※本記事は雑誌『CAR and DRIVER』(2025年8月号)の巻頭コラム「from Editors - カー・アンド・ドライバー編集部の視点」より抜粋したものです
今月号に関する編集会議のことだった。今月号では昨年同時期と同様にモータースポーツ特集を予定していたのだが、そこにひとつ課題感があった。
昨年のモータースポーツ特集は、一部の方にはご好評いただいたものの、どうもいまいち手応えがない、というか、なにか一方通行のような感覚があった。実際、クルマ好きな方々の中には“モータースポーツ”という言葉をみただけで、無意識的にまるで他人事のように感じられてしまう人も少なくないかもしれない、という話にもなり、なにかそこに至るためのブリッジとなる企画が必要だろう、ということで、モータースポーツに関連しつつ、なにか多くのクルマ好きの方々の関心事に近い企画はないか、というのが議題になっていた。
そして、前号の特集「メルセデスAMG & BMW Mを知る」の振り返りをしていたときにふと、「最近のトヨタGRはまるでドイツ勢のそれに似た存在かもしれないね」となった。もちろん、クルマの商品企画の観点からすれば、他社をベンチマークしたときに結果として、それらと同様の商品展開や取り組みになることは珍しくない。むしろガチンコでぶつけていくようなことは常套手段ともいえる。
しかし、今回着目したのはそこではなく、クルマづくりのプロセスとしての共通項、つまり“モータースポーツの知見”だった。
トヨタ自動車によるモータースポーツ活動の中心、TOYOTA GAZOO Racing(以下、TGR)は、グラスルーツカテゴリーから、トップカテゴリー、WRCやWECなどの世界選手権への参戦、そしてF1チームとの技術提携もカバーする、世界でも屈指の存在だ。もともとトヨタとしてのモータースポーツ活動の歴史は長いが、TGRとなったここ10年での進化発展は目覚ましいものがある。このモータースポーツ活動を通じた知見がフル投入されたGRブランドのクルマは、まさに本物なのである。
私たちの継続テーマ“あらためて知る”の流れからすれば、これを取り上げないわけにはいかない。欧州メーカーに負けない、確固たるスポーツ・ブランドに成長したGRの本質に迫ってみよう、ということで、今月号の巻頭企画「進化し続けるGR」が決まった。そして、そのうえで、もうひとつの特集を「モータースポーツ入門2025」として制作することになった。
本誌がここまでしてモータースポーツ特集を組むにはそれなりの理由がある。やはり、クルマ文化の中で、モータースポーツは切っても切り離せない取り組みであることに他ならない。それにもかかわらず、一部のモノ好きな人たちの趣味にとどめておくのはもったいない。少しでもクルマが好き、ならば、モータースポーツに少しでも触れていてほしい、知っていてほしい。そんな願いもあって、これを伝えていくことにこだわっている。
世界では、レースそのものを好きな人だけでなく、ひとつのお祭りとして楽しむ人が多く存在する。日本でいえば、仕事帰りに野球観戦に行くような、週末に地元チームのサッカー観戦に行くような、あるいは推しのライブや野外音楽フェスに出かけるような感覚と同じだといえばわかりやすいかもしれない。まずはその程度でいいから、より多くの人に、モータースポーツに興味関心を持って、ひいては嗜みのひとつとなってほしい。そうすればきっと、クルマのある楽しい世界がもっと広がり続ける。そう信じているのである。
文/山本善隆(CAR and DRIVER / FM STATION 統括編集長)
<プロフィール>やまもとよしたか/1980年東京都生まれ。ITコンサルティング会社、自動車Webメディア企業、広告会社を経て、マーケティング会社にて企業の戦略立案・事業開発支援業務に従事後、2020年に独立。2021年より現職。クルマを運転する時間が一日の中で最も好き。1995年以降は大のF1ファン。日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員
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