※本記事は雑誌『CAR and DRIVER』(2026年7月号)の巻頭コラム「from Editors - カー・アンド・ドライバー編集部の視点」より抜粋したものです

2012年に話題を読んだホンダの企業広告『負けるもんか』編のワンシーン。ホンダの創業当初からのプロダクトを時系列的に紹介し、画面は左にスクロールしながら2012年に向かっていく。ナレーションは「がんばっていれば、いつか報われる。持ち続ければ夢は叶う。そんなのは幻想だ」と、夢に向かって進む際には挫折や苦労・失敗が伴う現実を受け入れたうえで「だから寝る時間、食う時間を惜しんで何度でもやる。さあ、きのうまでの自分を超えろ。きのうまでのホンダを超えろ」と続き、最後に画面が転換して「負けるもんか。」のメッセージで締めくくる。この作品はACCグランプリを受賞した
クルマに求めるものはなにか。移動の自由だとか、運転の楽しみだとか、所有の喜び、あるいは資産価値などなど、その目的は多岐にわたるし、一つとは限らない。それぞれの評価要素をダイヤグラムにしたとて、その面積が広いから選ぶかどうか、といってもそれもまた違う。いずれにせよ、一般的には一家に1台、あるいは住んでいる地域によっては一人に1台となるクルマ選びには、多様な方法がある。そこに“正解”などない。
今号の巻頭企画は「いま買うべきSUV2026」と題して、いまやデフォルトともいえる中心カテゴリのSUVについて、あれやこれやとワイガヤしながら注目モデルたちについて考察しながら紹介している。もう数えるのも嫌になるほど多くの車種が存在するので、時間とページには限りがあるとして、編集部視点で“気になる”と想起されたクルマたちを“独断と偏見”によって考察した。もしご自身のクルマ選びの対象がSUVだったとしたら、参考になればと思う一方で、ぜひ自らの価値観に自信をもって“独断と偏見”を貫いてほしいとも思う次第である。
話は変わるが、今号からZ世代ジャーナリスト西川昇吾氏の連載コラム「イマドキZ世代のクルマ談義」をシーズン2として、これまでの一人語りから、業界の同世代の方との対談をベースとした企画とすることにした。弊誌が日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員に推薦し、今年もその名を連ねることになったのだが、唯一のZ世代(1997年生まれ)という稀有な属性を、「これからに期待」ではなく「いまだからこそ」というかたちで発揮してもらいたいという趣旨である。今回出演いただいた日産自動車の若きデザイナー岩片さんは、学生時代からクルマ好きで、六本木にあるカーグッズのセレクトショップ[ル・ガラージュ]にも足繁く通っており、店主からも一目置かれてたそう。この連載コラムのアップデートのアイデアは、彼との出会いがあったからといっても過言ではない。前回の当コラムでも触れたように、若者たちの中にもクルマ好きは大勢いる。そして、その声を“見える化”したかったのは必然であり、必要だったのだ。
そして、最後にぜひ触れておきたいのは、ホンダのことである。3月に発表した2年間で最大2.5兆円もの巨額損失見込みの件である。あれだけ推進してきたEV振り切り戦略を大幅に見直すという大転換は大きな物議を醸し、さまざまな厳しい言葉が大手新聞やSNSで飛び交っている。確かに結果責任でいえば大変なことだと思う。しかし個人的には、手元に潤沢なキャッシュがある今だからできた、というドライな見方を持ちながらも、「これは大したものだ」と大変上から目線ながら思っていた。
というのも、自ら掲げた方針を、会社を守り、前に進めるため、恥を忍んで堂々と取り下げたというのは、なかなか出来ることではない。これは決して脊髄反射してはならないと思った。与えられた情報だけ切り取って騒ぐのではなく、当事者視点を知り、本質を見極めたい。だからこそ、毎年恒例となった“ビジネスアップデート”は注目の記者会見だった。
詳細は本誌をお読みいただくとして、ここでは会見後に行われたフォローアップMTG終了後、たまたまエレベーターでも一緒になった三部社長とのやりとりをぜひ共有しておきたい。
筆者:「ところでF1はやめちゃったりしないですかね?」
三部社長:「絶対やめない。この状況でやめるわけがない。あ、でも、もし勝ったらやめるかもだけど(笑)」
私には本田宗一郎の名言「負けるもんか。」という2012年の広告コピーを思い出させる瞬間だった。そして、「ああ、この方も本当に“ホンダらしさ”を持つ人だな」とも感じたのだった。
文/山本善隆(CAR and DRIVER / FM STATION 統括編集長)
<プロフィール>やまもとよしたか/1980年東京都生まれ。ITコンサルティング会社、自動車Webメディア企業、広告会社を経て、マーケティング会社にて企業の戦略立案・事業開発支援業務に従事後、2020年に独立。2021年より現職。クルマを運転する時間が一日の中で最も好き。1995年以降は大のF1ファン。日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員
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https://www.caranddriver.co.jp/book/117567/
