
スカイラインGT-R(R33型)。1995年1月に登場したR33型は標準仕様(478万5000円)、Vスペック(529万円)、N1仕様(599万円)の3グレードを設定。開発陣は「標準仕様は先代R32型のエボリューションモデル、Vスペックは次期GT-Rをにらんだスーパーエボリューションバージョン、N1仕様はレースに対応したVスペックのコンペティション仕様」と説明した。Vスペックは進化したアテーサE-TSプロ、ハードサスを採用。タイヤも専用タイプを装着し徹底的に走りを追求する
「こいつの速さは並じゃない!」。新型GT-Rのステアリングを握っての第一印象がこれだった。そして、試乗を終えた後の印象もまた同じだった。
「GT-R」のバッジを付けたクルマは、いつの時代でも並外れた速さと強い刺激性を持っていた。GT-Rが、日本車としては珍しい「神話に彩られたネーム」になった理由もそこにある。GT-Rが、新しい性能の基準を創造し、他の高性能車はその基準を追い越そうと努力する……これは日本の高性能車を育ててきたひとつのパターンといっていい。日本の高性能車の歴史のなかでGT-Rが果たした役割は本当に大きなものだ。そして新しいR33型GT-R、とくにVスペックは、再び日本の高性能車の基準を引き上げる役割を担うことは間違いない。
試乗したのはイメージ色、ミッドナイトパープルのVスペックだ。走りだしてすぐ感じたのは「ずいぶん洗練された」ということだった。先代R32型のような粗削りなところは影をひそめ、街中を流すだけなら普通のクルマと大差はない。
エンジンは静かに回るし、パワーステアリングも軽い。乗り心地は固いといえば固いのだが、決して粗くはない。あくまでもしっかりとした感触と滑らかな動きに支えられた固さである。不快感を感じることはまったくない。この走り味、乗り味なら毎日の足としても、なんら負担はない。
ハイウェイに入ると、快適性はさらに印象的になってくる。100km/hは5速ギアで2400rpmだ。このゾーンでのクルージングは静粛そのもの。105km/h(2600rpm)を超えるあたりからエンジン音は心地よいハミングを奏で、高性能車の片鱗を感じさせはじめる。だが100km/h以下のクルージングの静粛性はまるで快適なサルーン並みである。そして舗装の段差を超えるたびに「しっかりしたクルマだなぁ」と感じる。
ハイウェイクルージングの平穏を見出す唯一の要素はワンダリングだ。轍などでステアリングが取られ、すっと流れる動きには気を使わされる。が、これもある意味では、数少ない「楽しい刺激」といったとらえ方もできる。
実際、ハイウェイを流れに乗って走るときのドライバーが受ける刺激といえば、時折の追い越しとバックミラーに映り込むリアスポイラーを眺めること、そしてワンダリングに対してうまく「当て舵」を当てることくらいしかない。
あの高性能車の聖地、ニュルブルクリンク・サーキットで磨き込まれ、8分の壁を切るという素晴らしい仕事をすでに成し遂げているVスペックが、その真価を最高に発揮するのは、やはりワインディングロードだろう。ニュルで8分を切るということは大変な快挙であり、スポーツカーにとっては最高位の勲章だ。R33型GT-Rのオーナーは、高性能とともにその輝かしい勲章も手に入れることができるわけだ。一度でも空いたワインディングロードにVスペックを連れ出し、鞭を当ててみれば、勲章の重みはすぐにわかる。
しかし、あまりにもあっけなく異次元のスピード域に達してしまうことに戸惑いと、ある種の恐れを抱く人もいるかもしれない。いや、きっといるだろう。ワインディングロードでのVスペックは「とにかく、速い!」。R32型も超一級品の速さを持っていたが、新しいR33型GT-RのVスペックに乗ると明らかに次元の違う速さを体感できる。
そしてその速さは、肉体的にずっと楽なかたちでもたらされる。全開領域に入っても、音が鼓膜を強く刺激し圧迫することはないし、ステアリングが腕と肩の筋肉に大きな負担をもたらすこともない。操作系で重さを感じるところといえば、全力で踏み込む場合のブレーキ踏力だけである。
2586㏄の排気量から280ps/6800rpm、37.5㎏m/4000rpmのパワー/トルクを発揮するRB26DETT型エンジンは従来の改良版。いちばん大きく変わった点は中速域のトルクだ。
結果的に、R32型より高いギアを使える範囲がずっと広くなった。「どちらかと迷ったら、高いギアを選べばいい」とは日産のエンジニアのコメントだが、そのとおりである。
新しいRB26DETT型エンジンは、だいたい3500rpmを超えたあたりからぐいぐいと力が盛り上がってくる。このトルクバンドの広さとともに、スロットルのレスポンスのよさも素晴らしい。
大小のコーナーが連続するワインディングロードを熱く攻めるドライバーが、最も強く求める条件のひとつ――それは幅広い領域でアクセルのオン/オフに対する鋭くリニアなトルクの追従性だ。新しいRB26DETT型は、そこが大きく進化している、走りやすさと速さがともにレベルアップしているということだ。
カタログ数値上は最大トルクが1.5㎏m引き上げられたにすぎないが、実際に走ってみての違いは相当に大きい。この違いはR32型GT-Rをよく知るドライバーほど強くはっきりと感じるはずである。
新型GT-Rはエンジンだけでなく、シャシーの完成度も驚くほどのレベルに到達している。速く走るということは、エンジンの力をいかに巧みに無駄なく路面に伝えるかということ、そしてその限界がいかに高いところにあるかということにかかっている。新しいシャシーのレベルは文句なく高い。ニュルで8分を切った殊勲者もシャシーのはずである。
さまざまな要素をシステムの中に封じ込めたアテーサE-TSプロ、スーパーHICAS、ハイグリップなエクスペディアS-07タイヤ、サスペンション改良とボディ剛性の大幅な引き上げ……。Vスペックのシャシーは、速く走るためのチューニングを確かなかたちで実施している。そのレベルは高度なものであり、高性能車の新たな基準を書き換える域に達した。
中でもトラクションレベルの高さは印象的だ。これが旧R32型に対していちばん進化した部分かもしれない。それも、あくまでFRが基本という印象のトラクションである点が素晴らしい。パワーの多くは後輪側から路面に伝えられ、前輪はそのぶん、ドライバーの意図した方向を正確にトレースする余裕が増えている。
R32型は、横剛性にしてもキャンバー剛性にしても、とくに前輪側の能力の余裕度はそれほど大きくはなかった。それがコーナリング限界に枠をはめてしまっていたところがあった。
R33型にしても天井知らずというわけにはいかないが、前後ともに絶対的能力はレベルアップしている。同時に、前後バランスも引き上げられている。具体的には、コーナー通過速度もコーナーから立ち上がっていく速度も大幅に速くなっているのである。
何しろちょっとしたストレートさえあれば、あっけないくらい簡単に180km/hに到達する。たとえ、上り勾配であってもだ。新型GT-Rは、ただ「いつの間にか」といった感じで、高次元のスピード領域へと突入する。その速さはこのエンジンが本当に280psしか発生していないのかと、疑問に思うほどだ。
R33型はドライバーの意識の中のスピードと実際のスピードとの間にはかなりのギャップが生まれがちだ。だから、中高速コーナーが連続し、周囲の景観が開けたような道路では、うっかりするととんでもないスピードが出ていることに気づかずにアクセルを踏み込み続けるといったことも起きやすい。Vスペックのオーナーは「自分は思ったより速く走っているかもしれない」ということをつねに念頭に置いたうえでステアリングを握る必要がある。
ところで、Vスペックはターンイン部分で少しオーバーステアサイドというか、インに速く切れ込むような動きを見せる傾向にある。手応えの比較的軽いパワーステとオーバーステア方向の速い動きとのコンビネーションは、中高速コーナーをシビアに攻めるような場合には緊張度を高める要素だ。「速さ」にポイントを絞ったとはいえ、市販モデルなら、このあたりはもう少し穏やかな動きの方向に設定した方がいいのではないか。
それと、タイヤ温度が低いときと十分に上がったときとでは、グリップ力に比較的大きな差が出る点も頭に入れておいたほうがいい。ブレンボ製のブレーキはタフで、ABS作動領域の性能も高い。いつでも安心して踏み込める。
カタログには「Vスペックは、楽しさを味わい尽くすという点では多分、一般的ドライバーの手に余る……」というコピーが誇らしげに書かれている。確かにそんなキャラクターのクルマである。優れた日常性を持ちながらも、本当の力を引き出すためにはタイトロープの上を平然と渡れるような高度なテクニックと、冷静で繊細な神経が要求されるといった側面をも持つクルマだ。
R33型が「ハコの量産車ベース」という大きなハンデを背負いながら、ニュルで8分を切る偉大な成果を上げたのは、それほどギリギリまで「速さ」を追求したということにほかならない。なかでもVスペックは「GT-R神話を絶対に守り抜く」という開発スタッフの執念にも似た思いが生み出したクルマといえる。
※CD誌/1995年2月26日号掲載
