車両性能を総合的に徹底向上させた進化版のGRヤリスが公開

GRヤリスがマイナーチェンジ。新開発8速ATのGR-DATを新採用したほか、コクピットの視認性と操作性の改善、G16E-GTSエンジンの出力向上、エクステリアデザインの一部変更、サーキットモードの新設定などを実施。発売は2024年春頃を予定

 TOYOTA GAZOO Racing(TGR)は2024年1月12日、東京オートサロン2024において進化したGRヤリスを初公開した。発売は2024年春頃を予定している。

▲トヨタGRヤリス RZ“High performance” 全長3995×全幅1805×全高1455mm ホイールベース2560mm 車重6MT(iMT)1280/8AT(GR-DAT)1300kg 乗車定員4名 今回の改良では車両を限界まで追い込んでくれたドライバーへ「壊してくれてありがとう」を合言葉に、パワーユニットはもちろん、ボディや内外装などにも意見を反映し、車両性能の総合的な向上を図る

▲トヨタGRヤリス RZ“High performance” 全長3995×全幅1805×全高1455mm ホイールベース2560mm 車重6MT(iMT)1280/8AT(GR-DAT)1300kg 乗車定員4名 今回の改良では車両を限界まで追い込んでくれたドライバーへ「壊してくれてありがとう」を合言葉に、パワーユニットはもちろん、ボディや内外装などにも意見を反映し、車両性能の総合的な向上を図る

 

「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」を実践して開発されたGRヤリスは、2020年9月の発売以降も様々なモータースポーツへの参戦を継続。極限の環境で「壊しては直す」を繰り返し、プロドライバーや評価ドライバー、マスタードライバーのモリゾウこと豊田章男会長などからのフィードバックを反映して「ドライバーファーストのクルマづくり」を実施する。今回の改良では、車両を限界まで追い込んでくれたドライバーへ「壊してくれてありがとう」を合言葉に、パワーユニットはもちろん、ボディや内外装などにも意見を反映し、車両性能の総合的な向上を図った。

▲「幅広いドライバーがスポーツ走行を楽しめ、レースでMTと同等に戦えるAT」を目指して新開発した8速ATの「GR-DAT(GAZOO Racing Direct Automatic Transmission)」を追加設定

▲「幅広いドライバーがスポーツ走行を楽しめ、レースでMTと同等に戦えるAT」を目指して新開発した8速ATの「GR-DAT(GAZOO Racing Direct Automatic Transmission)」を追加設定

 進化のポイントを解説していこう。

 まず、「より多くの方に走る楽しさを提供し、モータースポーツの裾野を広げたい」というモリゾウの想いの下、「幅広いドライバーがスポーツ走行を楽しめ、レースでMTと同等に戦えるAT」を目指して新開発した8速ATの「GR-DAT(GAZOO Racing Direct Automatic Transmission)」を追加設定する。AT制御ソフトウェアは、スポーツ走行用に最適化。従来は減速Gや速度などの車両挙動を感知し変速させていたところを、ブレーキの踏み込み方・抜き方、アクセル操作まで細かく感知し、車両挙動の変化が起こる前に変速が必要な場面を先読みすることで「ドライバーの意思を汲み取るギア選択」を成し遂げ、プロドライバーによるシフト操作と同じようなギア選択を可能とした。また、AT内部の変速用クラッチに高耐熱摩擦材を採用したほか、AT制御ソフトウェアの改良を図って、世界トップレベルの変速スピードを達成。さらに、6速MTから8速ATへ多段化するとともにクロスレシオ化して、パワーバンドを活かした走りを実現する。RZ“High performance”には、アクセル操作による駆動力コントロールの性能向上を狙って前後トルセンLSDも組み込んだ。なお、GR-DATの開発に当たってはモータースポーツの現場や様々な道での実証走行を実施。TGR World Rally Teamのドライバーがフィンランドの雪道など様々な路面で走り込みを行ったほか、プロのラリードライバーによって全日本ラリー参戦に挑戦する。また、トヨタ自動車の早川茂副会長をドライバーに据えて、初心者でも気軽に楽しめるTOYOTA GAZOO Racingラリーチャレンジへ参戦したほか、モリゾウ選手をドライバーとしてスーパー耐久シリーズへ参戦するなど、プロドライバーのみならずアマチュアドライバーの走行を通じ「壊しては直す」を繰り返すことで、幅広いユーザーが楽しめる速さと信頼性を実現したという。

▲AT制御ソフトウェアはスポーツ走行用に最適化。従来は減速Gや速度などの車両挙動を感知し変速させていたところを、ブレーキの踏み込み方・抜き方、アクセル操作まで細かく感知し、車両挙動の変化が起こる前に変速が必要な場面を先読みすることで「ドライバーの意思を汲み取るギア選択」を具現化する

▲AT制御ソフトウェアはスポーツ走行用に最適化。従来は減速Gや速度などの車両挙動を感知し変速させていたところを、ブレーキの踏み込み方・抜き方、アクセル操作まで細かく感知し、車両挙動の変化が起こる前に変速が必要な場面を先読みすることで「ドライバーの意思を汲み取るギア選択」を具現化する

▲Mモードでのシフトレバーによる変速操作の向きを、モータースポーツからの学びを活かして従来から反転。車両挙動に合わせて引き操作でシフトアップ(加速)、押し操作でシフトダウン(減速)へと変更する

▲Mモードでのシフトレバーによる変速操作の向きを、モータースポーツからの学びを活かして従来から反転。車両挙動に合わせて引き操作でシフトアップ(加速)、押し操作でシフトダウン(減速)へと変更する

▲8速ATと多段化したうえでクロスレシオ化することにより、パワーバンドを活かした走りを実現

▲8速ATと多段化したうえでクロスレシオ化することにより、パワーバンドを活かした走りを実現

▲AT内部の変速用クラッチに高耐熱摩擦材を採用したほか、AT制御ソフトウェアの改良を図って、世界トップレベルの変速スピードを達成する

▲AT内部の変速用クラッチに高耐熱摩擦材を採用したほか、AT制御ソフトウェアの改良を図って、世界トップレベルの変速スピードを達成する

 

 次に、視認性と操作性をいっそう磨き上げた専用コクピットの採用。スーパー耐久シリーズ参戦車および全日本ラリー参戦車をモチーフに、操作パネルとディスプレイをドライバー側へ15度傾けて設置することで、視認性と操作性を改善する。また、スポーツ走行時のみならず日常走行でも使いやすいスイッチ類の配置にもこだわった。具体的には、ドライビングポジションを25mm下げ、合わせてステアリング位置も調整することにより、ドライビング姿勢を改善。また、インナーミラーの取り付け位置をフロントガラス上部に移動させ、さらにセンタークラスターの上端を50mm下げることにより、前方視界を拡大する。さらに、GR-DAT車は現行のCVT搭載モデルであるGRヤリスRSよりシフトレバーを75mm上昇させ、GRヤリスMTモデルのシフトレバーと同等の位置に配置して操作性を向上。同時に、ラリーやジムカーナでの車両コントロール用途を視野に置いて、GR-DAT車にも手引き式パーキングブレーキを配備した。加えて、Mモードでのシフトレバーによる変速操作の向きを、モータースポーツからの学びを活かして従来から反転。車両挙動に合わせて引き操作でシフトアップ(加速)、押し操作でシフトダウン(減速)へと変更し、レーシングカーのシーケンシャルトランスミッションのような操作性を実現する。一方、ドライバーディスプレイにはプロドライバーの意見を取り入れながら、スポーツ走行に必要な視認性と車両情報にフォーカスした新デザインの12.3インチフルカラーTFTメーターを採用。GR-DAT車ではAT油温の表示を追加したほか、シフトダウン操作時に回転数が高すぎるためシフトダウン出来ない場合に従来の警告音のみによる通知から、メーター内のギアポジション表示にも警告を追加する。この変更は、「ヘルメットを着用する競技中も警告を分かりやすくしてほしい」といった、試作車を用いて参戦した全日本ラリーのドライバーからの要望を反映した結果だという。

▲インナーミラーの取り付け位置をフロントガラス上部に移動させ、さらにセンタークラスターの上端を50mm下げることにより、前方視界を拡大する。写真・上はiMT車のブラック内装、同・下はGR-DAT車のブラック×レッド内装

▲インナーミラーの取り付け位置をフロントガラス上部に移動させ、さらにセンタークラスターの上端を50mm下げることにより、前方視界を拡大する。写真・上はiMT車のブラック内装、同・下はGR-DAT車のブラック×レッド内装

▲スーパー耐久シリーズ参戦車および全日本ラリー参戦車をモチーフに、操作パネルとディスプレイをドライバー側へ15度傾けて設置することで、視認性と操作性を向上させる

▲スーパー耐久シリーズ参戦車および全日本ラリー参戦車をモチーフに、操作パネルとディスプレイをドライバー側へ15度傾けて設置することで、視認性と操作性を向上させる

▲ドライビングポジションを25mm下げ、合わせてステアリング位置も調整することにより、ドライビング姿勢を改善

▲ドライビングポジションを25mm下げ、合わせてステアリング位置も調整することにより、ドライビング姿勢を改善

▲12.3インチのGR Full TFTメーターを採用。プロドライバーの意見を取り入れながら、スポーツ走行に必要な視認性と車両情報にフォーカスする

▲12.3インチのGR Full TFTメーターを採用。プロドライバーの意見を取り入れながら、スポーツ走行に必要な視認性と車両情報にフォーカスする

 

 モータースポーツでの戦闘力向上を目的に、動力源であるG16E-GTS型1618cc直列3気筒DOHCインタークーラーターボエンジンの改良も図る。最高出力は従来の272ps/6500rpmから304ps/6500rpmへとアップ。さらに、最大トルクは従来の370Nm(37.7kg・m)/3000~4600rpmから400Nm(40.8kg・m)/3250~4600rpmへと引き上げた。

▲G16E-GTS型1618cc直列3気筒DOHCインタークーラーターボエンジンの改良を実施。最高出力は従来の272ps/6500rpmから304ps/6500rpmに、最大トルクは従来の370Nm(37.7kg・m)/3000~4600rpmから400 Nm(40.8kg・m)/3250~4600rpmにアップする

▲G16E-GTS型1618cc直列3気筒DOHCインタークーラーターボエンジンの改良を実施。最高出力は従来の272ps/6500rpmから304ps/6500rpmに、最大トルクは従来の370Nm(37.7kg・m)/3000~4600rpmから400 Nm(40.8kg・m)/3250~4600rpmにアップする

 

 モータースポーツ現場の声を反映して、エクステリアの変更も実施する。ロアグリルには薄型・軽量化と強度を両立するスチールメッシュを、バンパーロアサイドには分割構造を新たに採用。モータースポーツ参戦時に石などの飛来物による損傷があった際の復元・交換作業を容易にし、かつ修復費用の低減にもつなげる。また、サイドロアグリルは開口部の大きい形状に刷新し、高い冷却性能を確保。合わせて、バンパーサイドにアウトレットを設けることで、サブラジエーターおよびATFクーラーの熱を効果的に排出する。さらに、リアロアガーニッシュ下端に設けた開口部より床下からの空気を抜くことで、空気抵抗を下げ操縦安定性を向上させるとともに、マフラーの熱を排出。加えて、モータースポーツ参戦中の損傷回避と視認性を考慮して上下リアランプ類を集約し、同時にハイマウントストップランプとリアスポイラーを分けることで、リアスポイラーのカスタマイズ性を拡張した。一文字に繋がる一体感のあるテールランプに仕立てることで、一目で新しいGRヤリスであることが分かる個性を表現したことも、エクステリアの訴求点である。

▲モータースポーツ現場の声を反映して、エクステリアの変更を敢行。ロアグリルには薄型・軽量化と強度を両立するスチールメッシュを、バンパーロアサイドには分割構造を新たに採用する

▲モータースポーツ現場の声を反映して、エクステリアの変更を敢行。ロアグリルには薄型・軽量化と強度を両立するスチールメッシュを、バンパーロアサイドには分割構造を新たに採用する

▲リアロアガーニッシュ下端に設けた開口部より床下からの空気を抜くことで、空気抵抗を下げ操縦安定性を向上させるとともに、マフラーの熱を排出。また、モータースポーツ参戦中の損傷回避と視認性を考慮して上下リアランプ類を集約し、合わせてハイマウントストップランプとリアスポイラーを分けることで、リアスポイラーのカスタマイズ性を拡張する

▲リアロアガーニッシュ下端に設けた開口部より床下からの空気を抜くことで、空気抵抗を下げ操縦安定性を向上させるとともに、マフラーの熱を排出。また、モータースポーツ参戦中の損傷回避と視認性を考慮して上下リアランプ類を集約し、合わせてハイマウントストップランプとリアスポイラーを分けることで、リアスポイラーのカスタマイズ性を拡張する

 

 シャシーおよびボディについては、よりハードな走行に耐えるための強化を図る。まずシャシー面では、ボディとショックアブソーバーを締結するボルトの本数を1本から3本に変更。走行中のアライメント変化を抑制することで、ステアリング操作に対する車両挙動の応答性を高め、操縦安定性を向上させる。一方でボディに関しては、スポット溶接打点数を約13%増加。合わせて構造用接着剤の塗布部位を約24%拡大することにより、ボディ剛性を高め、操縦安定性と乗り心地をレベルアップさせた。

▲シャシー面ではボディとショックアブソーバーを締結するボルトの本数を1本から3本に変更。ボディに関してはスポット溶接打点数を約13%増加し、合わせて構造用接着剤の塗布部位を約24%拡大する

▲シャシー面ではボディとショックアブソーバーを締結するボルトの本数を1本から3本に変更。ボディに関してはスポット溶接打点数を約13%増加し、合わせて構造用接着剤の塗布部位を約24%拡大する

 

 冷却性能を高める「クーリングパッケージ」を設定したことも注目ポイント。エンジンの高出力化やGR-DATの追加設定に伴い冷却性能の向上が必要となったため、GR-DAT車にはATFクーラーを標準で採用。さらに、モータースポーツへの参戦を考慮してサブラジエーター、クールエアインテーク、インタークーラースプレーを新たにクーリングパッケージとしてメーカーオプション設定した。

▲冷却性能を高める「クーリングパッケージ」を設定。①サブラジエーター/②コールドエアインテーク/③インタークーラースプレー/④ブレーキダクト/⑤空冷ATFクーラー(GR-DAT車)を組み込む

▲冷却性能を高める「クーリングパッケージ」を設定。①サブラジエーター/②コールドエアインテーク/③インタークーラースプレー/④ブレーキダクト/⑤空冷ATFクーラー(GR-DAT車)を組み込む

 

 従来の4WDモードセレクトに加えて、スポーツ走行と日常生活での使い勝手を両立する「ドライブモードセレクト」を新たに組み込んだ点も見逃せない。ユーザーの好みや参戦するモータースポーツの特性に合わせて、電動パワーステアリング、エアコン、パワートレーンの設定変更を可能とする。モードとしては、スポーツ走行を想定したSPORT、市街地からワインディングまでの走行を想定したNORMAL、市街地の走行を想定したECOを設定した。

▲スポーツ走行と日常生活での使い勝手を両立する「ドライブモードセレクト」を新採用。モードとしてはスポーツ走行を想定したSPORT、市街地からワインディングまでの走行を想定したNORMAL、市街地の走行を想定したECOを設定

▲スポーツ走行と日常生活での使い勝手を両立する「ドライブモードセレクト」を新採用。モードとしてはスポーツ走行を想定したSPORT、市街地からワインディングまでの走行を想定したNORMAL、市街地の走行を想定したECOを設定

 

 走行モードとしては、公道では味わえない非日常的な躍動が体験できる「サーキットモード」も新規に設定する。GPSによる位置判定よりサーキットなどの利用可能エリアに入ると、再加速時のアクセルレスポンスを向上させる目的でターボラグを低減させるアンチラグ制御、スピードリミッター上限速度の引き上げ、クーリングファンの最大化、最適なタイミングのシフト操作を視覚的に伝達・サポートするシフトタイミングインジケーターなど、GRヤリスのポテンシャルを最大限に引き出す機能によって、サーキット走行が存分に楽しめる。各機能は、スマートフォンアプリ上でユーザーの好みに合わせたカスタマイズが可能だ。

▲公道では味わえない非日常的な躍動が体験できる「サーキットモード」を新規に設定。アンチラグ制御、スピードリミッター上限速度の引き上げ、クーリングファンの最大化、シフトタイミングインジケーターといった機能を配備する。写真・上の緑部分はインジケーター点灯速度によりリズムを計る認知機能、赤部分はシフト準備の判断機能、同・下の青部分はシフトアップ操作の点滅機能

▲公道では味わえない非日常的な躍動が体験できる「サーキットモード」を新規に設定。アンチラグ制御、スピードリミッター上限速度の引き上げ、クーリングファンの最大化、シフトタイミングインジケーターといった機能を配備する。写真・上の緑部分はインジケーター点灯速度によりリズムを計る認知機能、赤部分はシフト準備の判断機能、同・下の青部分はシフトアップ操作の点滅機能

 

 モータースポーツ参戦を考慮した「縦引きパーキングブレーキ」を、RCグレードに新規にオプション設定した点も注目ポイント。全日本ラリー参戦からの学びを活かし、パーキングブレーキレバーの配置を標準の位置に対して車両前方へ移動することで、ステアリングとの距離を近づけて素早い操作を可能とする。また、角度を立てることで引きやすさを向上させ、操作時の負担を軽減した。

▲モータースポーツ参戦を考慮した「縦引きパーキングブレーキ」をRCグレードにオプション設定

▲モータースポーツ参戦を考慮した「縦引きパーキングブレーキ」をRCグレードにオプション設定

 

 なお、TGRは東京オートサロン2022において披露したGRMNヤリスに対して、進化型GRヤリスの開発やモータースポーツ参戦の学びを織り込んだ、アップグレードサービスの提供を予定。最高出力を進化型GRヤリスと同等レベルまで引き上げるためのアップデートキットに加え、アップグレードの証となる専用エンブレムを用意する。GRMNヤリス・オーナー専用のパーソナライズプログラムの実施も計画中だ。

 さらに、東京オートサロン2023においてコンセプトモデルとして披露したTGR-WRT所属選手監修モデルのGRヤリス RZ“High performance・Sébastien Ogier Edition”とGRヤリス RZ“High performance・Kalle Rovanperä Edition”は、今回の進化型GRヤリスをベースとして市販化すると予告。両車は本年1月25日~28日に開催されるFIA世界ラリー選手権第1戦ラリー・モンテカルロにて公開する予定である。

 

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