【中村文彦Forum】宇都宮ライトレールがまちづくりを促進する可能性

【中村文彦Forum】宇都宮ライトレールがまちづくりを促進する可能性

宇都宮市と芳賀町(栃木県)の間で運行されているLRT

 2023年8月26日に開業した、宇都宮市および芳賀町で運行されるLRT(Light Rail Transit)は、日本中の注目を集めてます。一般の方々向けには、ライトラインという呼び方で統一されているようです。なので、この記事でも、以下、ライトラインと記します。開業直後は大混雑であったという情報もあったので、ボクは、少し落ち着いたであろう9月23日に初めて乗車しました。

 運行している事業者のホームページや、プロジェクトを苦節20年以上にわたって推進してきた宇都宮市のホームページに詳しい情報があるので、この乗り物の概要は詳細の紹介は省略します。

 一般にLRTと呼ばれるこのようなシステムは、1990年代から世界中で注目をされたもので、従前の路面電車とは差別化して理解できます。

 まず、車両の寸法としては従来の路面電車のようにも見えますが、複数の車体がつらなっている連接構造で、普通の路面電車よりも多くの人を運べます。また、車両の加減速や乗り心地等の性能が優れています。さらに、走行空間が道路上のみならず、通常の鉄道のような専用の線路が、平面、高架、地下を走行している点、運賃制度を工夫している点、バスや駐車場等、他の交通手段と連携している点、電停の近くを集中的に開発するなどまちづくりと連携している点などが特徴です。

飛山城址電停に設置された複合乗り継ぎ施設。自家用車を駐車してライトラインに乗れる(パーク&ライド)他、自家用車送迎の乗降場所があり(キス&ライド)、自転車駐輪場もある(サイクル&ライド)。車椅子利用者の送迎にも対応できている。これだけの施設が集約されている電停はこの1カ所のみ

 LRTという用語自体は米語ですが、優れた事例は、ストラスブール等むしろ欧州の都市のほうが有名かもしれません。

 日本では、広島市の広島電鉄の宮島線で、道路上走行と専用軌道走行を連続させている例がある他、車両については、熊本を皮切りにあちこちで新しいものが導入されています。バスとの接続についても、富山や広島などで工夫した例があります。富山のシステムは、バス以外にもシェアサイクルとの連携、パークアンドライドの設置、都心の商業集積地との連携等も行われており、まさにLRTといえます。

 今回のライトラインについては、他の事例と異なり、従来の路面電車の財産を活かしたシステムではなく、まったく新しいシステムであるという点が特徴的です。宇都宮駅東口の地区においては、新しい複合公共施設および公共空間とつなげたまちづくりになっていることが秀逸なほか、写真のように、郊外電停での駐車場設置や、路線バスとの連携にも努力のあとが見られます。

 一方で、課題も多いように見受けます。バスとの接続の案内はきわめて不十分です。従来からのバス利用者に配慮して、運賃も工夫し、ダイヤも工夫しているようですが、ライトラインの車内では案内が不十分です。開業直後ということで、やむを得ないとは思いますが、電停の屋根等構造や案内提供に比べて、バス停の上屋やベンチ、案内提供は、かなりレベルが落ちます。

 総合的なシステムなのだから総合的に案内するべきところ、どうしても、ライトラインの案内とバスの案内がバラバラになっているようにもみえます。

 運賃についても、すべてのドアでICカード利用ができるものの、基本的な運賃体系や現金利用者対応は、日本の地方部のバスと同じ、整理券をとって、運転士さんの前の運賃箱で、自分で両替して、おつりのないように払うという、きわめて利用者に不親切な方法、旧態依然の運賃方式のままです。

 とはいえ、これから関係する皆さんでどんどん育てていって、直していって、日本が誇る、地方都市の幹線公共交通の見本になっていくことを切に願っているし、ボクもいろいろと手伝い続けていきたいと思います。

なかむらふみひこ
1962年生まれ。東京大学工学部卒業後、東京大学大学院に進学。専門は都市交通計画、公共交通、バス輸送など。現在は東京大学大学院新領域創成科学研究科特任教授

SNSでフォローする