
フェラーリ849テスタロッサ・スパイダー/価格:8DCT 7027万円。849テスタロッサ・スパイダーのスタイリングはフラヴィオ・マンゾーニが率いるフェラーリ・デザインセンターが造形。垂直と水平方向のラインが織りなすビジュアルは、航空分野と1970年代のレーシングカーからインスピレーションを受けたという
ところはヴィラデステ。5月に開催されたコンクール・デレガンスにひときわ衆目を集めたシルバーのスパイダーがあった。テスタロッサ・スパイダーである。ただし、その形は1980年代のそれ。ボディサイドにフィンの入ったタイプだった。マラネッロが特別にフィアットの創業家当主で影のオーナーだったジャンニ・アニエッリのためにオープンモデルに仕立てた、世界に1台の個体である。
7月初め。スペイン領カナリア諸島テネリフェ島で開かれた最新の849テスタロッサ・スパイダーもまた試乗車すべてがシルバーに塗られていた。もちろん担当者が歴史的背景を盛り込んでコンフィグレーションしたのだ。
849テスタロッサはSF90、つまりマラネッロのポートフォリオにおける最右翼=パイロットモデルの頂点に立つ量産シリーズの後継として2025年9月に登場した。クーペとスパイダーが同時にデビューしたのだが、生産の立ち上がりに時差があったため、スパイダーモデルのテストがクーペに遅れること半年後のいまになった。
フロント2+リア1の電気モーターをV8ツインターボエンジンと組み合わせて総合システム出力1050㎰を誇る。スーパーカーというより、もはやハイパーカーの領域である。お値段もスパイダーで7000万円を超えてきた(それでも日本市場が最も安い)。
SF90のスタイルが、どちらかというとそれまでのマラネッロ製ミッドシップモデルの延長線上にあったのに対して、849テスタロッサは完全に新しい。乱暴にいってしまえば最新フラッグシップのドーディチ・チリンドリと最新スーパーカーのF80を組み合わせたような造形である。赤や黄色も似合うが、シルバーのようにラインとコントラストが引き立つ色の方がしっくりくるかもしれない。
リトラクタブルハードトップのシステムと開閉作法そのものは、SF90スパイダーと同じだ。デザインだけ変えている。他にもウィンドウシールドなどはキャリーオーバーだが、クーペとはわずかに異なるデザインとし、オープン時の空力性能をクーペと同等にまで引き上げている。
クーペは海外(スペイン)でのテストに加えて、国内でも体験済みだ。その印象からして、また、SF90時代のクーペとスパイダーの関係から、今回のスパイダーもクーペと基本的に変わらぬパフォーマンスをみせると想像した。はたしてまったくそのとおりだった。ならば、青空を楽しめるほうが得じゃないか。たとえ600万円のエクストラコストを払っても……。
特徴的な峰の裏側にある小さなカバーに人差し指から薬指までの3本を引っ掛けて、ドアを開けた。切り口が見事な流線型で惚れ惚れする。ドア開口部を見て、これほど感動することなど昔はほとんどなかった。それこそ先代のテスタロッサ以来ではなかろうか。
マラネッロが特許を持つ一体成型技術によって製作されたドアを閉め、改めてコクピットを見渡す。デジタルインターフェイス時代になってようやく使い勝手の面で落ち着いたステアリングホイールや、マニュアルギアボックス時代のシフトゲートを模しつつ宙に浮いたように見えるギアスイッチベース、そしてその周囲のエレガントかつスポーティなインテリアアーキテクチャーを見て、最近のマラネッロは“ほしくなるインテリア”デザインに優れていると改めて思う。
スタートボタンを2度押すと、かわいらしい電子音が鳴る。スタート準備が整ったというクルマの返事だ。バッテリー残量が十分な場合、エンジンは目覚めない。
パーキングをBEV(前輪駆動だ)で静々と出発。音の出ないフェラーリもまた乙なもの。そう思うと俄然、ルーチェが楽しみに、という話はさておき。
早朝の港町をそのまま静かに走り抜け、オープンロードに入ってドライブモードをレースに変えた。同時にV8エンジンが眼を覚ます。そのままシームレスにエンジン駆動となり、軽やかなサウンドが背後から聞こえてきた。まずはリアの垂直ウィンドウを下げる。車体の剛性感はまるでクーペと変わらず、解放されたリアの窓から猛々しいサウンドが、ほどよいボリューム(爆音では決してない)で室内に流れ込む。この状態が最も気持ちいいかも、と思いつつ、次に速度を40㎞/hちょいまで落としハードトップを開けた。所要時間は15秒足らず。初夏の日差しが体を一気に温める。
そのまま速度を上げていく。低速域では少しきしんだが、次第に気にならなくなる。風の巻き込みはさほどではない。トノカバーブリッジの計算された形状と、特許構造のウィンドウキャッチャーが効いている。とはいえ髪の毛は乱れるから、女性には嫌われそうだ。
加速性能は超一級である。SF90でもいまなお最速レベルだから、それ以上を標榜する849の加速に不満はない。それよりクオリティが進化した。SF90ではどこかスペースシップのように移動する感覚があって、少し不安もあった。849は路面をしっかりと感じながら加速する。フロントモーターの存在をことさらに感じさせず、それでいて安定しているのだから上手い。コーナリングではフロントの動きもクリアで正確。RWDほどではないけれど、それに近い動きだった。
感心したのがブレーキフィールだ。回生を含め、さまざまな制御が入っているはずなのに、ダイレクトで潔く、さらにコントローラブル。制動もまた楽しめる。
街中からシーサイド、ワインディング、望めばアセットフィオラノ仕様でサーキットまで。849テスタロッサは、実にオールマイティなスーパースパイダーである。マラネッロは確実に前進している。
