「誉れ高き日本車の思い出を語る」。編集部から伝えられた今回のテーマだ。候補車をあれこれ考えたが、スカイラインGT(S54B)、ランドクルーザー、ホンダN360の3車に絞ることにした。
まずはスカイラインGTから話を進めよう。GTは、1500㏄の4気筒エンジンを積んだファミリーサルーン、スカイライン1500のフロントノーズを200㎜延ばし、グロリア用2000㏄6気筒を強引に積み込んだスペシャル版。加えて、ツインチョークのウエーバー製キャブレターを3連装するなどして125psにまでパワーアップ。フロントにはディスクブレーキも装備した。この計画を主導した櫻井真一郎さんとは親しかったが、「レースに間に合わせるため、やっつけもいいところですよ!」と苦笑しながら話してくれたことをよく覚えている。
しかし、スクエアなボディとロングノーズのコンビネーションはカッコよく、いかにも速そうだった。そして、日本GPでは、たとえ1周ではあっても、純レーシングカーのポルシェ904を抜いて先頭を走ったのだ。日本中のクルマ好きは熱狂した。その熱狂がスカイライン神話を生み、現在に続く日産GT-Rというスーパースターの誕生をもたらした。
ランドクルーザーの歴史は1951年に始まる。日本車で最も長い伝統を誇るブランドである。ランドクルーザーの名を世界に広めたのは1960年に誕生した40系。そして1984年に誕生した70系がそれを決定的なものにした。
卓越の悪路走破性とタフさは、世界で認められている。途上国などで準軍用車的な使い方をされているのもタフさの証だろう。
ボクは70系でシドニー~エアーズロック(オーストラリア)を往復している。できるだけ砂漠の中の非舗装路を選んで走ったこの旅で、ランドクルーザーのタフさをしっかり確認できた。と同時に、旅を共にする人間にもまた、かなりのタフさが求められることもわかった。
1998年に誕生した100系からは、タフさに加えてラグジュアリーさをも併せ持つようになり、最新の300系は中東を中心にお金持ちの愛用車になっている。ドバイなどに行くと、レンジローバーとランドクルーザーがやたらに目立つことに驚く。
ホンダN360の誕生は1967年。クラシック・ミニの影響を受けたのは明らかだが、シンプルなデザインはカッコよかった。なにより刺激的だったのはエンジン。354㏄の空冷4ストローク2気筒エンジンは、31㎰/8500rpmという驚異的なパワーを発揮していた。初期型モデルの常時噛み合い型4速MTを操るのも楽しかった。要は、エンジンにしてもトランスミッションにしても、“オートバイ技術の転用”が目立ったということだ。
高校時代をオートバイと共に過ごしてきたボクにはすぐ馴染めた。8000〜9000rpmまでぶん回し、ちょっとしたコツさえ掴めば素早い変速ができるトランスミッションを操るのは、ただただエキサイティングだった。N360の登場で、Kカーは一気に高出力競争の時代に入った。いまでも乗ってみたいクルマの1台である。
【プロフィール】
おかざき こうじ/モータージャーナリスト、1940年、東京都生まれ。日本大学芸術学部在学中から国内ラリーに参戦し、卒業後、雑誌編集者を経てフリーランスに。本誌では創刊時からメインライターとして活躍。その的確な評価とドライビングスキルには定評がある。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員