【特集モータースポーツ】BEV時代の希望と可能性を示してくれる“N”の世界

“ドライビングの楽しさ”が徹底的に磨き上げた

 2022年に日本の乗用車市場に復帰したHyundaiは、ブランド名称を“ヒョンデ”に変更。存在感を示している。日本では内燃エンジンを積まないZEVのみをオンラインで販売する。

 販売モデルはフレッシュだ。再上陸時点でBEVのIONIQ 5とFCEVのNEXOを、2023年からはBEVのKONAを加えた。

ヒョンデIONIQ 5 N/価格:858万円。IONIQ 5 Nは2023年の英国グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードで初公開したハイパフォーマンスBEV。“ドライビングの楽しさ”を徹底追求。日本仕様は入念なテストで最適チューニングした

 そしてこのほど、マニアを魅了するスーパーモデルが加わった。ヒョンデが手がけた高性能BEVのIONIQ 5 Nを、最高出力650㎰に由来する6月5日に開催されたN Dayで発売したのである。Nは、R&D拠点の所在地の韓国・南陽(ナムヤン)と、開発テストの舞台になるドイツのニュルブルクリンクに由来する。

 ヒョンデはモータースポーツの分野で数々の金字塔を打ち立ててきた。2012年から参戦したWRC(世界ラリー選手権)では2019年と2020年に2年連続でチャンピオンに輝き、2022年にはWTCR(世界ツーリングカー選手権)チャンピオンを獲得。ツーリングカーとスポーツカーの頂上決戦、ニュルブルクリンク24時間耐久レースでは2021〜2024年にかけてクラス優勝を遂げるなど、“闘う世界”で目覚ましい活躍を見せてきた。  Nブランドは、モータースポーツで得た技術と経験を量産車両にフィードバック。最高のエンジニアリングとドライビングの楽しさに加えて、エモーショナルかつ魅力的な経験の提供を目指している。

IONIQ 5 NはN e-Shift/N Active Sound +によりドライビングエモーションを高める変速感と心躍る走行サウンドを室内に提供。車外はBEVらしく静か。ほぼ無音で疾走する姿は印象的

 Corner Rascal(コーナリングを楽しむ)、Racetrack Capability(本気でサーキットを走れる性能)、Everyday Sportscar(高性能を毎日楽しめる)という3点をNブランドの柱とし、その具現化を目標に掲げる。

本気でサーキットを走りたくなるほど圧倒的な動力性能 巧妙に作り込まれたサウンド演出が感性を刺激する

   新登場のIONIQ 5 Nは、まさしく“Nの究極”を目指した本格派。しかも日本最適セッティングが施されている。クルマ好きの日本のユーザーが日本の道路環境においてNのパフォーマンスを満喫できるよう、一般道やワインディングロード、主要サーキットに車両を持ち込み徹底的にテストを行った。

IONIQ 5 Nは一定時間バッテリーとモーター最大出力をブーストするN Grin Boost(NGB)やドリフト走行をスムーズに行うN Drift Optimaizerなど多彩な車両セッティングが可能。各種機能は通常は地図表示の大型ディスプレイに詳細を表示。インパネ形状は標準車と共通だが、ハード走行時に脚部をサポートする専用コンソールを装着

 IONIQ 5 Nは日本でも2023年中ごろにはすでに驚くほどのパフォーマンスを見せていた。半面、乗り心地や車両の挙動で気になるところを発見。改善を図るために取り組んできた。

 結果的に、ノーマルモードでは快適な乗り心地を、ワインディングはより爽快に、サーキットではスポーツ走行を本格的に楽しんでもらえるよう、ステアリングとサスペンションのセッティングの組み合わせを日本専用に調律した。加えて今年初めには北海道に車両を持ち込み、雪道でもダイナミックで安定した走りができるように煮詰めてきた。

IONIQ 5 Nは専用カラーのパフォーマンスブルーマット(写真)など、マットカラー4種、ノーマルカラー6種のボディ色は10タイプ。「日本のEVチューニング文化の活性化」を目標にオートバックスセブンと連携。土屋圭市氏の監修のもとオリジナルパーツを開発予定

 その実力は圧倒的だ。千葉県の袖ヶ浦フォレストレースウェイと周辺の公道でテストドライブした。

 IONIQ 5 Nは、何より走りの基本性能が極めて高い。最大で478kW(650㎰)の出力と770Nmものトルクを発揮する高性能デュアル駆動モーターが生み出す動力性能は圧倒的。0→100㎞/h加速は3.4秒でクリア、トップスピードは260㎞/hを誇る。  エネルギーのマネージメントやバッテリー温度を、短時間で最高の性能を引き出すのか、トラックの走行持続性を重視するのか、走行状況に合わせて選択できるようになっている。

LEDヘッドランプはIONIQ 5のアイデンティティであるパラメトリックピクセルを造形に取り入れた意匠

 BEVでしばしば問題になる冷却性能の確保や、回生制動を駆使した高性能車に見合うブレーキ性能についても万全。また、前後の駆動力配分を任意で可変でき、後輪駆動での走行が可能になっていたり、ドリフト走行しやすいよう前後輪駆動比率と車両制御を最適化したモードも選べる。まさに完璧である。

足元は275/35R21ピレリP-Zeroと専用鍛造アルミの組み合わせ。前輪には4ピストンの大口径ブレーキを装着。回生ブレーキとスクラムを組み圧倒的な制動力を発揮する

 IONIQ 5 Nのこだわりは機能面だけではない。車内外のスピーカーが発する3種類のエグゾーストノートにより、内燃エンジン車を運転しているかのような感覚から、専用の高性能EVサウンドやジェット機にインスピレーションを受けて開発したというソニックブームサウンドまで、かつてないサウンド世界を楽しむこともできる。この仕上がりは見事。あまりに凝っていて驚かされた。

 それでいて公道をドライブすると、締め上げられていながらも路面の凹凸に合わせてよく動く足回りの仕事ぶりが素晴らしく、乗り心地が心地いいことに感心した。高速巡行時のフラットライド感も印象的だった。

 走りの面で妥協のない作り込みを行った一方で、チャデモによる急速充電をはじめナビゲーションや音声コントロールについても日本専用に開発しているあたりも抜かりはない。

各部は超高性能にふさわしい空力特性を追求。前後バンパーや大型ルーフスポイラーなど専用エアロパーツを装着。オレンジアクセント入りサイドスポイラーはシャープな造形

 高性能なBEVはすでにいくつも存在するが、ここまでサーキットを本気で走ることに特化して開発されたクルマは心当たりがない。そのうえ、サウンド演出は驚くほど完成度が高く凝っている。試乗中、「ここまで追求するのか」と感じたところがいくつもあった。

メーターはフル液晶。トラディショナルなデザインやピュアスポーツイメージなど多彩なデザインが選択できる。ステアリングホイールはハーフパンチング仕様の本革巻き。形状は操作性を徹底的に追求。ステアリング部のボタンで各種の設定が可能

 電動化の時代でも、ドライビングを積極的に楽しみたいユーザーは存在する。その思いに真摯に応えるのがNのスタッフ。IONIQ 5 Nは、BEVの大きな可能性を示す自動車史にも記憶にも残る存在である。

IONIQ 5 Nは0→100㎞/h加速3.4秒/トップスピード260㎞/hの優れたパフォーマンスとともに、ドライバーを夢中にさせる“感性性能”を追求。左のスライドはN e-Shiftの制御説明。Nブランドマネージメント室のパク・ジュンウ(Joon Park)氏は「Nブランドはコーナリング性能、サーキットを本気で走れる能力、日常もドライビングを愉しむが3つの柱。IONIQ 5 NはハイパフォーマンスBEVの新たなカタチ」と説明

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