竹岡圭 K&コンパクトカー【ヒットの真相】日産キックス「e-POWER+4WD+プロパイロットで安全快適ドライブ」(2024年6月号掲載)

日産のコンパクトSUV、キックスはアクティブで先進的なエクステリア、運転しやすい手ごろなボディ、広い室内空間を実現するなど、根強い人気を誇っている。2022年7月のマイナーチェンジで4WDモデルが追加設定されたが、竹岡氏はこの4WDの走りがとても好印象だと語る。すでに北米では新型が発表されたが、熟成の現行型でヒットの真相を探ってみた。

e-POWER+4WDが気持ち良く快適な走りを実現

 まだまだ続くよSUVブーム! というより、もはやSUVじゃないと売れないのではないか? といわれるくらい、相変わらず人気の高いSUV。かつてのミニバンが「プチバン/5ナンバーサイズ/LLクラス」などボディサイズバリエーションを増やし、さらに「スイングドア/Bピラーレス/ハイルーフ」などとスタイル的バリエーションを増やしていったのと同じで、SUVもサイズはもちろんのこと、クロスオーバータイプなど、スタイル的にもかなり種類が増えてきました。

 そんな中で、日産のコンパクトSUV、キックスの最大の特徴は、ズバリ他のメーカーにはないe-POWERという唯一無二のパワートレインを搭載していることです。ガソリンで発電してモーターの駆動で走る、シリーズ方式のハイブリッドカーなんですよね。

 ハイブリッドカーはザックリいうと、シリーズ方式の他に、パワーが必要なときにモーターがエンジンのアシストをしたり、場合によってはモーターだけで走行するパラレル方式。エンジン&モーターの両方の動力源を上手く使い分けるシリーズ・パラレル方式。さらには、モーター機能を持つ発電機を備え、エンジンの始動や発進をサポートするマイルドハイブリッドなどもあります。

 構成比としてはシリーズハイブリッドは種類が少なく、国産車で目立つものといえば、日産のe-POWERと、マツダのROTARY-EV(こちらはPHEV)くらいのものでしょうか。

 このシステムの特徴は、ガソリンエンジンは発電機としてしか使わないので、BEVのような走行が楽しめるという点にあります。BEV同様、停止状態からいきなりMAXトルクを立ち上げることができるので、レスポンスよく発進することもできますし、いまここで力がほしいなんていう、追い越し時の中間加速なんかもお手の物です。

 停止するときには強力な回生ブレーキを使うことができるので、ブレーキパッドも減りにくいですし、回生力を強めておけば、アクセルオフだけで減速するので、アクセル&ブレーキのペダルの踏み替え回数も減ってラクに運転できます。さらには、そうして貯めた電力をまた走行時に使えるため、いってみれば単独リサイクルのコスパのよい走りができるんですよね。

 また、最近の運転支援システムとも相性がいいんです。キックスはプロパイロットという運転支援システムを標準装備していますが、たとえば前走車の追従走行でも、瞬時にパワーが出せるために遅れずについていくので、ストレスフリーのドライブが楽しめます。

4WD仕様のe-POWERは第2世代に発展 前後2モーターで力強く、安定した走りを見せる

 今回の試乗車はX FOURという4WDモデル。キックスは、4WDの要望がメチャクチャ高かったため、2022年7月のマイナーチェンジから追加となったのですが、このときにe-POWERのシステム自体も第2世代へと進化を果たし、モーター出力とトルクが向上したので、よりパワフルでストレスフリーの乗り味を手に入れました。

 そしてこの4WDがなかなかイイんです。前輪と後輪を分けた2モーター体制なので、前後それぞれに駆動力を配分することでよりバランスの取れた安定した力強い走りができ、とくにコーナリング時の曲がりやすさなどで威力を発揮してくれます。きっと、よく曲がる4WDという印象さえ受けるのではないでしょうか。ライントレース性などは明らかにFFより上です。

 さらに、減速する際も2基のモーターを使うために、クルマの姿勢が前のめりになりにくく、より安定して減速できます。走る・曲がる・止まるというクルマの基本動作のレベルがグッと上がった感じがするんですよね。個人的には最近の4WDは安全装備のひとつという側面も大いにあると思っているのですが、悪天候時などは確実に差が出ると思います。

 加えて、アクセルペダルを離したときの減速の仕方が自然になったのも、使いやすくなったポイントですね。これは4WDだからということではなく、第2世代のe-POWER全部にいえる話ですが、回生力の立ち上がりが緩やかになりました。

 回生ブレーキの減速Gが強すぎると、ペダルを離した途端に大きく前のめりになりがちで、この動きが予測できているドライバーはいいのですが、同乗者は不意にそういった大きな動きに見舞われることになり、車酔いしやすいなんていう面があったんです。

 これが4WDならば、前後のモーターで回生するために、前のめりになりにくく、車酔いしやすいお子様と乗る機会が多い方、信号の多い市街地などでチョコチョコ乗ることが多いユーザーにも、お勧めです。

 つまりコンパクトSUVの使い方を理解し、進化させるポイントを絞り込み、ユーザーニーズに合わせて進化を続けていく。キックスの人気の秘密はここにありそうです。

キックス「ヒットの真相」

1)シリーズハイブリッドのe-POWERは、エンジンで発電し、モーターで駆動。レスポンスに優れたBEVのような走りが楽しめる

2)4WDモデルの追加で魅力がアップ。前後それぞれに駆動力を配分する技術でよりバランスの取れた安定した力強い走りを実現

3)アクセルペダルを離したときの減速の仕方が自然になって車酔いしにくくなった。コンパクトSUVの使い方を理解し進化させている

今回の試乗車はキックスの上位モデル、X FOUR ツートーンインテリアエディションで、フロントにエンジン+モーター、リアにモーターを搭載した4WDモデル(337万1500円)。ボディカラーは特別塗装色(8万2500円)のプレミアムホライズンオレンジ/ピュアブラック(2トーン)。メーカーオプションとして、インテリジェントアラウンドビューモニター+インテリジェントルームミラー(6万9300円)、ディーラーオプションとして、ウィンドウ撥水(1万1935円)、ナビレコパック+ETC2.0(35万6800円)、フロアマット(スタンダード・ブラック)(2万4800円)などを装備。オプションを含む車両総額は391万6835円である

たけおかけい/各種メディアやリアルイベントで、多方面からクルマとカーライフにアプローチ。その一方で官公庁や道路会社等の委員なども務める。レースやラリーにもドライバーとして長年参戦。日本自動車ジャーナリスト協会・副会長。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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