【魅力あるクルマ】モータースポーツ挑戦で得た知見をフル投入した本格派、トヨタGRヤリスの戦闘力

GRヤリスRZハイパフォーマンス。2024年春発売予定(価格未定)。進化型はこれまでのチャレンジで得た成果を積極投入。エンジンを305ps/400Nmにパワーアップし、8速ATを新設定。新開発されたATはスポーツ走行用の専用制御を盛り込んだ意欲作。リア:ランプ形状も一新された

GRヤリスRZハイパフォーマンス。2024年春発売予定(価格未定)。進化型はこれまでのチャレンジで得た成果を積極投入。エンジンを305ps/400Nmにパワーアップし、8速ATを新設定。新開発されたATはスポーツ走行用の専用制御を盛り込んだ意欲作。リア:ランプ形状も一新された

進化版はすべてが速いエボリューションモデル

 GRヤリスは、セリカGT-FOUR以来となる20年ぶりのスポーツ4WDである。そう記すと2台の関係性が気になるが、「モータースポーツでの勝利を目指した強い思い」以外に、残念ながらメカニズムなどの共通性はない。開発責任者の齋藤尚彦氏は「GRヤリスの開発スタート時、トヨタにはスポーツ4WDの「技術」も「技能」も失われていました。すべてをゼロから学ぶ必要がありました」と語っている。

 また、マスタードライバーの豊田章男氏は、当時AWDの運転訓練をセリカGT-FOURではなくスバル・インプレッサWRX・STI(GRB)で行っていた。豊田氏は「ラリーの練習に励んでいた経験から、スバルの素晴らしいAWD技術を肌で感じてきました」と語る。その裏を返すと「セリカGT-FOURでは通用しない」と感じていたのだろう。齋藤氏は「これは非常に悔しい出来事でした。ですがわれわれにスポーツ4WD作りのノウハウがないので仕方ないこと。これも開発の糧となりました」と語っている。

トヨタのWRC(世界ラリー選手権)挑戦はセリカが主役だった。1987年からスタートしたグループAマシンによるWRC用にGT-FOUR(ST165型)を開発。1988年から参戦を開始し1990年にはカルロス・サインツ選手がドライバーズチャンピオンを獲得。セリカは日本車初の栄冠を得た。その後もセリカはWRC強豪マシンとして君臨。現在のGRヤリスとはメカニズム上のつながりはないが、その熱いスピリットは共通する

トヨタのWRC(世界ラリー選手権)挑戦はセリカが主役だった。1987年からスタートしたグループAマシンによるWRC用にGT-FOUR(ST165型)を開発。1988年から参戦を開始し1990年にはカルロス・サインツ選手がドライバーズチャンピオンを獲得。セリカは日本車初の栄冠を得た。その後もセリカはWRC強豪マシンとして君臨。現在のGRヤリスとはメカニズム上のつながりはないが、その熱いスピリットは共通する

 GRヤリスの開発コンセプトは単純明快、「Strong Sport Car」である。その実現のために、トヨタのルール/基準を超えた設計、データとドライバーのコメントを紐づけしたテスト方法、その場で直して乗るというスピード感、プロドライバー評価の可視化、生産直前まで止まらない「カイゼン」など、すべてにおいて従来のトヨタの常識を覆す手法が取られた。
 その評価はいわずもがな、1年でホモロゲーション獲得に必要な2万5000台の生産台数をクリア。その後も世界各国からバックオーダーを抱える受注を獲得した。

走り

インパネ

 衝撃のデビューから3年、GRヤリスは2023年の東京オートサロンで「進化型」と呼ばれる新型が登場した。一般的にモデルライフ途中のアップデートはマイナーチェンジとか、改良モデルなどと表現するが、GRヤリスは「進化型」と呼ぶ。これには明確な理由がある。

「実は当初の企画ではモデルライフ中の改良は『法規適合くらいで変える必要はない』でした。ところが、モリゾウさんに『鍛えた結果は、できるだけ早いタイミングでユーザーに還元すべき』とガツンといわれて考え直しました。これまでさまざまなチャレンジをさせてもらいましたが、挑戦しただけでは何の意味もない。どうせなら、これまでモータースポーツの世界でトライ&エラーで鍛えてきたことを、すべて盛り込んでしまえと」(齋藤)

 進化型の変更内容を見ると、車両全体にわたっていることがよくわかる。エクステリアは前後デザインを刷新。フロントバンパーは冷却性アップのため開口部が拡大され、リアバンパーは操安性に寄与する形状に変更されている。しかも何と「損傷時の補修性」まで考慮した構造になっている。

 インテリアは全面刷新。ベースとなるヤリスの面影はなくなった。インパネは上部のフラット化とルームミラーの取り付け位置変更で視界性能(とくに左前)が大きく向上。運転席側に15度傾けた操作系やバラバラだった走行系スイッチの集約で操作性もアップしている。スポーツカーにしては素っけないデザインだったメーターが、多機能のフル液晶式に変更された。従来モデルで多くユーザーから指摘されていたシートポジションはヒップポイントを25mm下げ、ステアリングやペダル位置も最適化した。

エンジンはついに300psを突破、進化型は、すべての「スポーツ純度」が高まった

 エンジンは軽量ピストン、高燃圧対応、動弁系強化などハードにも手が加えられ、272ps/370Nmから304ps/400Nmに向上。パワートレイン/EPS/エアコンなどの特性を変更できるドライブモードセレクトが新たに設定されている。

 トランスミッションは6速MTに加えて、ダイレクトシフト8速ATの追加がニュースだ。ポイントは、Dレンジで意のままの走りを実現する「完全」な自動変速だ。高トルク対応の8速ATをベースに高応答ソレノイドや高耐熱摩擦材への変更、制御はスポーツ走行用に開発された専用タイプ(ブレーキの踏み込み方・抜き方、アクセル操作を細かくセンシング)でドライバーの意思を汲み取るギア選択を可能にしている。

 ボディはスポット溶接打点を約13%増加、構造用接着剤の塗布部位を約24%拡大。走行中のアライメント変化の抑制のためにボディとショックアブソーバーを締結するボルトの本数を1本から3本に変更。これに伴いサスペンションのセットアップも見直されている。

リア

エンジン

 電子制御多板クラッチを用いた4WDシステム、GR-FOURは各モードの前後駆動配分のリファインに加え、トラックモードは走行状況に応じて可変式(60対40~30対70)が新たに採用された。

 実際に試乗すると、その伸び代はフルチェンジ並み。従来モデルユーザーなら思わず嫉妬したくなるレベル。筆者は、試乗会で買い替えを決意した。それはなぜか? 

 一般的に改良版は従来モデルのネガが消える一方で、本来のコンセプトが薄まってしまうケースが多々ある。だが進化型GRヤリスは走りの「純度」がより高まっていたからだ。たとえるならば、ワインが熟成し味わい深くなるような感覚である。

 進化型は「現時点」では最良のGRヤリス。だが「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」にゴールはない。開発チームはすでに次のステップに進み始めている。今後の展開にも注目だ。

トヨタGRヤリス主要諸元

エンブレム

グレード=RZハイパフォーマンス
価格=6MT/8SAT 未定
全長×全幅×全高=3995×1805×1455mm
ホイールベース=2560mm
トレッド=フロント:1535/リア:1565mm
車重=1280(AT:1300)kg
エンジン(プレミアム仕様)=1618cc直3DOHC12Vターボ
エンジン最高出力=224kW(304ps)/6500rpm
エンジン最大トルク=400Nm(40.8kgm)/3250~4600rpm
燃料タンク容量=50リッター
サスペンション=フロント:ストラット/リア:ダブルウィッシュボーン
差動装置=前後トルセンLSD
ブレーキ=フロント:18インチ対向4ポッドVディスク/リア:16インチ対向2ポッドVディスク
タイヤ&ホイール=225/40ZR18(ミシュランPS4S)+BBS製鍛造アルミ
駆動方式=4WD(電子制御多板クラッチ式)
乗車定員=4名

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