【中村文彦 Forum】本気度で優れている米国ユージーンのBRT

ちょっと高くなったバス停にスロープが設置されている様子がわかる クルマ椅子利用者にも使いやすい配慮がなされている

 コロナ禍になって緊急事態宣言が発令される前の、ボクの最後の海外調査地が米国ポートランド州のユージーン(Eugene)でした。この街のBRT(Bus Rapid Transit:バス高速輸送システム)のことをきちんと紹介しないまま、3年半も過ぎてしまいました。
 折しも、日本の国土交通省は、この9月にBRTに関するガイドラインを公表しました(参照1)。その少し前には、ローカル鉄道の今後についての提言(参照2)を発表し、その中でも廃止後の代替案としてBRTについて触れられています。

バスは連接方式で運行 輸送力を高めている

 この連載でもBRTを紹介していますが、今回は、「本気度」が高く、日本などまだまだ追いつけていない、ユージーンの例を紹介します。

 米国のオレゴン州というと州都のポートランドが有名です。人口規模数十万人と決して大きくはないものの、都心の高速道路を街の外に移設して水際公園を確保し、都心の魅力を高めた施策や、新たにLRT(Light Rail Transit)を導入し、その各駅の駅前を集中的に開発することで、電車利用を増やした実績などが知られています。

 このポートランドから170kmほど南にある人口15万人に満たない小さな都市がユージーンです。オレゴン大学を抱える大学都市でもあります。この都市のBRT(愛称はエメラルドエクスプレスで、短縮表現はEmX)の本気度が凄いのです。

市内の交通はEmXが中心

 市内のバス路線は、EmXが中心です。市内中心の大バスターミナルと、郊外の複数のバスターミナルを経由する在来バス路線が支線になっています。自転車シェア、カーシェア、都心電動カート・オンデマンドサービスとバスが一元的に運営されています。

 EmX自体も凄い。すべてのバス駅が、ボクが横浜国立大学時代に企業と開発した「PLUSSTOP(商品名)」と似ているかさ上げバス停でした。車両は、連節タイプ。乗降用ドアは、両側2個所ずつです。進行方向右側にプラットフォームのある駅と、左側にある駅もあります。

 走行路は専用車線あるいは縁石で区切られた専用道路が主流で、車線の真ん中部分が掘り下げてあって、草が植えてあります。違反走行抑止効果は絶大です。バスの運行は、ほぼ全区間で、通常の信号とは別の独立した制御になっています。すれ違いのための待避もあり、高度な運行管理をしているものと想定できます。

「かさ上げバス停」に乗り込む乗客 バス停との段差がない様子がわかる バス停ぎりぎりに寄せて止めるドライバーの運転技術にも注目

 車椅子利用者も多く、ボクは視察日に6回EmXに乗りましたが、5人の車椅子利用者に遭遇しました。
 明確に幹線を示し、他の路線を支線に、ただし都心直通も兼ねる支線にしています。このような例は日本では少ないのですが、海外ではクリチバ(ブラジル)でも見られます。
 幹線は駅すべてにかさ上げバス停が導入されていて、券売機があります。運賃箱のない信用乗車方式で、利用に際してのバリアがきわめて少ないです。駅の存在感と頻度の存在感が絶大で利用者数も多いです。バス駅からつながる街への歩道は、すべてバリアフリー対応です。

BRTの走行車線はクルマ用と明確に区分されている。クルマとは別方式の信号を使ってBRTの速達性を追求

 運賃ルールは、ポートランド流ともいえますが、1回1.75ドル、1日3.5ドルというシンプルなものです。

 鉄道だと経営が厳しいからBRT、鉄道より安いからBRT、という面はどの国にもあると思います。国の提言やガイドラインにもそういうスタンスが垣間見えます。しかし、ユージーンを見ていると、BRTが都市の主役であり、強い存在感を持つために何ができるかを徹底的に追求しています。個別の要素の多くは、日本でも不可能ではないと思います。
 都市交通は、まだまだ海外から学ぶことが多い分野です。

参照1=https://www.mlit.go.jp/road/brt/pdf/gaiyou.pdf
参照2=https://www.mlit.go.jp/tetudo/content/001492228.pdf

なかむらふみひこ/1962年生まれ。東京大学工学部卒業後、東京大学大学院に進学。専門は都市交通計画、公共交通、バス輸送など。現在は東京大学大学院新領域創成科学研究科特任教授

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