【Z世代のクルマ談義】プロダクトがより輝く世界観をデザインしたい。クルマひと筋ではなかったからこそ見えたもの(2026年10月号)

 特定の車種を好きになる理由はさまざまですが、デザインからそのクルマを好きになる……ということはよく聞く話です。

 そんなクルマの姿形(スタイリング)を作るのがカーデザイナーの仕事ですが、今後は姿形以外の理由でクルマに興味を持ってもらうようにする。そうしたスタイリング以外の領域をデザインするのもカーデザイナーの仕事になっていくのではないか……そんなふうにマツダのデザイナー瀬能海翔さんとの対談を通じて感じました。

せのかいと:1998年生まれ、千葉県出身。プロダクトデザインに従事したいと考え、デザイン系の学部に進学。そこで「人が中に入る唯一のプロダクト」とさまざまな素材を使うことに魅力を感じカーデザイナーを志す。現在の愛車は知人を経由して購入したNA型ロードスター。カーデザインの好みは「カワイイクルマ」

 瀬能さんは1998年生まれの28歳、現在はマツダ株式会社のデザイン本部デザインクリエーションスタジオに勤めています。入社当初からカラーデザインをメイン業務として担当していて、商品改良が発表されたロードスターで国内マツダ車初採用となった新色“ジンクグリーンメタリック”は瀬能さんが入社当初から関わってきたカラーです。

 幼少期はクルマ好きであった瀬能さんですが、今日に至るまで「ずっとクルマ好きではなかった」とのこと。クルマのデザインに携わりたいと思ったのは、大学時代の教授の言葉にあったそうです。

クルマというプロダクトの特異性

「父がクルマ好きで、物心がついたときから自分もクルマが好きでした。小さいときはスポーツカーが好きで、人生初のテレビゲームはグランツーリスモ2で…そんな絵にかいたような『クルマ好きの子ども』でしたが、その熱量をずっと持っていたわけではないんです。大学はデザイン系の学部に進みましたが、『形に残るもの、プロダクトデザインがやりたい』と思ったのが理由で、『クルマのデザインがやりたい!』と最初から熱望していたワケではないんです。でもある日、大学の先生が仰っていた『クルマは人が中に入る、唯一のプロダクト』という言葉を聞いて、そこからクルマのデザインというものを意識するようになりました。そうすると、形がさまざまなのはもちろんですが、素材もさまざまなものを使っているのが魅力的で、クルマのデザインへの進路を考えるようになりました」

 クルマという存在に対して、筆者のような“クルマ好き”な人は特別な感情を抱いていると思います。しかし、そうでない人からすれば日常の景色として、とくに意識する対象ですらないものかもしれません。瀬能さんの学生時代のエピソードを聞いて、「クルマってもの凄い工業製品なのでは?」と気が付けるふとしたキッカケが、より多くの方に新しくクルマに興味を持ってもらうためには必要だと感じました。

 そんな瀬能さんがマツダを目指すと決めた原点は、学生時代に見た東京モーターショーのマツダブースだったそうです。

魅せるための演出を感じる“世界観”

「魂動デザインを全面に身にまとったマツダ 魁 CONCEPTや、VISION COUPEに心を打たれたのはもちろんですが、ブースの世界観そのものにひかれました。他では白い照明で明るくしてクルマ全体を見やすくしていたのに対して、マツダのブースは照明を絞り、黒を活かして映り込みをよく見せるところなど、デザインを大切にしている姿勢を強く感じました」

 自動車業界でもよく聞く“ブランディング”ですが、一体どんなことを指すのか。たとえば、車種単体の特徴だけでなく、メーカー全体でデザインの方向性を統一したり、クルマに対するこだわりのメッセージを打ち出したりと、そのアプローチはさまざまです。中でもマツダは10年以上前から、魂動デザインとSKYACTIV TECHNOLOGYを中心に据えたブランド価値経営を継続していますが、瀬能さんが感じた世界観の演出は、この1つであったといえるでしょう。

 燃費や利便性など明確に言語化できることだけでなく、「なんかいい」と思ってもらうための“世界観”。それは今後のクルマを取り巻く環境にもっと必要なことかもしれません。瀬能さんはそんな“世界観のデザイン”を将来的にしたいと語っていました。

“世界観のデザイン”に必要なこと

「先に伝えたとおり、クルマへの熱量がずっと高かったワケではありません。音楽や映画なども好きで、クルマはそんな好きなものの1つ…という距離感なんです。自分はそんな距離感でカーデザインを見たいなと思っています。『クルマがある世界って素敵だな』と思えるような世界観のデザインも将来的にはやってみたいなと考えているのですが、この世界観のデザインにはそういう距離感が必要だと思うのです。プロダクト単体で完結するのではなく、興味がなかった人にも『クルマと生活するのってカッコいい、素敵』と思ってもらえるような世界観をデザインして、振り向いてもらえるようにしたいです」

 これまで筆者は若者のクルマ離れに関して「クルマがある生活もいいな」と思ってもらえるような、“コト体験の提案”が必要だと考えていました。しかし、それでは少し説得力が弱いと感じていたのも事実です。そんな中、瀬能さんが仰っていた“世界観のデザイン”という言葉は、とても腑に落ちるものがありました。

テスラが構築した世界観へのリスペクト

 そして世界観のデザインの話題において、2人で「あのブランドは成功している」と共通した見解になったのがテスラです。旧来のカーマニアからは疑問を投げかけられることも多いテスラですが、先進性を全面に押し出したブランドアピールとBEVは相性がよく「テスラに乗っていることが時代の最先端でカッコいい」というイメージを作り出しています。

 実際、デザインを学んでいた大学時代の瀬能さんの友人にはテスラが気になる人が多いとのこと。このように、これまでの自動車が持っていなかった新しい世界観のデザインを瀬能さんは将来手掛けたいそうです。

 そんな、“世界観のデザイン”を将来手掛けたいと語る瀬能さん。その気持ちが日々の業務に現れていると感じさせるエピソードがありました。それは社内のプレゼンで動画を積極的に取り入れているということです。手軽に動画媒体に触れられる現代では、“世界観”を表現するために動画は最適なツールといえます。

 さらに、「将来的にはテレビCMにも携わってみたい」と語っていた瀬能さん。純粋に自身が考える世界観をより多くのユーザーに理解してもらうために、SNSやマス広告用の映像制作にもチャレンジしたいという熱意が感じられました。と同時に、デザイナーの仕事の領域がますます拡大しているとも感じました。

 クルマを知るキッカケ、興味を持つ理由、そして実車を見に行く、その一連の流れをデザイナーも参画して一緒に考えていきたいと語っていた瀬能さん。今後若い世代によって、クルマの“世界観”はどのようにデザインされていくのか……。とてもワクワクさせられる対談でした。

にしかわしょうご/1997年生まれ、富士スピードウェイの近くで生まれ育つ。大学時代から自動車ライターとして活動開始。さまざまなメディアで自動車記事を執筆。定期的なサーキット走行や自身でのモータースポーツ参戦を通して運転技術の鍛錬も忘れない。目指すは「書けて、喋れて、走れる自動車ジャーナリスト」。2026-2027日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

SNSでフォローする