ホンダ・ヴェゼルが、商品力を大幅に高めた。具体的には内外装デザインの一部リファインと静粛性の向上、ハイブリッド・モデルのエネルギーマネージメントの制御見直しがポイントで、販売主力のe:HEVハイブリッドはEV走行モードの拡大を図った。
これまでも好評を博していた現行型だけに、見た目の変更は小規模にとどめている。いわゆる「クーペSUV」風だった初代モデルから水平基調へと大きく趣を変えた現行型のプロポーションは、基本的に従来と同様である。ボディ同色の特徴的なフロントグリルも踏襲している。
新型はグリルを含めたフロントパンパー形状とリアコンビネーションランプのグラフィックを変更し、「クラスを超えた存在感」を強くアピール。4340×1790×1580mm(Z)の使いやすいサイズ設定はそのままに、一段と上質に進化した。
インテリアはセンターコンソールを従来のドライバーオリエンテッドな造形から対称形状の上下2段タイプに変更。これは左右両席からのアクセス性を高めるためだという。
マイナーチェンジの見どころはグレード展開の変更にもある。1.5リッター(118ps)の純エンジン仕様のG、1.5リッターエンジン(108ps)+モーター(131ps)で構成するe:HEVハイブリッド仕様のXとZという従来からのグレードをベースに、2種のパッケージを用意して選択肢を広げた。新設定モデルは「都市も自然もアクティブに楽しむ」をコンセプトにルーフレールや専用カラーの撥水・撥油機能を備えたコンビシートを採用するX HuNTパッケージと、2トーンボディカラーとグレージュの内装色を持つ「都会的なコーディネート」を意識したZ PLaYパッケージである。
今回、純エンジン仕様のFWDモデルを廃止をするなど、ホンダSUVラインアップに加わったWR-Vとの性格分けを鮮明にする車種体系に整理され、グレード選びが容易になった印象だ。
試乗レポートはFWDのZ PLaYパッケージをメインに4WDのZの印象を加えるカタチで報告しよう。
最初に乗ったPLaYパッケージのスレートグレーパール/ブラックのボディ色は、ヴェゼル初採用。ドアのロアガーニッシュを彩るブルーの挿し色が個性的で、狙いどおりの「都会的な印象」を感じた。
ドライバーズシートに腰を下ろした瞬間に好感を抱くのは、スッキリとした視界の広がり。水平基調で上面に凹凸や継ぎ目がないダッシュボード、手前に引かれたAピラー、ドアミラー周辺の「抜け」のよさがワイドな視界をもたらす。これは、従来からヴェゼルが継承してきた優れた財産である。
走り始めてすぐに実感するのは、静粛性の明確な向上。これには2つの要素が考えられる。ひとつはリファインされたe:HEVソフトウェアの効果だ。今回ハードウェアは不変ながらEV走行領域の拡大やエンジン始動/停止頻度の低減など、総合的なセッティング変更を実施した。これが好印象につながっている。もうひとつは、遮音材や防音材の拡大採用によってロードノイズやエンジン透過音が低減された点。
最新ヴェゼルはこれらの相乗効果によって日常の街乗りや高速走行シーンで「BセグメントSUVで最上級の静かさ」と表現できるレベルに到達した。
「e:HEV」と呼称するホンダのハイブリッドは、駆動力をモーターの出力でまかなうシリーズ方式をベースに高速クルージングシーンを中心にエンジン直接駆動モードを加えたシステムである。その仕上がりはなかなか見事。モーター走行とエンジン走行切り換え時でもノイズやショックはいっさい伴わない。
一方で、上り坂など負荷が高まってアクセル踏み込み量が増すと、それまでの静かさが急速に低下してしまう印象があるのも事実。従来型と比べるとその程度は明らかに小さくなっているものの、この点はヴェゼルのウイークポイントのひとつといえる。
アクセルの踏み込みに対する騒音の変化は、よりパワフルなエンジンをゆったりと回すことで大幅な改善が望めそうである。だが1.3㌧超の重量に1.5リッターの自然吸気エンジンを組み合わせる現状では、このあたりが限界なのかもしれない。音の変化幅が大きい弱点は、このクラスでは珍しく後輪をプロペラシャフトを介して駆動する4WDモデルで、より顕著だ。4WDは、「リアルタイムAWD」システムの採用で80kgほどの重量増になるからだろう。
とはいえ、ヴェゼルは際立つ動力性能や特段にシャープなハンドリング感覚が売りのモデルではない。ヴェゼルの狙いどころからすれば4WDは必須アイテムとはいえない。
「降雪地帯なので4WD性能がほしい」というユーザーでなければ、FWDのハイブリッドこそが最善の選択肢である。新しいヴェゼルをドライブして、改めてそう感じた。