【時代の証言_日本車黄金時代】祝デビュー35周年! 1989年マツダ・ユーノス・ロードスター(NA型)は往年のオープンスポーツの味を鮮やかに再現

初代ロードスター(NA型)は、FRオープンスポーツを復活させた名車。カタログ冒頭で「だれもが、しあわせになる。」と記載し、心をときめかせるスポーツカーであることをアピールした。開発コンセプトは「人馬一体」。デビュー当初のパワーユニットは、1.6リッター直4DOHC16V(120ps/14.0kgm)、ボディサイズは全長×全幅×全高3970×1675×1235mmだった

初代ロードスター(NA型)は、FRオープンスポーツを復活させた名車。カタログ冒頭で「だれもが、しあわせになる。」と記載し、心をときめかせるスポーツカーであることをアピールした。開発コンセプトは「人馬一体」。デビュー当初のパワーユニットは、1.6リッター直4DOHC16V(120ps/14.0kgm)、ボディサイズは全長×全幅×全高3970×1675×1235mmだった

ステアリングを握ると自然に笑みがこぼれる

 ユーノス・ロードスターのテストドライブは、本当に楽しかった。時間を止めて、いつまでも走っていたかった。フルオープンの大きな開放感に浸って走るのはやはり素晴らしい。ワインディングロードをハイペースで飛ばす醍醐味も、それはもう最高だ。

 昔、ボクはMGAとMGBに乗っていた。兄が持っていたトライアンフTR-4も、しじゅう乗り回していた。MGミジェット、ヒーレー・スプライト、トライアンフ・スピットファイアといったクルマをマイカーにしていた友人も、ボクの回りにはいっぱいいた。
 そういったブリティッシュ・ライトウェイトスポーツは、ボクにオープンエアモータリングの素晴らしさを思い切り味わわせてくれた。スポーツカーを操縦する楽しさを教えてくれた。

 そんな過ぎた日々の楽しく懐かしい思い出を、ユーノス・ロードスターは鮮やかに再現してくれた。コクピットで風に巻かれ、テールを流しながらコーナーをクリアするたびに、ボクの目の奥には当時のいろいろなシーンが浮かんできた。体にはその感触が、まざまざとよみがえってきた。

カタログ01

正面

 ユーノス・ロードスターは、まさにあのブリティッシュ・ライトウェイトスポーツのテイストを、現代に再現したクルマといっていい。
 はるかに快適さを増し、性能アップし、ドライビングは容易になっているのだが、ユーノス・ロードスターのテイストは、根っこの部分であのブリティッシュ・ライトウェイトスポーツと強く結びついている。「クルマと一体になって走る」という点で、ブリティッシュ・ライトウェイトスポーツとユーノス・ロードスターは、まったく共通したテイストを持っている。これは素晴らしい。

 ボクはユーノス・ロードスターがすっかり気に入ってしまった。そして、早々に予約を入れてしまった。秋にはボクのガレージに、現代のライトウェイトスポーツが届くはずである。ボクは、いまから楽しみでしようがない。

キャビンは魅力たっぷり。エンジンはもうちょっとエキサイティングであってほしい

 ユーノス・ロードスターのルックスも気に入った。ちょっぴり気取っていて、ちょっぴりファニーなのだ。小型の遊びグルマにボクの求めたい要素が、しっかりと封じ込めてある。オープンにしたときのプロポーションはいいし、ソフトトップを上げたときの雰囲気もいい。しかもハードトップを装着したスタイルは最高だ。

 コクピットは心地のいいタイトさだ。乗り込んだ瞬間から、クルマと一体になって走れる期待のふくらむコクピットである。オープン感覚が豊かなのもうれしい。たたんだソフトトップは、完全にボディ内に収まるので、振り返った場合の開放感も大きい。

真横

室内

 ドライビングポジションは、まさにスポーツカーのそれだ。シートに深く腰をかけ、自然に手足を前方に突き出すと、ステアリングホイールがあり、ペダルが配置されている。シフトレバーの位置にも注文をつけるところはない。とにかく、ベストな自由度で操作できるのだ。スポーツカーにとって最も大切なポイントを、ここでもピタリと押さえている。

 シートもOKサインが出せる。人によってはもう少しタイトなホールド感覚のあるほうがいい、と思うかもしれない。だが日常的な快適さと、ハードなコーナー攻めとのバランスポイントは、ちょうどいいところを探り当てたとボクは評価している。 

 ユーノス・ロードスターはもちろんFR方式である。ノーズに積み込んでいるのは1.6リッター直4ツインカム16Vだ。
 スペックは120ps/6500rpm、14.0kgm/5500rpm。数値自体は、大して魅力的とはいえない。だからシグナルGPにしか興味のないようなドライバーには、このクルマは勧められない。

 レッドゾーンの始まりは7200rpmだが、そこまで何のストレスもなくスムーズに吹き上がる。各ギアの伸び感もなかなかいい。ただ、加速感はあまりメリハリがない。比較的淡々と引っ張り上げていく。できればもうひと息、トップエンドのパワーの伸びに、切れ味がほしい。そうすれば、もっとドキドキ、ワクワクできただろう。ワインディングロードをホットに飛ばすときのドライビングのリズムも、エキサイティングになったはずである。

走り

 ドキドキ、ワクワクの代わり、タウンスピードでの扱いやすさは優秀だ。日常的な足としてのユーノスは、とても扱い勝手がいい。だから、ちょっぴりスポーティな走りを味わえれば、あとは雰囲気を楽しむだけでいいというユーザーには、このエンジンに文句はないだろう。しかし、本格的に走りを楽しむユーザーは、もうひとつエキサイティングな方向のエンジンを望むように、ボクは思う。

 エンジンの音質についても、物足りない思いがある。何となくザラザラした感じで、透明度が不足している。ロードスターが輝きを増していくためには、このパワーフィーリングと音質は超えなければならないハードルだといっていい。

これぞFRスポーツ、シャープなハンドリングに感激

 サスペンションは前後とも、ダブルウィッシュボーン式を採用している。エンジンはフロント・ミッドにマウントした。そうすることで、50対50に限りなく近い理想的な前後重量バランスを実現している。

 ホイールベースを2265mmと短くして運動性能を高め、前後のヨーイングモーメントを小さくするなど、努力の跡がうかがえる。ハンドリング向上のための、真正面からのトライはうれしい。

 試乗車は、パワーステアリング付きだった。ハンドリングは、軽快そのもの。これこそライトウェイトスポーツだという走りの楽しさを存分に味わった。
 ステアリングを切ると、ノーズは間髪を入れず向きを変える。リアはスッと沈みながら、これまた瞬時に追従してくる。ハンドリングのゲインの高さは、ポルシェ944やRX-7を大きく凌いでいる。しかし、この高いハンドリングゲインに、無条件で拍手を贈る気にはなれない。ゲインの高さがときにドライバーをナーバスにするからだ。タイヤ温度の低い場合はとくにそうである。

走りイメージ

エンジン

 ロードスターの標準装着タイヤは、グリップの温度依存性が高め。つまり、ある程度ガンガン走り込んでタイヤ温度を上げてやらないと、グリップレベルも上がらない。
 タイヤ温度が十分に上がってくると、ゲインとグリップのバランスはぐっとよくなる。神経を使わずに、シャープなハンドリングを楽しめるようになる。コーナリング限界も高くなり、滑りの挙動は頼もしく地に足がついた、安心感のあるものに変わる。

 好ましい状態になったシーンでのハンドリングは、最高に楽しい。ドライバーは愉快そのもの。日常とは別次元の爽快な喜びに浸って、いつまでもステアリングを離したくない、という気持ちになる。
 わずかなステアリングアクションで、気持ちよくノーズは向きを変え、クルマはピタッとイメージしたラインに乗ってくれる。しなやかに、軽やかに、そしてハイスピードでコーナーを駆け抜けていく。ややアンダーぎみになったら、ステアリングを速めのアクションとともに切り増しながらパワーオンして、オーバーぎみにジワリと姿勢を変えるのもいい。アクセルを一瞬オフにしてタックインを誘い、それをきっかけにオーバーに持ち込むといった、鋭角的なコーナリングにトライするのも面白い。とにかく、自由自在。どんな姿勢にでも持ち込める。

 こんなときのロードスターの走りは、スニーカーを履いて自由に身軽に、思いのままに駆け回る……そんなイメージである。タイヤ温度の低いうちは、確かにタックインはいささか急。だがタイヤ温度が上がるにつれて、路面をしっかり踏ん張りながらテールが流れるといった、とても安定した挙動に変わる。

HTイメージ

 フルオープンボディといえば、ボディ剛性不足が心配だろう。ロードスターはその点もかなり高水準に達している。むろんクローズドボディ並みとはいかないが、ハイスピードでコーナーを攻めても不足感はとくにない。不正路面で安っぽいキシミ音、ビビリ音をたてるようなこともない。
 ハードトップを装着すると剛性感はより向上する。日常的な快適性もアップする。ルックスもゴキゲンだし、ハードトップがお勧めだ。

 ブレーキはフロントがベンチレーテッド、リアはソリッドの4輪ディスクだ。ペダルの剛性感は高く、踏み応えはしっかりしていている。
 小さな弱点くはあるが、ロードスターの魅力は絶大だ。ルックスは文句なくカッコいいし、キビキビしたハンドリングは最高。ボクは、自分のロードスターをどんな色に塗り替えようかと悩んでいる。
※CD誌/1989年8月26日号掲載

スペック

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