【日本車黄金時代】「1993スズキ・ワゴンR(E-CT21S & CV21S型)」はRVより楽しいクルマを標榜。K-CARの新たな理想像を提示した

初代スズキ・ワゴンRは、背の高いボディでスペースユーティリティを磨いたKカーのパイオニア。1993年9月にデビュー。開発当初は「個性派のニッチモデル」という認識だったが、発売されるや瞬く間に人気が爆発。Kカーリーダーの座を獲得する。画期的なパッケージングがもたらす実用性と、適度な遊び感覚が支持された要因だった

初代スズキ・ワゴンRは、背の高いボディでスペースユーティリティを磨いたKカーのパイオニア。1993年9月にデビュー。開発当初は「個性派のニッチモデル」という認識だったが、発売されるや瞬く間に人気が爆発。Kカーリーダーの座を獲得する。画期的なパッケージングがもたらす実用性と、適度な遊び感覚が支持された要因だった

長年、待ち望んでいたカジュアルベーシックが誕生した!

 ワゴンRの姿を初めて見たとき、「オッ、来たな!」「Kカーの新しい流れを作るのは、やっぱりスズキだな」といった思いがボクの頭をかすめた。そして、このスズキのチャレンジは、軽自動車が21世紀に向かって新しく、素晴らしい歩みを始めるきっかけになる……そんな思いも抱いた。

 「Kカーには革命が必要」「上級車の縮小版にしかすぎない軽自動車では、行く末が暗い」「軽自動車はミニカーの原点に返るべき」といったことをボクは言い続けてきた。そんな思いが、ワゴンRには色濃く映し込まれている。

 ワゴンRは既存車種のコンポーネントを可能な限り使い、既存のラインから送り出されるクルマである。パーツ点数の思い切った削減や、生産工程の単純・短縮化にまでは手が及んでいない。だから、価格的には画期的なレベルを打ち出すまでには至っていない。とはいえワゴンRは、将来のKカーの新しい姿をイメージさせるひとつのサンプルとして、とても説得力がある。

サイド01

サイド02

 ワゴンRのコンセプトがマジョリティに受け入れられたら……アレック・イシゴニス博士の豊かで鋭い感性が1958年に生み出したクラシックミニが、ミニカーから小型車に至る流れを劇的に変えてしまったように、あるいはフィアット・チンクエチェントが、長い間多くのイタリア人たちの素晴らしい友として愛され続けたように、素晴らしいことが起こりはしないかと考えるのだ。

 また、軽自動車の原点に立ち返ることで生み出したボンネットバンという「革命商品」アルトが、1979年に苦境に立っていた軽自動車業界を救ったように、あるいは小さなエンジンを積んではいても、コンパクトで軽量な車体、そしてリーズナブルな価格によって、気軽で身近な4WD車という新しいマーケットを創造したジムニーのように、新しいムーブメントを起こすに違いない……。ボクはいま、こんな期待をオーバーラップさせながらワゴンRを眺めている。

明快なコンセプトと骨太感が気持ちいい

 ワゴンRの商品コンセプトは、とくに新しくもなく独創的でもない。ミニカーはどうあるべきか、というテーマを真剣に追求していけば、誰もがたどり着く結論のひとつである。ただ、これまでその答えを正面から見据えて実現させたメーカーはなかった。

 1970年代、ホンダにステップバンというクルマがあった。ワゴンRを見て、ステップバンを思い出した人は多いだろう。しかしあれは、「カッコいいバン」を意図したクルマだった。完全な乗用車として企画されたワゴンRとは、形態は似ていても、持っている意味が違う。

「ボンネットが短くて背が高いクルマは、商用車であって乗用車ではない」という価値観がメーカーにもユーザーにも根強くある。そのため、この種のパッケージングが、限られたサイズの中での理想形のひとつと考えられながらも、いざ製品化という段階になると、メーカーに二の足を踏ませていた。

 しかし、とうとうその壁をスズキが破ったのである。
 アルト・ハッスルやミニカトッポのように、背の高いKカーはすでにある。これらのKカーも魅力的な存在ではある。だが、ハッスルもトッポも商用車だ。それを乗用車として乗り回すには、やはり、若さや勇気を必要とする。誰もが肩の力を抜いて乗り回すというわけにはいかない。

インパネ

 その点、ワゴンRには、そんな気負いはまったく不要だ。男性的な要素が少し強めかな、といった印象を抱かせるところがあるものの、多くの人に乗用車として受け入れられる可能性は十分にあるとボクには思える。男性的と表現したが、これは骨太で厚みのあるどっしりとした雰囲気がもたらすものだ。この点が、ワゴンRと軽のワンボックスとの決定的な違いである。またKカーというと、とかく女性好みのファニーな表情をしているものが多い、それが、男性ユーザーが軽自動車に近づきにくい雰囲気を作ってきた理由のひとつだと常々思っていた。だが、ワゴンRの骨太な印象は、こうした点にもプラスに作用するはずだ。

遊牧民

 フロントは大型のスクエアなヘッドランプが力強く個性的な表情を作り出している。短いボンネットにも心地よい力感があり、プロポーションはよくまとまっている。全高は1640〜1680mmと高いが、腰高感はない。ルーフやドア、ウィンドウ回りの造形は、全体にがっしりした印象としっかりした品質感をもたらしている。

 ところで、ワゴンRに出会ったら注意して見てもらうと面白いのだが、Cピラー回のデザインイメージは、フィアット・ウーノにとても近いように思う。次に右サイドに回って、やはりCピラー周辺を見ると、今度はVWゴルフのそれを思い出す。そして、真横からリアエンドを眺めると、そこでまた、ウーノを連想する。

 スズキのデザイナーさんにそんな話をしたら、「ええ、いろいろなクルマのいいところをいただきました」と非常に率直で爽やかな答えが返ってきた。そう、いいものはどんどん吸収すればいい。それを自分のモノとして咀嚼しまとめ上げればいいのだ。

居住性は抜群。走りも気持ちよく満足できる

 左側だけに前後ドアがあり、右側は運転席のドアだけというレイアウトには、賛否両論があるだろう。使い勝手だけを考えれば、左右両方にドアがある4ドアのほうがいい。が、あえて3ドアにチャレンジしたところに、潔くて明快なコンセプトを感じる。

 右側にドアのないレイアウトは子供を乗せるときに安心である。ドアがないためにとても有効なポケットが生まれた。もし、「ここはキミにあげるから、好きなように使いなさい」といったら、きっと子供は大喜びして、自分の宝物をいっぱい詰め込むに違いない。そんなシーンをこの一角は想像させてくれる。

ショッピングカート

 ところで、ワゴンRの乗降性だが、これは文句なく日本一!だ。いや世界一かもしれない。少なくとも、身長165㎝のボクなら地面にかかとがぴたりとつく状態でシートに横座りできる。腰をシートに運ぶ動作が楽という点で、ワゴンRのシート座面の高さはベストだ、サイドシルとフロアの高さの差も僅かだ。足の運びのよさをベストなものにしている。そのうえ、ルーフが高いため、乗降にあたって頭を下げたり腰をかがめたりする必要もほとんどない。都市型・近距離ユースが主になるミニカーとして、この乗降性の素晴らしさは大きな魅力になる。

 室内は実に広い。165㎝のパッセンジャーが前後に座った状態で、後席にはひざ元にこぶし1個半ほどの空間が残るしルーフは遥か上にある。しかも高めのシートポイントとパノラミックな視界がKカーとは思えない開放感をもたらす。同時に、がっしりした太いピラーに囲まれた空間はKカーの水準を超えた安心感を生み出している。後席に座っても、窮屈さや不安感はない。とても落ち着ける。

ベースキャンプ

 ラゲッジスペースは深さ、奥行きともにかなりたっぷりしている。そして、後席をたたむと完全にフラットな大きなラゲッジコンパートメントが出来上がり、マウンテンバイクが2台積み込めるという。助手席下のバケツ型アンダーボックスも、かなり役に立ちそうである。

 前席の感じもいい。目の位置が高く、視界が広く、運転位置からウィンドウスクリーンまでの距離が十分にあり、ルーフは高い。ダッシュボード回りのボリュームもたっぷりある。Aピラーも太い。Kカーに乗っているという感覚はほとんどない。より大きく、厚みのあるクルマに乗っているイメージだ。

 ワゴンRの居住性は従来のKカーの枠を完全に抜け出している。へたなリッターカーなどよりずっとくつろげるし、落ち着ける。「これなら中途半端な大衆車なんかやめて、ワゴンRにするか」といった選択をするユーザーがかなりいるのではないか。それだけの魅力と吸引力がこのクルマにはある。

 走りは、ハイウェイ域を含めて必要にして十分。とくに速いわけではないが、気持ちよく走る。静粛性もOKだ。取り回しのよさも抜群だ。とくに狭い場所での幅寄せや縦列駐車のしやすさはピカイチである。

ミュージックボックス

 これからのクルマには「社会とはうまくやさしく寄り添うべきだ」という宿題が突きつけられている。ワゴンRは、そんな宿題へのひとつの有力な回答といえる。

 ワゴンRを経済的で便利で日常の足としてファーストカーに使い、長距離用の少し大きなクルマ、あるいはライトウェイト・スポーツカーをセカンドカーとして持つ……。そんな知的で合理的、そして楽しいカーライフを多くの人たちが選択する方向に、日本のモータリゼーションも向っていくのかもしれない。いや、そうであってほしい。
 ワゴンRを走らせながら、そして眺めながら、ボクはそんなことを考えていた。
※CD誌1993年12月10日号 掲載

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