スズキは、10年先を見据えた技術戦略において、環境負荷の低減と、ユーザーにとってのクルマの価値向上を両立させる技術開発を進めている。同社が重視するのは、必要なエネルギーや資源をできる限り少なくする「エネルギー極少化」という考え方だ。
その基盤となるのが、「小・少・軽・短・美」の技術哲学である。製品をコンパクトに、使用する資源を少なく、車体を軽く、開発期間を短くし、より美しく仕上げる。こうした考え方を車両の開発から製造、使用、リサイクルまで一貫して適用することで、ライフサイクル全体の環境負荷を抑えることを目指す。
電動化についても、バッテリーEV(電気自動車)だけに選択肢を絞るのではなく、ハイブリッド車や高効率エンジン、カーボンニュートラル燃料などを組み合わせる「マルチパスウェイ」を推進する。地域ごとのエネルギー事情やインフラ、ユーザーの使い方に応じて最適な技術を提供することで、現実的なCO₂削減を追求する方針だ。
カーボンネガティブへの挑戦――排出削減からCO₂回収へ
スズキの環境技術で注目したいのが、CO₂の排出量を減らすだけでなく、排出されたCO₂を回収して活用する「カーボンネガティブ」技術への挑戦である。
高効率エンジンや電動化によってエネルギー消費を抑えても、化石燃料を使用する限り、走行時のCO₂排出を完全になくすことは容易ではない。そこで同社は、既存のクルマに後付けできるCO₂回収装置を開発し、排出ガスに含まれるCO₂を捕集して農業に利用するという新たなアプローチを検討している。
クルマから回収したCO₂を農業に活用
構想のポイントは、軽トラック「スーパーキャリイ」などを対象に、走行時に発生する排出ガスからCO₂を回収し、農作物の栽培に役立てることだ。
植物は光合成によってCO₂を吸収し、成長に必要な有機物をつくる。この性質を生かし、クルマから回収したCO₂を農業分野に供給できれば、排出物を単に処理するのではなく、農作物の生育に役立つ資源として活用できる可能性がある。たとえば、施設園芸などでCO₂濃度を適切に管理し、作物の生育を促す用途が考えられる。
既存車両に後付けできる仕組みを目指している点も重要だ。新しい車両への全面的な置き換えを待たず、すでに使われているクルマを活用できれば、技術の適用範囲を広げられる可能性がある。一方、装置を搭載しても車両の性能を損なわないことや、回収装置の小型化、回収したCO₂の貯蔵・運搬・供給方法など、実用化に向けた課題は少なくない。
スズキは技術戦略の中で、この取り組みを実験段階の技術として位置づけ、エンジンベンチで試作品の評価を進めている。したがって、現時点で農業利用によるCO₂削減効果や収量向上が実証されたと捉えるのではなく、今後の技術開発が期待される挑戦と見るべきだろう。
モビリティと農業をつなぐ資源循環へ
クルマの環境対策は、走行中の排出量を減らす取り組みだけでは完結しない。スズキが目指すCO₂回収技術は、移動のために使われるクルマと、食料生産を担う農業を結びつけ、排出されたCO₂を新たな用途へ循環させようとするものだ。
小型・軽量化や電動化による排出削減を進めながら、回収・利用という次の可能性も探る。こうした複数の手段を積み重ねる姿勢は、地域の実情に合わせて環境課題の解決を目指すスズキの技術戦略を象徴している。実用化には回収効率やコスト、環境負荷全体の評価が欠かせないが、クルマを移動手段にとどめず、地域の資源循環に役立てる発想は、今後のモビリティの可能性を広げる取り組みといえる。
