本記事は本誌2026年9月号の特集内コラム「EVライフのすゝめ」からテスラ・モデル3の情報を付加した独自レビューです。ぜひ、本誌特集と合わせてご覧ください。
これまでテスラに抱いていた筆者の印象は、「クルマの形をした別の乗り物」というものだった。数時間あるいは数日ではなく、しっかり乗って確かめようということで、最新のモデル3(RWD)を1カ月間お借りした。結論からいえば、その印象自体は変わらなかったのだが、日常生活の中で一緒に過ごした結果、基礎充電環境があるという絶対条件はありながらも、「日常の手足として体に馴染むモビリティ」という新たな印象が加わり、一気に距離感が縮まった。これは一体どういうことなのか。
現行テスラ・モデル3は日本では2019年にデビュー、2024年に大幅改良された現行型(通称:ハイランド)ではエクステリアを含めてよりスタイリッシュになっている。ベースグレードとなるPremium(RWD)の価格は531万3000円だが、2026年現在でいえばCEV補助金が127万円、しかも東京都なら最大110万円(市区町村補助金除く)もの補助金対象となっているため、購入エリアと条件によっては実質300万円ほどで買えてしまうという状況なのは、もっとも目を引く特徴ともいえる。ほかにもPremium(ロングレンジAWD)が621万9000円、パフォーマンス(AWD)が725万9000円というラインナップだ。航続距離(国土交通省審査値)はそれぞれ594km、766km、647kmとあるが、概ね2割引くらいが実態的に使える距離とおもってよいだろう。0-100km/h 加速についても、それぞれ6.1秒、4.4秒、3.1秒(スーパースポーツ並み!)となっている。
ボディサイズは全長4720mm×全幅1850mm×全高1440mm(Premium ※パフォーマンスは1430mm)と標準的なサイズで、場所を選ばず取り回ししやすいサイズ。しかも、室内はきわめてシンプルな構成となっているため、サイズ以上に広々とした印象を持たせる。ボディカラーは無償色となるステルスグレーをはじめ、今回の試乗車は新色のマリンブルー(12万6000円)など全6色がある。
まず、ドライバビリティから入ろう。テスラには始動という概念がない。キーを持って運転席に乗り込み、シートベルトを装着し、ブレーキを踏み込むだけでドライブモードに入る。スタートボタンやシフトレバーなど、始動に関する操作は一切必要ない。最初こそ戸惑うものの、慣れてしまえばこれが実に快適、というより意識しなくていい、という状態となる。
続いて発進してみる。ウインカーレバーこそあるが、ステアリング周辺は実にシンプル。法規で定められた必要な情報は、すべてダッシュボード中央に置かれた大型ディスプレイに集約される。たとえば速度表示はドライバー寄りの位置に表示されるようレイアウトされているので、慣れてしまえば何の問題もない。
特徴的なのはアクセルと回生のバランス制御にある。最初は想像と違う違和感ともいえるかもしれないが、その特性になれるととても快適に動かせるようになる。発進方向の感覚は一般的なクルマと近い。かたや減速方向、つまりペダルを戻すと、回生によって速度が落とされるようになる。ここにテスラの妙がある。いわゆるワンペダル・ドライブまたはBモードのように、アクセルペダルを戻した瞬間に強烈な減速Gが来るのではなく、やや二次曲線的に減速Gがかかってくる。もちろん、アクセルをパっと完全に戻せば、ガクンというレベルではないが、強めの減速Gがかかる。ただ、その戻し加減を右足で丁寧に調整すれば、ブレーキペダルを一切踏まず、アクセルワークだけでもスムーズに完全停止もできる。これが面白いし、なにより楽なのである。
乗り心地についても悪くない、どころか上質である。BEVなので静粛性が高いのはもちろんだが、低重心が寄与しているからか、安定感もあり、気になる突き上げ感のようなものもない。トータルで見れば、とにかく疲れにくいクルマだな、という印象だ。
そして肝心な充電について触れておこう。テスラのスーパーチャージャーはとにかく速い。ものの15分もあれば航続250㎞程度は回復する。スマホでメールチェックでもしていれば、あっという間に過ぎてしまう時間で、だ。操作も簡単。プラグのボタンを押せば、自動で充電口のフラップが開き、プラグを挿せば充電が開始される。終了時はまたボタンを長押しして、プラグを抜けばまたしても自動でフラップが閉じる。充電器にスマホやカードをかざす、といった手間が一切ない。ノーストレスである。
たった1ヶ月であったが、テスラが続々と支持されている理由も少しわかった気がする。多額の補助金という大きな追い風、そして3年間の燃料代(充電フィー)を無料にするなどのキャンペーンは確かに魅力だ。しかし、シンプルにモノとしてみれば、新しいモビリティとしての新鮮味や体験価値が大いにあるといえる。また、クルマとしてみても、操作系について最初は戸惑うこともあるだろうが、一度慣れてしまえば、必要十分以上の要件を満たしているのも確かである。
すでにオーナーとして使いこなしている方には共感していただけると思うが、このクルマ、とにかく「楽」なのである。先に挙げたドライバビリティもそうだが、あらゆることが削ぎ落とされていることは、余計なストレスを生む要素も少ないということにもつながる。細かくみれば、それは逆のこともあるかもしれないが、トータルでみれば間違いなく、クルマとともに過ごす生活の中でのストレスが減らせることだろう。これもまたミニマリズムであり、移動そのもの以外の提供価値なのである。
