【Front Screen/安東弘樹】タワマン住まいが選ぶ理想形、それがスポーツSUVのようです

トロフェオスポーツカーのような走りのSUVが人気です。その背景は?

 先日、マセラティのニューエイジSUV、グレカーレに試乗してきました。今回は上級版のモデナ(1114万円)とトロフェオ(1520万円)のステアリングを握りました。

 実は私、スポーツカーメーカーが作る「スポーツカーっぽいSUV」の存在意義がいまひとつ理解できていませんでした。何しろ1000万円以上する、このカテゴリーのモデルを購入できる経済的に余裕がある人たちです。

 わざわざスポーティなSUVを選ばなくても、スポーツカーと使い勝手に優れたもう1台の複数所有のほうがベターではないかと考えていたのです。都市部でも駐車場を、もう1台分借りれば問題はないと思っていました。

 しかし、それは東京都内に住んだことのない私の浅はかな?考えであることが今回の試乗で判明しました。
 その理由は後述するとして、まずグレカーレの話をしましょう。ラインアップはGT、モデナ、トロフェオの3種で、エンジンの出力がグレードによって違います。GTとモデナは2リッターガソリンターボのマイルドHVを搭載。スペックはGTが300ps、モデナが330ps、トルクは両車とも450Nmです。トップグレードのトロフェオは3リッターガソリン・ツインターボ(530ps/620Nm)の強力仕様。このエンジン、基本はマセラティMC20と同じですが、少しデチューンされています。

GT

 試乗は横浜・みなとみらいの高級ホテルが拠点。私は主に首都高速道路を使って30kmほど走ってみました。当日は渋滞もなく、みなとみらい入り口から首都高に入ります。マニュアルモードにしてステアリングパドルを使い加減速を繰り返し、適度なカーブを走るのは気持ちいい体験でした。2リッターエンジンのモデナでも痛快に加速してくれますし、2トン弱の車重を、あまり感じません。官能性を感じる、とまではいきませんが適度なサウンドも聴かせてくれます。

 1時間の試乗を終え、トリップコンピュータの燃費計を見ると6.8km/リッター。300psのガソリンターボですから妥当でしょう。
 参考までに、このクルマのマイルドHVはすべて「パワー」のために使われるので、燃費向上の効果は「ない」とのこと。潔いといえますが、燃料代が高騰している折、給油時には覚悟が必要です。環境負荷が気になる方には向かないかもしれません。

 次は、MC20のSUV版、トロフェオです。試乗時間が30分と限られていましたが、モデナと同じコースを走ります。さすがに530ps、加速はパンチがあります。でも下品な素行ではありません。適度に制御が入り、安全を担保してくれます。制限速度内では、ガスペダルを床まで踏むことは不可能です。最も過激な「コルサモード」にしたときの加速や音は超刺激的。でも公道では、コルサモードはお勧めしません(笑)。トロフェオはエアサスで、足もしなやか。なお、燃費は2リッターのモデナとあまり変わらない6.2km/リッターでした。これは意外です。

走り グレカーレはどちらもよくできた万能車でした。とはいえ、この快感はスポーツカーで味わうのがベストと、どうしても思ってしまいました。

 そんな感想を広報スタッフに伝えたところ、こんな回答が返ってきました。
「実は都市部は駐車場を借りようにも、物理的に月極駐車場に空きがないんです。かなり高額のタワーマンションでも、1世帯に2台分の駐車場を確保できる物件は、まだ少ない。そうなると高収入の方でも1台のクルマで運転を楽しみながら、家族のことも考えなければならない。となると、スポーツタイプのSUVが浮上するのです。しかも、駐車場の幅の制限は1950mmという個所が多く、グレカーレのGTグレードだとギリギリ収まるので、タワーマンションにお住まいの方に多数、購入していただいています。これまでマセラティのオーナーは自営業や経営者が多かったのですが、グレカーレの場合は外資系金融会社勤務、という方が多いです。いわゆる「タワマン族」の方々です。クルマは自己表現のひとつでもあるので、他の人と違うマセラティを選んでいただいているようです」との説明でした。

「郊外に住めばさまざまなコストを軽減できるんですけどね」と私がいったところ、広報の方は「都市部に住むのも自己表現です」と返されました。妙に納得した、試乗会でした。

エンブレム【プロフィール】
あんどうひろき/フリーアナウンサー。1967年、神奈川県生まれ、元TBSアナウンサー、現在は独立し、TBSラジオ「UP GARAGE presents GARAGE HERO’s ~愛車のこだわり~」、TOKYO MX「バラいろダンディ」、MBS「朝日奈央のキラめきスポーツ〜キラスポ〜」、テレビ東京「ミライの歩き方」、bayfm78「MOTIVE!!」など多くのテレビ、ラジオ番組で活躍。趣味・特技はモータースポーツ、クルマ全般、弓道、スキー。日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)選考委員

 

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