アマチュアレーサーの夢を叶える【S耐チャレンジ】に参戦。プロの気分が味わえる身近なフォーマット

出場枠を確保すれば、車両とサポートスタッフはレンタルで対応可能

「3月のS耐チャレンジ初戦、エントリー始まってました。どうします??」

 2月上旬に届いた、本誌『カー&ドライバー』の統括編集長である山本善隆氏からの1通のLINEが、その後の私の人生を大きく変えた。

「S耐チャレンジ」とは、「観るだけだった憧れのレースに、今度はあなたが参加する番です」をコンセプトとした、スーパー耐久シリーズ(S耐)を運営するSTMO(スーパー耐久未来機構)が主催するアマチュア向けレースだ。

 1991年にスタートしたS耐は、参加型レースの頂点としてアマチュアドライバーに長らく愛されてきた。2021年からは、主催者が許可した「メーカー開発車両」や「特例車両」が参加できる「ST-Q」クラスが新設され、トヨタやスバル、マツダといった自動車メーカーも参加するようになり、近年ますます盛り上がりを見せている。

 S耐は、トヨタが開発を行う「水素カローラ」こと水素エンジンを搭載した「カローラ」や、カーボンニュートラル燃料といった次世代の技術を鍛える場として、勝敗だけでなく“走る実験室”としても注目されている。

 S耐人気が高まる一方で、参加台数は年々増加。日本を代表するトップドライバーたちも参加するようになったことで競技レベルも上がり、かつてのどこか牧歌的な雰囲気が失われつつあるのも事実だった。

 実は、筆者は数年前からS耐の現場で各自動車メーカーの取り組みを追いかけてきたが、年々高まるレベルの高さにどこか“他人事”のような寂しさも感じていた。「取材だけでなく、いつか出てみたい」。そんな漠然とした想いを抱きながらも「どうせ無理なんだろうな」と心のどこかで諦めていた。それはドライバーとしての技量だけでなく、金銭的にもだった。

 そんな中STMOは、レースの裾野を拡大するために2025年の最終戦富士で、S耐チャレンジを“プレ大会”として初開催。アマチュア向けとはいえ”S耐”の名前が冠された大会として、純粋に「出てみたい!」と思った。

 3〜5時間、6月の富士では24時間で行われるS耐だが、S耐チャレンジは、60分間の「ミニ耐久レース」をフォーマットとし、国内A級ライセンスを保有していれば出ることができる。

 JAF公式戦ではなく「模範走行行事」なので、FIA公認のレーシングギアは、推奨はされているが必須ではなく参加のハードルも低い。

 ただ、1チームあたりドライバーは2名1組で、ピットクルーは3名まで。予選は”本家S耐”と同じくドライバー2名の合算タイムで争われ、決勝ではピットでのドライバー交代とタイヤローテーションが必須。これはS耐の雰囲気を味わってほしいという主催者側の配慮だ。

 そのほかにも、アマチュアが参加しやすいよう「車両同士の接触はノーポイント」、「レース中の給油はナシ」とするなど安全性への配慮も行われている。レース前には、シミュレーターを使って決勝レース本番前の流れを確認できるチュートリアルも用意されているほか、タイヤ交換の講習会も行われる。

 車両はNゼロ規定をベースとし、ロールケージやバケットシート、4点以上のシートベルトやサーキット用ブレーキパッドの装着などカスタムは最低限。わかりやすくいえば、「ヤリスカップ」や「ロードスターパーティレース」といったワンメイクレースの車両そのままで出られるようになっている。

 実は、2025年の富士大会に出ようと山本氏と話しをしていたら、募集日のお昼に満枠となってしまう盛況ぶりでエントリーすることができなかったのだ。そこにきて今回の山本氏からのリベンジのお誘い。断るハズもなく、二つ返事で「出ます!」と急いでスマホのキーを叩いた。

 満枠になった前回の反省から、山本氏がその場でスマートフォンから申し込んでくれた。入力項目は名前や生年月日といった個人情報のほか、JAFライセンスの番号、レース参加回数といった簡単なアンケートだけ。車両の準備やお金、メカニックの人選や練習などは追って考えるとして、山本氏がすぐに動いてくれたおかげで今回は無事エントリーすることができた(してもらった)。参加料は12万1000円で、ドライバー2名とピットクルー3〜4名、そして競技車両1台のパスが含まれている。

 山本氏も筆者も、マツダ「ロードスター」を愛車にサーキット走行を楽しむ間柄だ。山本氏は「ロードスターパーティレース」を中心に、筆者は近年ジムカーナをメインに戦いながら、以前山本氏が所有する「RX-8」

「マツダファンエンデュランス(マツ耐)」で一緒に表彰台に登るなど、2人ともそれぞれの形でアマチュアとしてレースを楽しんできた。

 また、マツダが主催する「メディア対抗ロードスター耐久レース(メデ耐)」でもライバルチーム同士として鎬を削ってきた。ちなみに、メデ耐の予選で1000分の1秒まで同タイムを記録するほど、ドライビングの技量もほぼ同じぐらいのレベルにある。

 そんな二人だが、モビリティリゾートで毎年開催されるカートの耐久レース「K-TAI」で一緒のチームになったことが出会いの始まりだ。そのため二人とももてぎの走行経験は意外と豊富。しかし、カートで走ってはいても四輪は久しぶり。

 参加車両はパーティレース仕様の山本氏のロードスター(NR-A)があるものの、統括編集長として激務に追われる山本氏と、フリーランスライターとして駆け出しの筆者ではなかなか予定が合わず練習も準備もままならない。そうこうしている間に時間だけが過ぎていく。

 そこで今回は、「HCギャラリー」が展開する“S耐公式レンタル車両”の「ロードスター」を使わせてもらうことにした。HCギャラリーは、サーキット専用のカーシェアリングや新宿でドライビングシミュレータを運営し、前述したチュートリアルをシミュレータで提供するサービスも行っている。参考までに車両のレンタル料は13万2000円。この料金は、事前事後の整備、サーキットまでの車両搬送費、タイヤ1セットを含んでのもの。

 さらに車両だけでなく、レース本番でタイヤ交換を行ってくれるメカニックや、レース中に作戦面を指揮してくれる監督も派遣してもらった。

 そんな縁もあり、今回はHCギャラリーのシミュレータで特訓することで本番に備えることにした。筆者は元々あまりシミュレータが得意ではなかったのだが、アドバイザーの丁寧な指導や山本氏と切磋琢磨することで、徐々に感覚を掴むことができシミュレータの偉大さを体感できたのも大きかった。

 レースは3月21日〜22日にかけて予選・決勝が行われたのだが、3月20日(金)には公式の練習走行の時間も設けられていた。車両や本番サポートの一切をHCギャラリーさんにお願いしたので、ヘルメットやスーツといったレーシングギア一式を持って会場入りするだけ。

「手ぶらでスキー」ほどではないが、感覚的にはそのぐらいラフな気持ちで臨むことができるのもS耐チャレンジの大きな魅力だ。

 会場入りすると、HCギャラリーの巨大テントが出迎えてくれた。練習日はあいにくの雨だったが、こういったホスピタリティもレースを行ううえで重要となる。レースに挑戦したいと思っても、事前の準備がハードルとなり断念することも多い。S耐チャレンジは「『挑戦する心』を大切にする場所」を標榜しているが、公式レンタルまで用意され、まさに挑戦するためのハードルがさまざまな形で引き下げられていた

決勝レース中はピット内でフロントタイヤの左右交換が義務付けられている。その際、エンジンは5分以上はストップさせている必要がある

 迎えた予選。まずはAドライバーの山本氏がアタックに入る。途中ちょっとしたトラブルがありつつもクラス6番手を獲得した。クルマを乗り換え、いよいよ筆者の番となる。

 今回のS耐チャレンジは、「ヤリス」が5台、「ヴィッツ」が2台、「ロードスター」が13台、「N-ONE」が4台に、特別枠の「SC-Q」クラス(「ST-Q」クラスのようなもの)が2台の、合計26台で争われる。

 広いモビリティリゾートもてぎの本コースとはいえ、26台も同時にアタックするとなかなかクリーンラップが取れない。筆者が乗るロードスターと、140km/hでリミッターが作動するN-ONEでは大きな速度差が生じる。クリアが取れずややフラストレーションが溜まったが、その中でいかに早いタイムを出すかがカギとなる。

 結果的に筆者は5番手だったが、合算タイムでなんとクラス3位、総合でも4位からのスタートとなった。どちらか一方が速くてもダメなのが、S耐チャレンジの醍醐味だ。

 翌日はいよいよ決勝レース本番。S耐さながらのYouTube配信やグリッド上でのチーム紹介、ライブタイミングやS耐カードなど、本番さながらの演出に心が躍る。チャレンジの名はつくが、この時の気分は完全に“S耐ドライバー”である。

 フォーメーションラップを終え、ローリングスタート。スタートドライバーの山本氏がレース序盤に「SC-Y」クラスのトップをパスし、総合でも3番手に上がるなど順調に周回を重ねる。

 レース開始から30分がすぎ、いよいよ筆者へとドライバー交代の時間がやってきた。S耐チャレンジでは、ピットストップの時間が今回の場合「6分間」と設定されており、その間でタイヤ交換やドライバー交代を行わなければいけないのだが、HCギャラリーのメカニックの手早くタイヤ交換のおかげで、時間に余裕を持って作業を行うことができた。

 ピットアウトしてコースへと出る。後ろから山本氏がパスした「SC-Y」クラスのトップのマシンが近づいてきて一進一退の攻防に。S耐チャレンジはクラスごとの順位で争われるので、厳密には勝負する必要はないのだが、お互いにペースが近しくなかなかの接近戦となった。レース後半筆者がミスをして抜かれてしまったが、バトルを楽しみつつあっという間のスティントだった。

 結果はクラス3位。なんと、初のS耐(チャレンジ)で表彰台獲得である。予選前に山本氏と「ロードスターの中で真ん中以上には行きたいね」なんて話をしていたのだが、まさか大勢の観客や関係者、報道陣の前でシャンパンファイトまでできるとは感無量である。

 本稿執筆時点で、YouTubeのライブ配信の視聴回数は7万回を超えていた。グラスルーツのレースでは、ここまで多くの人に見られながらレースをすることもほとんどない。

 実際に参加してみて、S耐チャレンジは「新しいタイプ」のレースだと感じた。

決勝レースを控えて集中力を高める筆者(ハシモトタカシ)

 グラスルーツのレースだが演出やルールは本物さながら。モビリティリゾートもてぎの本コースを走るので速度レンジが高く、クラス混走なのでバックマーカーの処理など難しい一面もある。実際、練習走行や予選ではクラッシュも発生していた。

 しかも1時間の中で給油もないので、走っている時は基本的に全開走行。耐久の名はつくが、スプリントレースのように走る必要がある。レースを終えクルマをチェックしてみるとブレーキに厳しいもてぎだけあって、ブレーキローターには細かいクラックが入っていた。それだけクルマにも厳しいレースでもある。

 筆者はマツ耐やメデ耐での経験があったから楽しむことができたが、初レースがS耐チャレンジでは少々難しいと感じる面もあるだろう。監督・メカニックを含むチーム編成なども準備が必要となるので、ワンメイクレースなどの経験が多少あったほうが、より安心してレースを楽しめるはずだ。

 しかし、それさえクリアできれば、ほぼ手ぶらで本物さながらのレースの醍醐味を味わうことができる貴重な舞台であることは間違いない。

 ワンメイクレースで活躍したドライバーがS耐に参戦することはあっても、それは一握りのトップドライバーたちの話。レースを楽しみたいアマチュアにとって、その先へのステップアップの選択肢がなかなかないのが現状だ。

表彰台に上ったドライバーたちと記念写真に喜ぶ本誌統括編集長の山本善隆(右手前)

 S耐チャレンジは「レースの入り口」ではなく「“本格”レースの入り口」だと言える。事実、筆者は今回参加してみて、より本家S耐へ挑戦してみたい気持ちが強くなった。もしその心に少しでも挑戦してみたいと思う気持ちがあるのであれば、チャレンジすることをオススメする。

 きっとあなたが思うより、ハードルはずっと低い。そして、そんなあなたを受け入れてくれる暖かい空気がS耐チャレンジには確かに存在する。

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