ホンダ・ヴェゼルは都市型クロスオーバーの代表格として安定した支持を集めている。その中で登場したRSは、SUVでありながら車高を下げるという大胆な発想を採用。立体駐車場への対応や走行安定性の向上など、実用性と走りの楽しさを両立させた仕様が特徴だ。なぜこのモデルが生まれ、支持を集めているのだろうか。
「もはやSUVじゃないと売れないのではないか!?」とささやかれるほどのSUV一択人気市場となり久しいですが、なんとなくそれも理解できる気がするんですよね。
1990年代まではオウチのクルマはセダン。そのオウチのクルマとの差別化に加え、もう少し遊び心を満たしてくれそうな、ツーリングワゴンが一大ブームになりました。その頃もすでに、コンパクトRVと呼ばれるクルマも出てきていましたが、もう少しオフロード本格派寄りだったんですよね。
その後、オウチのクルマはミニバンの時代がやってきます。その際、オウチのクルマとの差別化に加え、もう少し遊び心を満たしてくれそうなクルマとして選ばれたのがSUVでした。これには共通点として、アイポイントの高さが関係しているんじゃないかと思うんですよね。そう、ミニバンで育った世代は、アイポイントが高いことに慣れているため、SUVの方が取っつきやすいのではないかと思うんです。
というわけで、SUV市場がどんどん拡大していくにつれて、ボディサイズもカテゴリーも多種多様になり、コンパクトカーベースのSUVや、どちらかといえばシティ派のクロスオーバーSUVが登場するわけですが、そこで一大ブームを巻き起こしたのが、今回の2代目ホンダ・ヴェゼルです。
ベースはコンパクトカーのフィット。2013年に登場した初代もそれなり人気となりましたが、この頃はまだシティ派のクロスオーバーSUVのカテゴリーが、これほどまでに熟していなかったように思います。というのも、初代ヴェゼルはどちらかというと、登場当初よりもモデル末期のほうが人気があったような気さえするからです。
2代目が登場した時は、折しもクロスオーバーSUVブーム真っただ中で、ピッタリ時代にもハマりましたし、またシティ派の他車とは一線を画す抑揚感を押さえたデザインも、老若男女を問わず受け入れられ、さらにハイブリッドモデルも登場したことで、読みがバッチリハマるってこういうことなんだなぁ~、という気さえしました。
その後、2025年10月のRSの登場となるわけですが、衝撃だったのは車高を下げてきたこと。ベースとなったe:HEV・Z比で全高が45㎜下がっているのです。下がった部分はどこかといいますと、ひとつはアンテナをシャークフィンアンテナからリアガラスのプリントアンテナにしたということ。もうひとつは、RS専用のローダウンサスペンションによるものなんですよね。
SUVってたいていの場合、悪路走破性を考慮して、サスペンションのセッティングで最低地上高を上げるものなんですが、せっかくSUVとして上がっていたものを逆に下げたのが、ヴェゼルRS。実にホンダらしいポイントです。
これによって得られたメリットは、立体駐車場に入るようになったということ。一般的な立体駐車場は全高1550㎜以下に設定されている場合がほとんどなので、SUVというだけで入らない駐車場が多いんです。でもよくよく考えると、シティ派クロスオーバーSUVは、悪路なんて走らないユーザーがほとんどなので、立体駐車場が使えるほうがよほど利便性が高いですよね。
ひとつ懸念点としては、車高を下げたことにより乗り心地がどうなるのか……が挙げられます。タイヤサイズはe:HEV・Zと同じですから、RS専用のローダウンサスペンションと、それに合わせた電動パワーステアリングの専用チューニングがどうかというのが、キモになります。
さて、その結論をズバリいいますと……非常にバランスよくまとまっていました。もともとヴェゼルはSUVとはいってもそれほど車高が高いわけではないのですが、車高を下げたことにより重心高が低くなり、直進でもコーナーでも安定感が増しているのが伝わってきました。
とくにコーナーや、高速でのレーンチェンジなどでは、重心が下がった効果でボディがよじれる感じも少なくなるので、少々クイックになった舵の効きが、実にバランスよく収まっている感じ。そこまで大きな変化ではありませんから、神経質になるほどクイックというわけではなく、あくまで軽快感や爽快感が増したという感じにまとめられているのが好印象でした。
スポーツグレードというと、ついついパワーアップを期待してしまう方もいらっしゃるとは思います。ですが、このクラスのSUVの場合は思いどおり操れる特性が生み出すスポーティさと気持ちよさ、そして安全性が高まることのほうが正解だと個人的には思います。
飽きずに長くおつあきいできるよう、きちんとユーザーニーズを考えて進化させているメーカーの開発姿勢。それがヴェゼルのヒットの真相でしょう。
1)SUVながら低い車高で、立体駐車場対応という実用性を高めた発想。使い勝手を優先したホンダらしい割り切りが支持を集めた
2)専用ローダウンサスペンションとEPSチューニングで、低重心化による安定感と軽快なハンドリングを実現。スポーティさと扱いやすさの両立が魅力
3)パワーアップに頼らず、操る楽しさと安心感を高める方向で仕上げたスポーツグレード。長くつきあえるバランス重視の開発思想が響いた
たけおかけい/各種メディアやリアルイベントで、多方面からクルマとカーライフにアプローチ。その一方で官公庁や道路会社等の委員なども務める。レースやラリーにもドライバーとして長年参戦。日本自動車ジャーナリスト協会・副会長。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。
