※本記事は雑誌『CAR and DRIVER』(2026年10月号)の巻頭コラム「from Editors - カー・アンド・ドライバー編集部の視点」より抜粋したものです
かつて“クルマ道楽”といえば、過激なモータースポーツや高額なコレクションといった、一部の富裕層の世界というイメージが強かったと思う。あるいは、絶対額の問題というよりは、収入に対してクルマにかける費用が格段に高い場合にも使われる。ただ、そもそも“道楽”という言葉自体が俗語的にはそういった悪いニュアンスではあるものの、本来の意味からいえば、「悟りの悦びや楽しみ」を指すというから、カー・アンド・ドライバー編集部としてはこのいいほうの意味で捉えることにして、今回の特集づくりに臨んだ。
そして、クルマ道楽は“オトナの嗜み”であるとしたうえで、そのあれこれをまとめてみようではないか、ということで今回の特集テーマは「オトナの嗜みガイドブック」とした。
無論、オトナの嗜みは決してクルマだけではない。ただ、小誌でこのテーマを掲げるのであれば、クルマを軸にするのは必然。そして、交通インフラが充実する都心部については、「大人のクルマ離れ」も無視できない時代だ。
何度も申し上げるが、筆者としては「若者のクルマ離れ」は存在しないと思っている。若者については、単純に「届けられていない」という表現を使うのが適切である、と。しかし、40代以上の大人は違う。かくいう筆者も1980年生まれの46歳だが、同世代でさえ、20代のころにクルマに興味を強く持っている人は、少なくとも都心部ではレアなほうだった。
だからこそ、一度はこの企画をやってみたかった。経済的な購買力を持つ大人にこそ、いまあらためてクルマという存在で何かをするということを、オトナの嗜みとして捉えることを促したいと思った。さらに個人的な想いでいえば、私自身の趣味でもあるモータースポーツの普及・発展に貢献したいという気持ちも強かった。どんなに「モータースポーツをやってみよう」としたところで、その言葉を聞いた瞬間に他人事になってしまうという認識が働くのではと常々思っていた。これをどうにかしてアップデートしないと、どんなにメリットなどを伝えても、態度・行動は変わらないと思ったのだ。
ここで筆者がマーケティング業界で培った発想が出てくる。いわゆる「パーセプション・チェンジ(認識変容)」の話なのだが、多くのクルマ好きな方々にとって、現状(As-Is)のモータースポーツに対するパーセプションが「他人ゴト」としたときに、理想(To-Be)のパーセプションは「自分ゴト」とする。ここで、自分ゴト、にするためには、双方のギャップを埋める要素が必要となる。
それを今回、「オトナの嗜み」としたのだ。多くの大人にとって、現実問題としてオトナの嗜みは願望に近い存在かもしれない。だからこそ、「ガイドブック」という表現をもって、「これから目指そう」という真面目な人に向けて、これは手元に置いておこう、という気持ちになってもらいたいのだ――と少々押し付けがましいかもしれないが、それだけの思いを込めて、今回の特集を作った、ということだけは伝えておきたい。
もうひとつ、新しいチャレンジをした。表紙には他社が発行する自動車専門誌『Tipo』のロゴが鎮座する、という異色のコラボレーションである。日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員会の加盟媒体としてのつながりもあったので、同誌・佐藤考洋編集長にこのコラボ企画を思いついたとき、ダメ元で思い切って直接相談してみたところ、二つ返事で快諾していただけたのだ。
お互いの読者像はきっと異なる、けれど別モノとはいえないはず。と、競合発想ではなく、共創発想での取り組みが実現できたのだ。すべては「よりよいコンテンツを届けるために」である。
文/山本善隆(CAR and DRIVER / FM STATION 統括編集長)
<プロフィール>やまもとよしたか/1980年東京都生まれ。ITコンサルティング会社、自動車Webメディア企業、広告会社を経て、マーケティング会社にて企業の戦略立案・事業開発支援業務に従事後、2020年に独立。2021年より現職。クルマを運転する時間が一日の中で最も好き。1995年以降は大のF1ファン。日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員
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