WRCで勝つために生まれ、熟成を続けているトヨタ・GRヤリス。最新の26式(2026年モデル)ではモータースポーツ現場の声を積極的に取り入れ、専用ステアリングの採用やEPSの改良で走りの質をさらに追求。2ペダルの深化や日常域での扱いやすさも着実に向上している。 毎年のように進化していく真摯な姿勢にこそ、大ヒットの真相がある。
勝つために生まれた……とはモータースポーツ業界でよく聞くセリフですが、GRヤリスはまさにWRC(世界ラリー選手権)で勝つために生み出したマシンを、市販化したクルマ。2020年(20式)に登場し、そこから熟成を続けています。
24式(2024年)では、ドライバーファーストなコクピットへと深化、GR-DATと呼ばれる8ATモデルの追加や、272㎰→304㎰へパワーアップが図られ、25式(2025年)では、エアロパフォーマンスパッケージが登場。26式(2026年)では、GRステアリングホイールの採用、電動パワーステアリング(EPS)の改善、タイヤの性能変更など、実際に走る現場でのニーズを積極的に取り入れた改良が行われてきました。
今回試乗したモデルは26式のGR-DATモデル。2ペダルモデルを毛嫌いする方もいらっしゃいますが、何を隠そう私は2ペダル大歓迎派。10年続けているラリーでも、2018年からはあえて2ペダルを選択して参戦マシンを作ってきました。
というのも、1991年にAT限定免許が登場してからというもの、AT限定で免許を取得する方は右肩上がり。いまや新規取得者の大半がAT限定を選ぶ時代です。MTのクルマを運転できる免許を取得するには、AT限定よりも教習所で多く技能教習を受けなければならず、わざわざMTを選ぶ人は少数派になっています。
その2ペダルもDCTと呼ばれる、いわゆるツインクラッチを搭載したAT、無段変速機のCVT、そしてGR-DATのようなトルクコンバーター式などさまざまですが、サーキットでラップタイムを比較するとMTより速い!なんていうものがあるんですよね。
とくに今回のGR-DATは、Dレンジのままのパドル操作でも1速までシフトダウンするので、使える幅が広がっています。なにもモータースポーツシーンでなくても、急坂の多いワインディングロードなどでも役立ってくれることでしょう。
さて、26式でいちばん変わったのはステアリングだと思います。見た目からしてかなりスパルタンな印象ですが、このデザインは「モータースポーツでは、舵角180度でも持ち替えなしでステアリング操作を行う場面があり、これまではスイッチに触れないように配慮が必要だったから」とのこと。
実際、私も以前乗った時に、不用意なタイミングでいつの間にかステアリングスイッチを押してしまうという場面がたびたびありました。とくにラリーシーンではこういう工夫は本当に大切で、まさに現場の声をきちんと聞いて反映している証拠ですよね。
また、操舵レスポンス向上のために小径化してくれたのも、私には朗報。女性と男性では同じ身長でも体格が違いますので、小径ステアリングのほうが回しやすい傾向にあります。スイッチ類も、それぞれのスイッチを独立させた上、リング状のイルミネーションで夜間の視認性に気を配っているのも、普段使いを含めて美点だと思いました。さらに、EPSのフィーリングも変更が図られていて、モータースポーツシーンにおけるハイグリップタイヤ装着時や、高い制動力を必要とする高負荷での旋回時においても、しっかりEPSのアシストが稼働するように改良されたとのこと。
ちなみに4WDモードで、普段使いで選択することの多いノーマルモードを選択した際のアシスト力もアップされています。GRヤリスはスポーツカーといっても普段使いもするクルマですし、競技の場面でもラリーの場合はリエゾン区間という一般車両と一緒に交通ルールを遵守して走る区間もありますから、そういった際に使いやすいのはありがたいことですよね。
さてタイヤですが、上級グレードにはブリヂストン POTENZA RACEが装着されています。タイヤのライフが進んでもグリップ性能が落ちにくいことを重点に開発したとのことなので、走行性能はもちろんですが、お財布や環境にも優しい心遣いといってもいいかもしれません。もちろんタイヤの変更により、ショックアブソーバーの減衰力特性の最適化も行われています。
4WDモードは、ノーマルモード前60対後40、グラベルモード前53対後47、トラックモード前60~30対後40~70とトルク配分が可変しますが、一般道ではノーマルに対しトラックモードのほうが軽いフィーリングに感じられ、私の好みのグラベルモードではドシッと安定感が出る感じといえばわかりやすいでしょうか。試乗車は縦引きパーキングブレーキは装着されていませんでしたが、小柄な方はドライビングポジション的に普段使いでも便利なのでオススメです。
こんな風に実際の現場の声を聴いて進化を続けているのが、GRヤリスのヒットの真相に違いないのですが、すでにオーナーの方も最新式に変更できるパッケージが用意されています。
「買ってもらったらおしまい!」じゃないGRの姿勢こそが、本当のヒットの真相なのかもしれませんね。
1)WRCなど実際のモータースポーツ現場の声を積極的に取り入れ、ステアリング形状やEPSなど、走りを高める改良を絶えず続けている
2)2ペダルのGR-DATモデルを追加設定。本格的なスポーツカーでありながら、普段使いもするクルマとして一般道での扱いやすさも向上させている
3)既存のオーナーが最新式に変更できるアップデートパッケージを用意。「買ってもらったらおしまい」ではないというGRの真摯な姿勢
たけおかけい/各種メディアやリアルイベントで、多方面からクルマとカーライフにアプローチ。その一方で官公庁や道路会社等の委員なども務める。レースやラリーにもドライバーとして長年参戦。日本自動車ジャーナリスト協会・副会長。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
