【中村文彦 Forum】広島電鉄が始めた「全扉乗降」が優れている理由

広島のLRTが導入。「全扉乗降サービス」拡大に期待

広島電鉄の路面電車は2022年3月から連接車両(写真は5連接タイプ)にも全扉乗降サービスを適用した

 LRT(ライトレールトランジット)は、都市や都市交通の専門家の間でも人気のある交通システムです。厳密な定義は難しいのですが、路面電車(道路平面に敷設された軌道上を走行する車幅2.5m程度の電車)の進化版という説明がわかりやすいと思います。

 ノスタルジックなイメージの路面電車ではなく、車両はバリアフリーで斬新なデザインとなり加減速性能も乗り心地も向上し、走行位置も多様(高架、地下、歩行者道路等)で、サービスも多様。とくにまちづくりとの連携や他の交通手段との連携がなされており、北米や欧州の都市で導入事例が増加している、というような特徴があります。

 日本では、廃止されたJR線を活用してネットワークを拡充した富山と、新規の建設を進めている宇都宮が、よく知られていますが、ボクの中での最高推奨事例は間違いなく広島市です。

 最高推奨事例と判断する大きな理由のひとつが、相互直通の話です。欧州のLRTの中に在来鉄道との相互直通によるサービス向上を行っている例がいくつかあり、多くの文献で紹介されています。

 広島電鉄は、この相互直通を昭和30年代に開始。平成3年ごろまでは、在来鉄道線区間では、床の高い通常の電車と床の低い路面電車が共存していました。現在は、すべての車両が路面電車タイプの床の低い車両になっています。

 広島市の中心部から路面電車で乗り換えなしに郊外までいけるのは、まさにLRTです。

全扉乗降の実施前後でどのように乗降方式が変わったのかはこの図(広島電鉄のホームページから)がわかりやすい。従来は運転士や車掌が運賃の支払いを確認する必要があった

 この広島電鉄の路面電車に新しい動きがあったので、ここに紹介します。広島の路面電車が日本に誇るLRTとしてさらに進化しました。

 日本の路面電車は、富山を含めすべての路線で、バスと同じような運賃収受のルールを適用しています。東京の都電さくらトラムは、前のドアから乗車して運賃を支払い、真ん中のドアから降車します。富山では、真ん中のドアから乗車して前のドアから降車します。

 朝夕の電車では、乗車あるいは降車にものすごく時間がかかっています。一部の都市では車掌さんを配置して複数のドアからの乗降できるなどの工夫もあります。一方で欧州や北米のLRTの多くでは、すべてのドアから各自の責任で乗降しています。この差は大きいです。

 広島電鉄では、全扉(ぜんとびら)乗降という方式を開始しました。図と写真で実施前後の様子がわかると思います。すべてのドアで降車と乗車ができることで、電停での停車時間を減らすことができるうえに、車内の混雑も分散し、なによりも、乗り降りが気楽になる効果が大きいと思います。

全扉方式を取り入れると、導入後は専用の出口まで移動する必要がなくなって乗降時間の短縮/停車時間の短縮が可能になる

 ボクは、日本のバスや路面電車の大きな問題のひとつは運賃収受の方法だと昔から思っていました。ICカードの普及でかなり進化しましたが、それでも収受法が従前のままなので、長い連接車両を導入してもドアの数を増やせない、活用できない、車内での移動が必要という観点から座席数を増やせない、という状況でした。

 現状はICカード利用者のみ、一人での利用者のみになりますが、広島の全扉乗降、ぜひ全国に広まってほしいと思います。

 有名な富山も、もうすぐできる宇都宮も、そして連節バスでも、ICカードあるいは高機能クレジットカード、QRコード等電子決済技術100%普及のうえ、あちこちで全扉乗降が広がることを強く期待しています(福岡市内の連節バスは、最後部のドアをカード利用乗降兼用にしていますが、全扉乗降にはなっていないので、ここでは取り上げませんでした)。

筆者プロフィール
なかむらふみひこ/1962年生まれ。東京大学工学部卒業後、東京大学大学院に進学。専門は都市交通計画、公共交通、バス輸送など。現在は東京大学大学院新領域創成科学研究科特任教授

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