
Siモデルは、3代目の“ワンダーシビック”と、初代“バラードスポーツCR-X”のスポーツグレードとして1984年9月に登場(発売は11月)。初代Sシリーズ以来となるハイパワー・ツインカム16Vエンジンが大きな話題を呼ぶ。カタログでは「F1テクノロジーから生まれた高性能・高感度エンジン」と表現していた
同じカテゴリーのライバルの中で、これまでのホンダ車は、ピカイチの快速だった。とくにシビック(そしてCR-X)の速さときたら、もう猛スピードとしかいようがない。同類のクルマ相手なら、ターボだろうがツインカムだろうが、まず負けたことはない。ワインディングロードでのバトルということにでもなろうものなら、ちょっとやそっとの相手では勝負にならない。それほど速いのだ。そのホンダ勢に、ダメ押しのようにさらに俊足モデルが登場した。1.6ℓ/135㎰の16バルブツインカムエンジンを積んだSiが、騒ぎの主人公だ。
Siの速さは凄い。コンパクトな軽量ボディに強力なエンジンを載せたのだから速いのは当然と思うだろうが、とにかく並の速さじゃない。鈴鹿サーキットを走って感動した。
Siの運転席に身を沈め、いよいよ試走開始。キーのひとひねりで、リッター当たり出力84.9㎰のハイチューンエンジンは、すんなり回り始める。アイドリングも、ピタッと安定している。高性能エンジンでも、ひと昔前のような気難しさはまるでない。
ウォームアップのために軽く1周を流してから、徐々にスピード上げていった。16バルブツインカムは、さすがによく回る。どの回転域からでもレスポンスは鋭い。アクセルを踏み込むと同時に、確かな加速感が背中に伝わってくる。
レッドゾーンは7000rpmから始まるが、そのラインを超えても目立った変化は起こらない。ひたすらスムーズに回り続けるだけだ。燃料カットは7500rpmで作動する。この装置を外したら、エンジンはどんどん回転を上げ続けていくに違いない。本当のレブリミットは、おそらく8000rpmあたりだろう。最高出力回転数は6500rpm。だが7000rpmまで引っ張っても十分にパワーは持続する。
トップスピードは制御装置で180㎞/hに抑えられている。実力は200㎞/hに近いはずだ。鈴鹿の第1コーナーの、はるか手前で制御装置が効いてしまう。エンジン回転数は4速の6500rpm付近だった。制御装置を外せば、そのまま加速し続けるのは間違いなさそうだ。16バルブ・ツインカムの威力を、まざまざと見せつけられた。
キミたちは、さぞサウンドもホットだろうと、わくわくしているのではないか。それがなぜか、この16バルブエンジンは、あまり刺激的なサウンドを奏でてはくれない。低く、くぐもったような音なのである。 “乾いたハイピッチなサウンド”は聞こえてこない。
Siはサスペンションにも手が入っている。おもにロール剛性アップ、ブッシュとダンパーのチューニング、タイヤの性能向上などだ。ドライブシャフトを等長にして、安定性も引き上げている、試乗車はBSのポテンザを履いていたが、サーキット用のスペシャルだった。コンパウンドは、ハイグリップ。コーナーを追い込んだときの粘りは素晴らしいものだった。これまでもコーナーでの戦闘力の高さは定評があったが、Siはさらに高い力を備えた。足のポテンシャルは間違いなく上がっている。
ハイパワー化、ハイスピード化に対応して、ハンドリングは1.5iなどより安定性重視のセッティングになっている。その分キビキビと軽快なハンドリング感はやや損なわれている。だが、コーナーで絶対的スピードを競うと、Siの足のほうがだんぜん優位に立つ。とりわけ印象的だったのは、フロントのトラクションと、リアの踏ん張りの素晴らしさだ。コーナーの立ち上がりなどでの、フロントのグリップレベルと安定度は目を見張る。リアの高いグリップ力と落ち着きにもうならされた。135㎰という強力なパワーを、見事にこなしている。
強引にコーナーを攻めても、唐突な動きなど見せない。限界的にはかなりアンダーステアが強くなる、それでも、いきなりフロントが流れ出したり、腰砕け状態に陥ったりはしない。タックインも穏やかだ。
ブレーキは強力だし、乗り心地も固めだが不快感はない。それにしても、最近のホンダの過激ぶりは実に楽しい。Siは素晴らしいクルマだ。
※CD誌1984年12月26日号掲載
【プロフィール】
おかざき こうじ/モータージャーナリスト、1940年、東京都生まれ。日本大学芸術学部在学中から国内ラリーに参戦し、卒業後、雑誌編集者を経てフリーランスに。本誌では創刊時からメインライターとして活躍。その的確な評価とドライビングスキルには定評がある。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)名誉会員
