
アルシオーネはスバル初のスペシャルティカーとして1985年5月にデビュー。“ALCYONE“というネーミングはスバル星団の中で最も輝く星を意味していた。ラインアップは4WD(VRターボ)とFF(VSターボ)の2種。スタイリングは空気の壁を切り裂くウエッジシェイプで、当時世界最高水準のCd値0.29(FF)を実現。4WD機構や足回りも凝っていた
スバル初のスペシャルティカー、アルシオーネがデビューした。アルシオーネはいろいろと特徴のあるクルマだが、なんといっても最大の個性は、印象的なルックスである。
写真を見てほしい。まさに空気の壁を“切り裂く”イメージだ。空力性能は、もちろんいい。車高の低いFFモデル(4WDよりも40㎜低い)に、フラッシュサーフェスデザインのホイールカバーを装着した場合のメーカー公称Cd値は0.29である。試乗したのはおもに4WDのVRターボで、こちらのCd値は0.31程度だという。これも立派なデータだ。このスタイルは、ダテではない。
インテリアも斬新だ、ダッシュ回りは、いわゆるコクピットタイプである。ステリングホイールにはチルト機構とテレスコピック機構が組み込まれ、ドライビングポジションの選択幅を広げている。
メーターパネルと、ステアリングコラムの左右に突き出したウイング状のコントロールパネルは、ステアリングのチルトと連動する仕組みになっている。だから、ステアリングホイールの位置をどう動かしても、メーター類が見にくくなったり、スイッチが操作しにくくなる心配がない。なかなか具合がいい。VRターボ(AT)には、エレクトロニック・インストルメントパネルが、オプションで用意されている。このカラー液晶デザインがまた、勇敢というかユニークだ。その他にも、ガングリップタイプのシフトレバー、逆L字形スポークのステアリングなど、とにかく個性的な造形でまとめている。すべてが未来的で“ショーカー”に乗っているような気分になってくる。
駆動方式は、4WDとFFの2種類がある。エンジンは共通だ。レオーネでおなじみの1.8ℓ水平対向4気筒ターボを積んでいる。スペックは135㎰/5600rpm、20.0㎏m/2800rpmを発生する。
4WDのVRターボの走りを報告しよう。まずAT車である。動力性能はターボ車として標準的なレベルだ。とくに頭抜けてはいないが、劣っているところもない。フルスロットルに近い状態での発進では瞬発力不足を感じるが、日常的なスタート、つまりパートスロットルでは、さほど瞬発力不足を感じることはない。走り出してしまえば、あとはドライバーの思いどおりに走ってくれる。
アルシオーネの4WD機構は、レオーネと共通のパートタイム4WDである。一般的にパートタイム4WDというと、タイトコーナーではブレーキング現象を避けるために4WDを解除しなければならない。アルシオーネでも、5MT仕様車は同じである。しかし、AT車は“MP-T”と呼ぶ独特の油圧多板クラッチ方式のトランスファーによって、ブレーキング現象からうまく逃げている。実際はフルタイム4WDと同様の使い方ができる。このプラスは大きいし、魅力である。
また、VRターボ・ATには、レオーネGTターボで実用化された“オート4WDシステム”も組み込んでいる。操作はセンターコンソール上のオート4WDボタンを押しておくだけ。FFで走っていても、急ブレーキ時、急加速時、降雨時など4WDのほうがメリットが大きくなる条件になると、FFから4WDに自動的に切り替えてくれる。そして条件が整うと自動的にFFに戻る。便利だし、実際にもプラスがある。
5速MTの走りの実力は、3速ATを大きく凌ぐ。しかし、パワーオン/オフのスナッチングは、とくに1〜3速あたりまでは少し目立つ。エンジンのトルク変動につれ、リアデフを経て細かな振動がキャビンに伝わってくる。もう少し洗練させてほしい。
VRターボの足回りは、電子制御式フルエアスプリングを採用している。セッティングはハイウェイ・クルージングの快適性を最も重視しているという。乗り心地は、確かにソフトだ。ただし、凹凸の緩やかな路面での話である。強めの段差や突起に出合うと、かなりきついショックや突き上げ感がくる。ショックでボディに音が発生するし、快適性が低下する。このあたりは軽量な車体にエアサスペンションを組み合わせた場合、よく起こる現象だ。
さて、操安面をチェックしよう。アルシオーネの仕上がりは、残念だが良好とはいえない。コーナーを追い込んでいくと、意外に簡単に前輪がアウトに流れ出してしまう。場合によっては、“地団駄”を踏むような不愉快なバタツキ現象も伴う。ヘアピン状のコーナーを大パワーをかけて回ろうとすると、ステアリングが切り込んだままの状態になるケースも起きやすい。
アルシオーネはそもそもがハイウェイクルージング重視、快適性指向のクルマだ。とはいっても旋回時の足の能力は低すぎる。このサス・セッティングは賛成できない。スバルの新しいイメージリーダーに育てようとする積極的なクルマ作りは大いに結構だ。スタイリングやアクセサリーの個性化と併せて、クルマ自体の実力アップにも、より熱心に力を注いでほしい。
※CD誌1985年7月26日号
【プロフィール】
おかざき こうじ/モータージャーナリスト、1940年、東京都生まれ。日本大学芸術学部在学中から国内ラリーに参戦し、卒業後、雑誌編集者を経てフリーランスに。本誌では創刊時からメインライターとして活躍。その的確な評価とドライビングスキルには定評がある。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)名誉会員