【跳ね馬の新たな最高峰】Ferrari’s Marketing Strategy/フェラーリ849テスタロッサ、その栄光の名称が意味するもの

フェラーリはモデルの性格に基づいたプロダクト・ポートフォリオを構築。多くのファンを惹きつける緻密な戦略を展開する

フェラーリはモデルの性格に基づいたプロダクト・ポートフォリオを構築。多くのファンを惹きつける緻密な戦略を展開する

12チリンドリを中心に置き、ドライバーの志向に合致したモデルを用意

個性豊かなフェラーリを、ひとりひとりのフェラーリ・ファンへ。
個性豊かなフェラーリを、さまざまな瞬間のために。

 これはフェラーリのチーフ・マーケティング&コマーシャル・オフィサーを務めるエンリコ・ガリエラ氏が、2022年のキャピタル・マーケットデイ(3〜4年に一度開催される機関投資家向けの発表会)で宣言した同社の新しい製品戦略コンセプトである。なお、原文は英語で、ここに掲げた和文は私の意訳である。

 この戦略が意図するところは明快だ。さまざまなオーナーの、さまざまなシーンに寄り添うフェラーリをラインアップするため、多彩なモデルを取りそろえる。それが今後フェラーリの展開する製品戦略になると、ガリエラ氏は宣言したのだ。

ポートフォリオ

エンブレム

 これは取りも直さず、フェラーリが多品種少量生産の自動車メーカーになることを意味している。イタリアのマラネッロという小さな街で生産されることが宿命づけられたフェラーリが数多くのモデルを用意しようとすれば、1モデルあたりの生産台数は必然的に限られる。ただし、これはモデルごとの希少性を高めるというブランド価値を向上させるマーケティング戦略のひとつともいえる。

 一方で難しい側面も存在する。フェラーリのような小規模メーカーは、一般的に開発リソースが潤沢とはいえない。その中で多品種開発を行おうとすれば、さまざまな矛盾を招きかねない。この点は多品種少量生産を目指す小規模な自動車メーカーに共通する懸念事項でもある。しかし、フェラーリにこうした心配は無用だ。なにしろ、パワートレーンに限っても現在は自然吸気式V12エンジン、V8ターボエンジン+3モーター式ハイブリッド、V6ターボエンジン+1モーター式ハイブリッド、V8ターボエンジンの4種類を用意。これらを活用し、さまざまなパフォーマンスレベルのスポーツカーを作り出しているからである。

12チリンドリ

 そんなフェラーリのモデルラインアップは、ひとつの座標軸上に並んでいて、座標軸の左側はスポーツカードライバー向け、その対極はより熱心なパイロット(ピロート)向けと説明される。スポーツカードライバーはエレガントで控えめなデザインを求め、どちらかといえば長距離ドライブを好み、日常的なドライブでの感動を求めているのに対し、パイロットはスポーティでエクストリームなデザインを嗜好し、ドライバーの力量が試されるモデルを好み、サーキットでの刺激を追い求めるとされている。
 この座標軸を参考に、フェラーリの現行カタログモデルを順に説明しよう。

アマルフィ

プロサングエ

 座標軸のいちばん左側に位置するのがアマルフィであることはいうまでもない。デザインはエレガント性重視で、アグレッシブな印象はほとんど与えない。小さいながらも後席を備えた「2+」シートレイアウトで、現行ラインアップで唯一ハイブリッドなしのV8ターボエンジンを搭載する点も固有のキャラクターになっている。それだけに、乗り心地は快適で扱いやすい特性に仕上げられている

 その右隣に位置するのがフェラーリ初のSUVであるプロサングエ。フェラーリ初の4ドアモデルで、完全な4シーターであることを考えれば、よりスポーツカードライバー向けのモデルと位置付けられても不思議ではないが、フェラーリ伝統のV12エンジンを搭載し、カタログモデルでは唯一となるアクティブサスペンションを採用していることから、このポジションが与えられたようだ。

849テスタロッサは究極の存在。エレットリカ=ルーチェでは新たな価値を提唱か?

 座標軸のちょうど中央に位置するのが、プロサングエと同じくV12エンジンを搭載する12チリンドリ。中央ポジションと聞くとなんとなく中途半端なモデルのようにも思えるが、実際にはスポーツカードライバー向けとパイロット向けのキャラクターをバランスよく備えていることが、ここに位置付けられた理由とされる。

 ここまでは全モデルがフロントエンジンだが、続く296GTB(GTS)はミッドシップ。しかも1モーター式ながらPHEVシステムを搭載している。849テスタロッサもそうだが、フェラーリにとってハイブリッドは「エコ」というよりも「パフォーマンス向上のツール」なのだ。ちなみに830cvのハイパワーを後輪だけで受けとめるため、296は現行フェラーリの中で最も「テールハッピー」な点も特徴といえる。

12チリンドリ

296

 座標軸のいちばん右側に鎮座するのが849テスタロッサ。V8+3モーター式ハイブリッドで1050cvを発揮するのだからそれも当然だが、4WDとなるだけに296よりスタビリティが高くなる点が特徴で、その分、サーキットでの繊細なドライビングに適していることになる。実際にドライブしてその高い完成度と圧倒的な速さに感銘を受けた。

 では、今後のフェラーリはどのような方向に進んでいくのだろうか? フェラーリ初のBEVであるエレットリカ(ルーチェ)のプレゼンテーションにおいて、「最高出力はあえて1000cv程度に絞った」との説明があった。出力を重視して車重を重くするよりも軽量化を優先し、「ドライビング・スリル」を追求したというのだ。

849-01

849-02

 実は、同様の傾向は他の側面でも表れていて、一部モデルでは恒例となっていたフィオラノ・サーキットでのラップタイムを公表しなくなった。これもまた、物理的な速さよりも「ドライビング・スリル」に代表される「フェラーリ・エクスペリエンス」を重視した結果といえる。

 スーパースポーツカーのパワー競争がある種の上限に達した感がある一方で、スーパースポーツカー界にもサステナビリティという価値観が求められるようになった現在、これらは納得のいく方向性といえる。しかも、いまのフェラーリであれば、パワーに頼らなくとも魅力的なスーパースポーツカーを生み出せる。「操る愉しさ」をより重視した次世代フェラーリの誕生を期待して待ちたい。

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