本誌の表紙イラストを長年担当する岡本三紀夫さん。以前、クルマのボディの映り込みの表現について、うかがったことがあります。最も気をつかうのは、「光をどう捉えるか」。それはモネやマネ、セザンヌ、ルノアールなど、印象派の画家に通じる感性だと思います。印象派の巨匠クロード・モネは、生涯、“光”について考えていました。岡本さんもイラストボードに向かうときは、つねに光の存在(表現)について考えていらっしゃるとお話ししていました。
「作品①のオースチンヒーレーは、ご覧のように陽が当たり、なおかつ近くにある樹木の影がボディに落ちています。樹木には多くの葉がついているので、その影を表現するには複雑な作業が伴います。クルマの近くにある葉と、少し離れた葉では距離が違いますから、影のピントがそれぞれ異なります。その影の中にも、ボディに映った周囲の景色が映り込みます。そこをいかに細かく表現するかで、作品のリアリティが決まります。
作品②は、アメリカを訪れた際に目にとまったジャガーマーク2です。カリフォルニアの太陽の下、数台のマーク2が並んでいて、作品にするときの構図を計算して撮影しました。タイヤはどれも、ホワイトウォールタイヤにシルバーのクロームメッキのワイヤーホイール。イギリスのドラマでは渋いカラーのマーク2が登場しますが、この作品では、アメリカ人好みの組み合わせを選びました。
マーク2のボディカラーはソリッドカラーと違い、ボンネット、ルーフ、複雑な形状のフロント周り、それらに映り込む空の色や周囲の景色などがメタリックカラーならではの色味に変化します。
背景は、マーク2に似合う設定をいろいろ考えて、最終的にイギリスの醸造所にたどりつきました。陽の当たり方と色合いが意外にも、少し派手めなボディカラーにぴたりと合いました。
本誌の表紙作品は、クルマのイメージに似合う景色とか風景を計算して描きます。クルマと背景の関連性が大事です。楽しみながら、悩みながら描いています」
「一般的に、デジタルで描く手法は便利ですが、ボクは絵の具を使うアナログといわれる方法でイラストボードに向かいます。手描きにこだわるのは、頭の中でまとめたアイデアを直感的に構図にしやすく、微妙なニュアンスが出しやすいから。ボクの場合、デッサンでも彩色でも、ハンドメイドのほうが自由自在です。
これからも描きたいクルマは無限にあります。ただそれらは、あくまでも個性的なボディスタイルをまとったクルマに限ります。絵心をくすぐられるデザインですね。考えてみると、ボクが絵心をくすぐられるクルマは、カーデザイナーがハンドメイドで描きおこしたデザインを尊重して設計されたクルマかな、と思います。
実は、最近発表されているクルマを見ると、長くこの仕事を続けてきたボクでも瞬間的に区別がつかない商品(クルマ)が増えているような気がします。
とくにEVなどは、各メーカーのデザインがどんどん画一化しているように思えます。理由のひとつとして、流行っているデザインの影響を受け合っているから、似たクルマが登場しているのではないか、と思います。
今後、EV技術の革新とともに、クルマのデザインの差別化は大きな課題になるかもしれません。効率か個性かを選ぶ時代から一歩進んで、効率も個性も実現する新時代のカーデザインとは何か。ボクは見てみたいです」
おかもとみきお/1951年、東京都出身。桑沢デザイン研究所を卒業。日本デザインセンターを経て、1977年からフリーランスのイラストレーターとして活動を開始。本誌カバーイラストは1984年から担当。AAF(オートモビル・アート連盟)理事長。東京都在住
やまうちともこ/TOKYO-FMパーソナリティを20年以上つとめ、インタビューした人1000名以上。映画評論家・品田雄吉門下生。ライター&エディター