
トヨタGRヤリスRZハイパフォーマンス・エアロパフォーマンスパッケージ(26式)/価格:6MT 553万2200円/8SAT 588万2200円。26式GRヤリスはモータースポーツ参戦で得た学びを反映。ステアリングホイール/EPS/タイヤ足回り/快適装備が進化した。エクステリア面は25式と同じ。タイヤは専用開発のBSポテンザ・レースを装着
山本善隆(本誌、以下山本) そもそもGRというブランドは、トヨタにとってどういう位置付けになるのでしょう。
西村直人さん(以下西村) 出発点はGAZOOレーシングです。車両としては、2010年に登場したノア/ヴォクシーのG’sが最初。2014年には86にGRMNが設定されました。そして昨年のジャパンモビリティショー2025(JMS2025)で、トヨタはブランドの4本柱を打ち出しました。トヨタ、レクサス、センチュリー、そしてGRです。4本柱の一角を占めるというのが重要なポイントで、その代表モデルがGRヤリスとGRカローラ。ヤリスはWRC(世界ラリー選手権)でも輝かしい戦績を残しているので、モデルとしての位置付けが非常にわかりやすいと思います。
山本 GRヤリスは、メーカーの言葉を借りると「ボーン・フロムWRC」。モータースポーツ用に開発した車両を市販化する、いわば逆転の発想での誕生でした。そのクルマが、現在のGRブランドの軸になっているわけですね。
西村 最新のGRヤリスは2026年3月に一部改良が実施され、“26式”GRヤリスと呼称されています。GRヤリスの足跡を振り返ると、まず“20式”(2020年)。最初に登場したGRヤリスは、すごく尖ったクルマでした。次が“24式”で、このモデルでDAT(8速AT)が設定されました。25式は小規模な変更で、24式との違いはあまり大きくありません。最新の26式の進化幅は予想を超えていました。試乗してGRカローラのテイストを採り入れたように感じました。公道で乗って、スポーツカーの走りをどう感じてもらうかということにGR流の味付けをしたモデルが26式なのだろうと思います。これはMTもDATも同様です。
山本 GRは1月に限定車のGRヤリスMORIZO RRを発表しています。このモデルについてはどう評価していますか。
西村 レクサスLBXにモリゾウ仕様が設定されて「その次は何か」と考えると、カローラが順当な選択肢になると思っていました。それなのにヤリスにモリゾウを設定したのは、もう少し裾野を広げたいというメッセージが込められているように感じます。
山本 GRヤリスが実際に進化を重ねる場所は、レースやラリーの現場ということになります。一般のユーザーは、その実践を通じて進化し続けているクルマを、いってみれば“最新のGRが最良のGR”だと受け止めていると思います。
ここで26式GRヤリスの改良項目を整理しておきましょう。項目としては4つあります。
①新開発GRステアリング(手のひらを理想的な位置におけるように/小径化と左右グリップ形状の最適化/各スイッチの独立配置)。
②電動パワーステアリング(EPS)の改良(トルクセンサー内トーションバーの最適化/ソフトウェアの制御変更/高負荷時でも適切なEPS作動)。
③タイヤ・足回りの最適化(新開発タイヤで限界領域でのコントロール性向上/タイヤ性能を引き出すためのショックアブソーバーの最適化)
④メーカーオプションの見直し(縦引きパーキングブレーキ選択時にシートヒーターとステアリングヒーターが装着可能に)
目玉としては新採用のステアリングホイールでしょうか。これまで通常モデルと共通だったものが、モータースポーツの現場で使いやすいように形状を変更、直径も5㎜小さい360㎜になりました。
西村 ステアリングを変更するのは、実は大変なのです。安全認証を取得しなおす必要があります。だから手間とお金がかかる。
山本 開発段階のステアリングが試乗会場に展示されていました。削っては修正を何度も繰り返したそうです。個人的には26式GRヤリスに試乗して印象に残ったのは、EPSの仕上がりのよさでした。
西村 EPSは25式でも変更していましたが、1年後に再び大きく変えるというのはすごい。ステアリング形状を変更する作業と、EPSのソフトウェアのアップデートを進める作業、そして実際に操作して改良していくという作業があるわけで、他メーカーではここまで徹底するケースはないでしょう。
もうひとつ、26式に合わせて専用タイヤを開発したという点も大きなポイントです。それまでのミシュランからブリヂストンの“ポテンザ・レース”に変更しました。素早い操作をしたときにタイヤがついてくるようにセッティングを煮詰めたそうです。ステアリング形状の変更とタイヤの変更をセットで行ったところに大きな意味がある。
山本 26式は質感の高いステアリングフィールでした。欧州車風の上質さというか、操作に対して実に素直に動くイメージです。センター付近の感触を掴みやすいので、ステアリングを右に切っている、左に切っているという実感がしっかり感じられます。
西村 26式の改善ポイントの柱は、まさにステアリング系です。速い転舵に一段とクルマがリニアに反応するよう、ステアリングホイール、EPS、タイヤをセットで変更した。
山本 試乗会場で開発ドライバーでありレーシングドライバーの大嶋和也さんが「テストコースを走行した後、ガレージにクルマを戻すときに気になった点もフィードバックした」とおっしゃっていました。今回の試乗は公道で行っています。サーキットなどでの限界走行ではない状態でも質感の高さが感じられたのは、トラック上での走りだけでなく、ちょっとしたクルマの移動にまで気を配って開発した努力が見事に反映されていたと思います。
西村 タイヤをポテンザ・レースに変更して、タイヤの当たりは従来のミシュランよりも柔らかくなった。雨でウエット状態での試乗になりましたが、速度域が低い領域で強い入力があった場合や路面がざらついている場合でもステアリングフィールがよく感じられるところがたくさんありました。一般ユーザーの皆さんが乗るシチュエーションを考慮して進化している点が、26式の特徴だと感じました。
山本 26式はこれまでGRヤリスが培ってきたものをさらに熟成させたということですね。そして今回、GRヤリス・モリゾウRR(世界限定200台、うち日本100台)も誕生しました。
西村 モリゾウRRの乗り味は、すごく間口が広い。ソフトライドとはいわないけれど、当たりが丸くて、まるでホイールベースが伸びたようなゆったりとした乗り味になっていました。
山本 私はモリゾウRRはちょっと次元の異なるものとして作られていると感じました。見た目からしてGRヤリスが持つ“やんちゃ”な部分が強調されたクルマなのかと思いきや、むしろ“落ち着き”や“奥行き”を伸ばしている印象です。うれしい驚きというか、ポジティブな感動がありました。
西村 実は私、F1マシン(1997年式アロウズのテストカーで3ペダル)に試乗した経験があります。F1は300㎞/h超の世界でスプリントレースをしているわけですが、実はすごく乗り心地がいい。二輪のMoto GPマシン(2004年式Honda RC211V)も体験しましたがこれもめちゃめちゃ乗りやすいし、乗り心地がいい。極限で走るクルマに求められる項目のひとつに「ドライバーに対して優しい」という要素がある。モリゾウRRはハードに振ったと思いきや、実は乗り心地面は優しく作っている。これは重要なポイントだと思います。このモリゾウRRはリアの減衰特性のうち縮み側を少しソフトな方向にしています。その理由は40㎞/hからでもダウンフォースを強く発生させることができるカーボン製の専用リアウイングを装着しているからです。これは見るからにレーシーな印象ですね。
山本 まさにそうですね。いろいろな意味で幅があり、とくにクルマの動的質感としては、ベストバイだと感じました。スタイリングについては好みが分かれると思いますが、その点もう1台の限定車、オジェ仕様のほうも気になる存在でしょう。
