※本記事は雑誌『CAR and DRIVER』(2025年10月号)の巻頭コラム「from Editors - カー・アンド・ドライバー編集部の視点」より抜粋したものです
「デザイン」という言葉には、意匠と機能、あるいは設計という意味が含まれている。ことクルマのデザインは、見た目としてもエクステリアとインテリアに分かれるし、機能としても、空力や居住性、あるいは安全性やメンテナンス性など、さまざまな要素を成立させる必要のある、非常に複雑で難しい仕事である。
今回の特集「カーデザインを語ろう。」では、その広い意味をすべて網羅するのではなく、あくまでもクルマの魅力の大半を占めるであろう“見た目”にフォーカスした企画としている。それも、カーデザインの専門家の声を集めるというよりも、いちクルマ好きの視点を重視して制作した。
実はこのカーデザインの企画にあたっては、比較的最近でみっちりと手掛けたという経緯がある。2年前から日本自動車工業会が発行する年鑑『自動車ガイドブック』の巻頭特集は、私たちカー・アンド・ドライバー編集部が企画編集・制作協力を行っているのだが、昨年の同誌Vol.71では「自動車のデザイン」という大テーマを掲げ、巻頭企画では著名なカーデザイナーである中村史郎さん(元・いすゞ自動車/日産自動車)さんや前田育男さん(マツダ)らにインタビューを行っており、カーデザインとはどんなものなのか、それぞれのエピソードも交えて、本質的かつ納得感のあるお話をうかがうことができた。そこで得られたことをぜひ本誌読者の皆様にもお伝えしたく、その内容を今回一部抜粋し掲載させていただいた。
さらに今回、元・シトロエンのデザイナーであり、最近では“空飛ぶクルマ”のデザインも手掛けた山本卓身さんにお話をうかがうことができたのだが、そこには共通点があったことに気がついた。三者共に口にしたのは、クルマのデザインのキーエレメントがスタイリングであること、そしてそのキーワードは“美しさ”であった。バックグラウンドやアウトプットは三者三様でありながらも、優れたデザイナーたるもの、本質的な価値観は共通しているものなのかもしれない。それが類稀な存在であればこそ、その説得力は一段と強く感じさせられる。
かつての自動車は自由な発想で“美しい造形”のデザインが可能だった。その後、技術の進歩、安全性に対する法規制など、さまざまな制約が課されていき、さらにはマーケティング戦略も交わることで、デザインとブランドが強く結びつけられるようになった。時代ごとにその表現方法や前提条件は異なるものの、より美しく、あるいはカッコいい、そんなクルマを生み出そうとしているデザイナーの努力は変わらない、ということだろう。
私たちがクルマ選びで重視するポイントは人によってさまざま。少しでもクルマ好きな人々にとって、見た目(≒デザイン)は決して外せない選定要件であるに違いない。カワイイ、カッコいい、その方向の違いはあれど、自分の“好き”な見た目のクルマに乗る、ということはダイレクトにその人の幸福感につながる。人々の間では“ルッキズム”が社会問題化されている一方、あらゆる工業製品においては今も昔も、そしてこれからも、その見た目、デザインによって売れる・売れないという、ビジネスにおける最重要指標のひとつ、“売上”に重大な影響を与えることは変わらない。
カッコいい、あるいはカワイイと思えるクルマに乗ること、それは正義だ。なぜなら、私たちにとって、それは幸せな人生を送るために必要な“ライフスタイル”なのだから。
文/山本善隆(CAR and DRIVER / FM STATION 統括編集長)
<プロフィール>やまもとよしたか/1980年東京都生まれ。ITコンサルティング会社、自動車Webメディア企業、広告会社を経て、マーケティング会社にて企業の戦略立案・事業開発支援業務に従事後、2020年に独立。2021年より現職。クルマを運転する時間が一日の中で最も好き。1995年以降は大のF1ファン。日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員
▼本誌『CAR and DRIVER』(2025年10月号)の詳細はこちら
https://www.caranddriver.co.jp/book/100518/
