日米欧メーカー各社のBEV開発に見る「ブランド展開」の特徴

BEVブランドをどう位置付け、育てていくのか

 BEV(バッテリー電気自動車)事業を独立採算にする動きが欧米OEM(オリジナル・エクィップメント・マニュファクチャラー=自動車メーカー)で活発になってきた。仏・ルノーはBEV部門を本体から切り離して新会社を設立し、そこに日産と三菱の資本参加を得るための協議を行っている。このほど共同声明を発表し明らかにした。
 フォードは今春にBEV部門を独立採算制にすると発表、9月末には中国でのBEV事業を担当する新会社の設立も発表した。これらの動きは、何が目的なのか。
 日産と三菱に資本参加を呼びかけているルノーは「日産への出資比率を、現在の43.7%からルノーへの日産の出資比率と同等の15%に引き下げる」という提案も行っているという。また、新会社ではBEVのカーシェアリングも行うことをルノーは検討している。

フォード・マスタング・マッハE

 フォードは以前、BEV事業で新興メーカーのリビアンと提携して進めていた共同開発プロジェクトを打ち切った。そして今春にはBEV部門を独立採算制とする方針を決めた。ただし分社化は行わず、フォード本体としての事業部体制として、フォード・モデルeというブランドを立ち上げる。

 中国については9月末にBEV新会社の立ち上げを発表している。欧州での対応に関しては、計画を明らかにしていないが、新会社を立ち上げる可能性は高い。

リビアンの工場は、かつて三菱の米国工場として稼働していた

 フォードが共同事業を取りやめたリビアンはメルセデス・ベンツ・グループとの提携で商用BEVを製造する計画を発表した。ダイムラー・トラック・ホールディングAG傘下の合弁会社を設立し、今後数年以内に生産を開始する予定だと発表した。メルセデス・ベンツ・トラックとは別会社になる。

 リビアンはアマゾンから受注したBEVデリバリーバンなどを商品として持っているが、新会社での生産車種はメルセデス・ベンツの商用BEV専用プラットフォームを使用する予定である。欧州工場は中央ヨーロッパ、または東ヨーロッパで検討している。

ソニーが2021年に発表したVISION-S

 このほか日本国内ではホンダがソニー・グループと共同出資でソニー・ホンダモビリティの設立で合意した。将来、BEVを市販する場合もホンダとは別のブランドとして扱うことになるだろう。また、スウェーデンのボルボ・カーズは従来レース部門の運営とハイパフォーマンスカー開発を委託してきたポールスターをBEV専門ブランドに変更し、ボルボ本体とは切り離した独立ブランドにしている。
 なぜ、BEV事業を本体から切り離すのか。ルノーの場合は「資金調達が容易になる」点を挙げている。株主からは「BEV専業メーカーのほうが投資しやすい」という声が挙がっていた。しかし、日産サイドはBEV事業の分社化を「まだ早すぎる」とコメントしている。このあたりは、BEVに対する取り組みの温度差が如実に感じられる。
 フォードとGMも「BEV商品ラインアップを充実させるが、本体のブランドとリンクした状態を維持する」とする。

フォルクスワーゲンID.4は日本でも発売される予定

 ドイツのOEMはすでにBEVを本体とは別シリーズのブランドとして扱っている。VW(フォルクスワーゲン)は「ID.」、メルセデス・ベンツは「EQ」、BMWは「i」である。
 これに対してフランス勢はプジョー・シトロエンのようにICE(内燃機関)車と同じボディを使い、それぞれの車名に「e」や「È」を追加するだけで対応している。OEMによってBEVの扱いは異なる。
 以前、ドイツでの報道では、BEVの別ブランド化は「BEVで何かトラブルがあったとき、本体ブランドに傷を付けたくないという理由もある」という主旨のコメントがあった。

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 同時に「規制のためBEVを作っても、売れなかったら本体が損益を被る。この事態も避けたいだろう」というアナリストのコメントもある。BEVに対して、「懐疑的」な気持ちがあるのかもしれない。
 いずれにしても、各社が実施している事業分離の狙いがどこにあるのかは、近いうちに明らかになってくるだろう。

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