるのか、どうしても期待したくなる。
その後の開発が途絶えた空冷エンジンの大失敗とは違って、電動化技術の開発はいまもなお続いている。過去そしてこれからも顧客への大きな価値提供と、会社への巨額の利益をもたらすハイブリッド技術についてもそのひとつだ。つまり、四輪電動化については、技術的に不要または非効率、という話ではなく、モーターやバッテリーといったハードウェア、そして制御・統制を担うソフトウェア、いずれの技術もこれからさらに進化し続けていくし、それに対するニーズが高まっている。エンジニアリング視点でみれば、何ひとつ無駄はないのだ。
ホンダには、技術開発に飽くなき挑戦を続ける、優秀なエンジニアたちが多くいる。それは過去も現在も同じであって、対外的にもその認識があるからこそ、ホンダに対して希望を抱く理由のひとつになっている。
希望と期待を抱いているからこそ、何かうまくいかなかったときに周囲は騒ぎ立てる。興味がない対象が何をしても、人々が騒ぐことは起こり得ないからだ。つまり、この騒動の正体は、ホンダに対する期待の裏返しなのである。
カー・アンド・ドライバーの編集会議はつねに“ワイガヤ”の場である。その名前こそホンダ発の文化として知られているが、方法論自体はあらゆる企業で行われてきたことだ。今月号のホンダ特集は、厳しい声と期待の声、両方をフラットに扱おうと考え、恒例の「CDワイガヤ会議」を2軸で設定した。所要時間は2時間×2回、計4時間ほどではあったが、非常に有意義な議論ができた。
振り返ってみれば、やや厳しめの論調が多かったかもしれない。ただ、少なくとも、これは前述の「期待の裏返し」であって、“非難”ではなく正しい意味としての“批判”なのである。各人が“情熱”を持って言いたいことを言い切った先にある、“冷静”をもたらすこと。これが今回の特集にかけた一番の想いなのである。
文/山本善隆(CAR and DRIVER / FM STATION 統括編集長)
<プロフィール>やまもとよしたか/1980年東京都生まれ。ITコンサルティング会社、自動車Webメディア企業、広告会社を経て、マーケティング会社にて企業の戦略立案・事業開発支援業務に従事後、2020年に独立。2021年より現職。クルマを運転する時間が一日の中で最も好き。1995年以降は大のF1ファン。日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員
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