
フェラーリ12チリンドリ/価格:8DCT 5674万円。V12DOHC48Vは6496ccから830ps/678Nmのハイスペックを発揮。最高許容回転数は9500rpmと極めて高く、終わることのない加速と刺激的なパワーの盛り上がりを約束する。トップスピードは340km/h
創始者エンツォ・フェラーリは頑固者であった。最も強力なエンジンを馬車と同じようにキャビンの前に置いて突っ走る。それが長らく彼のクルマ造りの主義だった。小さなエンジンをリアミッドに積み空力性能を磨いたマシンが登場し「跳ね馬」を追い越そうとしてもなお、彼はその主義を曲げることはしばらくなかった。
最強力エンジンとは、いまも昔も12気筒であり、その大きなエンジンをキャビンの前に積んだうえでスポーツカーとして理想のハンドリングを実現するためのパッケージがフロントミドシップ+トランスアクスルである。この構成を使ったクルマを市販するブランドといえば、フェラーリのほかにアストンマーティンがあるのみだ。
ドーディチ(12)チリンドリ、その名もズバリ「12気筒」と名付けたモデルは、それゆえブランドの「魂(ソウル)」であり、核心である。ブランドの聖域を象徴する絶対的なアイコンといっていい。
近年マラネッロは、自社のポートフォリオ(モデルラインアップ)をドライバー基準で語る場合が多い。最右翼はピロータ(レーシングドライバー)であり、逆はジェントルマンドライバーだ。カスタマーは十人十色、それぞれのカーライフにマッチしたモデルを用意するという彼らの最新コンセプトにそれは基づいている。
ピロータ側には849テスタロッサや296といったリアミドシップモデル、ジェントルマン側にはアマルフィやルーチェ(BEV)を位置付けた。ではドーディチ・チリンドリはどのポジションだろうか。
ど真ん中、だ。それもどっちつかずの中央、ではない。右も左もハイレベルで採り入れてのまさに核心。だからこそのブランドソウルなわけだ。1947年に登場したブランド1号車125S以来、途中BB/テスタロッサの20年間をのぞき、V12フロントミッドの2シーターモデルは、つねにブランドを象徴する存在である。
12チリンドリの心臓は、6.5リッターの自然吸気12気筒DOHC48V(830cv/678Nm)。いまの時代、バッテリーの力を借りないピュアエンジン(しかも自然吸気!)の12気筒エンジンを積んだモデルが未来永劫に続く、とはとうてい思えない。いつなんどきアストンのように過給機付きになるかもしれない、否、ハイブリッドシステム搭載へと一気に進む可能性もある。バッテリーのサイズしだいではフロントエンジンを諦めるか、もしくはシリンダー数を減らすかの決断を迫られるだろう。V12・NAのFRモデルとして12チリンドリが最後となってもなんら不思議ではない。
そんな背景を知ってもらったうえで、改めて12チリンドリの魅力について語ってみよう。12チリンドリはF12、812と続いたV12シリーズモデルの第3世代である。それまでの2世代に比べて見た目の変化はとてもドラマチックだ。もちろんF12から812への変化も大きなものだったが、デザインのベクトルとしては同じ方向性を持っていた。けれども12チリンドリはまったく違う。
フロントミッド特有のウルトラロングノーズ+スモールキャビンという成り立ちこそ共通しているが、ディテールのデザイン処理は独自。端的にいって、スポーツ性よりもエレガント性を強調した印象だ。随所に1970年代の名車、デイトナ的なデザイン、つまりブランドヘリテージを想起させつつ、たとえばリアセクション上方のデルタ造形など大胆な見せ場を盛り込んだ。
「伝統と最新」の組み合わせは歴史を継ぐものの必然的な要素であり、まさにブランドの核心であるという自覚の現れでもある。
対してツインコクピットスタイルを採ったインテリアは、一気にモダン&ラグジュアリーな仕立てになっている。そのうえでマラネッロらしいスポーティさを表現した。
ダイナミック性能も、内外装から受けるそんなイメージをストレートに表現し裏切らない。裏切られたのはむしろ812の乗り味をよく知る筆者の予想だった。12チリンドリは、先代の812より20mmもホイールベースを切り詰めた。後輪操舵も進化し、シャシーのねじれ剛性も上がっている。強力なV12エンジンはさらなる改良を受け、世界トップレベルのハイスペックを誇る。ならば見た目のエレガントさとは裏腹に、その乗り味はキレッキレであるに違いない、そう予想したのだ。
もちろん、マネッティーノ(ドライブモード)でRACEやCTオフ(そしてもちろん試してはいないけれどESCオフ)を選べば、その乗り味は予想を上回ってキレッキレに違いない。
そんな味付けは電子制御が著しく進歩したF12以降に加わった特徴である。12チリンドリは、予想を上回るパフォーマンスを実現していることは間違いない。しかも、誰もがそのスタート地点に立てるという点でフレンドリーだ。
いい意味で裏切られたのは、WETやSPORTといったモードで走り出した時、見た目のエレガントさを超えてライドコンフォートが上質だったことである。12気筒を積んだモデルはすべからく内燃機関の大吟醸だが、12チリンドリはまさに唯一の「純米大吟醸」であった。
12チリンドリには、ジェントルマンとピロータの両方を存分に満足させるポテンシャルが潜んでいる。まさに「跳ね馬」を象徴する素晴らしきブランドアイコンである。
