
6代目シビックは、初代からの生産累計が1000万台を突破した4ヶ月後の1995年9月にデビュー。“ミラクル・シビック”を名乗り、高い完成度で世界のユーザーを魅了した。開発コンセプトは「HIGH TECHNOLOGY FOR ALL OF THE PEOPLE」
「世界のベーシックカー」というコンセプトを掲げて送り出された初代シビック(1972年)には、強烈なインパクトがあった。シビックの登場によって、日本車の文化度が一気に引き上げられた……ボクはそんな気がしたものだった。シビックは、いわば今日のホンダの原点であり。日本のFF2BOX車の原点でもある。4ドアセダンの販売比率が高くなった現在でも、あくまでHBモデルがシビックの主役だとボクは思っている。
初代シビックが誕生したときの基本コンセプトは「世界のベーシックカー」だった。これはシビックが永遠に追い続けるのにふさわしいコンセプトだと思う。最新の6代目に触れ、走ってみてハッとした。シビックの初志を思い出したのである。
フロントが50㎜(衝突安全性向上のため)と、ホイールベースが50㎜(フェリオとのフロア共用化のため)、合計100㎜も全長が長くなったのにはガッカリしたし、若々しさやシャープなイメージが後退したのも不満だった。だが、乗ってみて印象は大きく変わった。世界のベーシックカーというシビック普遍のコンセプトを、改めて思い出させる中身が感じられたからだ。
ホイールベースをフェリオと揃えた理由は、主にコストダウンである。だが、長めのホイールベースはホンダのデザインアイデンティティを守りながら、世界のベーシックカーになり得るパッケージングを実現するうえで、むしろプラスをもたらしているように思えた。
VWゴルフのように背を高くして前後スクリーンの角度を立てるパッケージング手法もある。が、その場合ホンダのデザインアイデンティティはそうとう弱められてしまう。小型車のパッケージングというと。合理的で実直なVWゴルフやプジョー306が優れた例としてよく引き合いに出される。確かに優れている。間違いなく素晴らしいものだ。とはいえ、世界中の人々がゴルフや306のようなクルマばかりを望んでいるわけではないだろう。そんな意味では、新型シビックに与えられたホンダ流アプローチにボクは反対しない。
しかも、4180㎜という数値は絶対値として見ればコンパクトである。ホンダのデザインアイデンティティと世界のベーシックカーにふさわしいパッケージングを両立させるためと考えれば、この全長は許されると思う。
欧米では、実用性でプラスの評価を得た新型のほうが、スタイル優先の旧型より受け入れやすいのではないか。ただし、「日本ではどうか」となると、“?”がつく。サイズはともかく、若者の遊びクルマが中心の日本の2BOX車市場では、旧型よりインパクトが弱くなったスタイルが受け入れられるかどうか、判断に迷う。「ファッショナブルな2BOXスポーツカー」といった明快で鋭い旧型のイメージから穏やかで大人っぽいイメージになったことが若者にどう受け取られるかが、日本市場で受けるかどうかのいちばんのカギになるだろう。
新型シビック・シリーズはサイズ感、車格感、キャラクターといった点で少しマイルド志向になっている。「これだ!」という明快なイメージがつかみにくい。この点は懸念材料だと思う。しかし、広い視野で見れば、「グローバルなホンダのポジションに合わせて、“世界のベーシックカー”作りに再挑戦し、いい結果を出している」……そんな印象をボクは受けている。
シビックの大きな個性はスポーティさだ。世界のベーシックカーを目指しているとはいえ、そこはホンダの作品である。走りの実力は天下一品。イメージリーダーである3ドアHBのSiR-Ⅱにじっくり乗った印象をお伝えしよう。
エクステリアの第一印象は、「大人っぽくなったな」といったものだった。正面から見たヘッドライトのデザインには一瞬ギョッとするが、それ以外は全体に癖の少ないバランスのいいスタイルだ。質感もなかなかいい。シャープで若々しかった旧型より、ちょっと印象は弱いものの、力強さはあるし、見ていて気持ちのいいルックスである。スリーサイズは4180×1695×1375㎜と、このクラスの3ドアHBとしては大柄である。
キャビンはそうとう広い。165㎝のボクが前後に座った状態で、後席のひざ元には握りこぶしが2個半入る大きな空間が残る。ヘッドクリアランスの余裕も十分だ。リアシートのサイズもゆったりしているし、落ち着いた居住性もいい。大人4名で長距離ドライブが楽しめるキャビンだと報告しておこう。
運転席に座ってまず「いいな」と思ったのは、ボンネットが見えるようになったこと。目の前の道路が少しくらいよく見えるより、あるべきものがちゃんと見えるほうが落ち着ける。安心感もある。
SiR-Ⅱが搭載するエンジンは、いうまでもなくホンダが誇るDOHC16V・VTECのスポーツユニット(B16A型)だ。
VTECとは低速と高速でバルブタイミングとバルブリフト量を切り替え、低速性と高速性を高次元で両立させるメカニズムだ。1.6ℓのNAで170㎰/7800rpmの最高出力と16.0㎏m/7300rpmの最大トルク(MT)を発生する。リッター当たり出力は106.6㎰/ℓに達するのだから、なんともすごい実力である。
ちょっと前までなら、リッター当たり出力が100㎰を超えるNAエンジンなど、チューニングショップに大金を支払いでもしなければ入手不可能だった。やっと手に入れても、サーキットでしか走らせることができないほど手強い、柔軟性のないエンジンばかりだった。
それがいまではどうだ。こんな高性能エンジンをボクたちは149万8000円(SiR/試乗車のSiR-Ⅱは169万8000円)で手に入れることができるのだ。しかも運転免許証を取得したばかりのドライバーでも気軽に扱うことができる。技術の進歩に感謝しなければならない。
VTECの高い実力は始動するだけで、走らなくてもすぐにわかる。リッター当たり出力100㎰を軽く超えるというのに、アイドリングは滑らかそのもの。実に安定している。
そして、走り出せばさらにその威力を思い知らされた。なんと4速ギアの1000rpm(25㎞/h)でも、むずかる気配などまるでなく、スムーズに走り続けられる。ここからアクセルを踏み込んでも、ゆっくりながら、リニアに加速もしていくのだ。
もちろん高回転域は超得意。目の前が開け、アクセルをフルに踏み込むと、このエンジンは一気に8200rpmのレッドラインまで回転を上げる。一点のストレスもためらいもなく、だ。
VTEC機構が切り替わる5000rpmを超えたあたりで、パワーカーブはなんとも気持ちのいいステップ感をともなって一段と上昇し、同時にエキサイティングサウンドを奏で始める。この非日常領域のゴキゲンなサウンドと、日常領域の静粛性の高さのコンビネーションは素晴らしい。
パワー、洗練度、扱いやすさ、エンターテインメント性……どれをとっても最高のエンジンだ。「手に入れて絶対に失望しない」と声を大にして報告できる。
そして、これまたいい感じのタッチと操作性を持つ5速MTをフルに駆使しながら、ワインディングロードを攻める楽しさは格別だ。
4輪ダブルウィッシュボーン式のサスペンションは、従来ユニットをベース改良を加えたもの。ボディを含めてトータルなチューニングレベルは大きく引き上げられている。
パワーステアリングはほどよい重さ(軽さ)だ。路面からの情報を確実にフィードバックしてくれる。ハンドリングゲインはむしろ抑えぎみ。かつてのホンダ車が意図的に演出していたキビキビ感とは異種のハンドリング感覚である。
切り始めの応答が穏やかなので、無意識なステアリング操作によって、切りすぎ状態が引き起こされることはまずない。ただし、応答は穏やかだが、鈍いわけではないので心配しないでほしい。
穏やかなハンドリングゲインは、サスペンションに不必要な負担を与えないという点でもプラスをもたらしている。サスペンションはむろんそれなりに固めてあり、195/55R15サイズのタイヤもポテンザを履いていた。だが乗り心地は荒くない。リアに大きな開口部を持つHB車としては、ボディもしっかりしている。不快なキシミやビビリはほとんど出ない。とくに一般良路での乗り心地は、滑らかで心地いい。
路面の荒れが強くなってくると、さすがにホイールストロークに余裕がないといった面も出てくる。凹凸に追従しきれない脚がバタつくが、まあたいていは無難に、大した不快感も抱かせずにパスしていく。トラクション性能も高水準。少なくとも通常のドライ良路なら、170㎰を有効にスピードに変えていってくれる。しかし、限界的な領域に入ると、もうひと息フロントの能力が上がればなあ、といった印象も出てくる。リアはかなりしっかりしており、よほど追い込まない限り破綻をきたすことはない。
ブレーキは利きもフェード性もSiR-Ⅱの性能に見合っている。ただし、高Gの旋回状態からABS領域のハードなブレーキングをしたとき、フロントのアウト側への滑り出しの挙動がいささか大きい。このあたりのチューニングは、もうひと踏ん張りがほしいところだ。
シビックSiR-Ⅱは、快適な日常の足になり、長距離ドライブをハイアベレージでこなす優れたハイウェイクルーザーになり、そしていったん山岳ワインディングロードに入ればエキサイティングなスポーツカーになる。
そんな多面性を持ち、そのいずれも高いレベルでこなしてくれるのが、なんともうれしい。ホンダが作る“世界のベーシックカー”は多彩な顔を持っている。
※CD誌/1995年10月26日号掲載
