【旬ネタ】2022-2023COTY デザイン・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した、BMW・iXってどんなクルマ?

 

「駆け抜ける歓び」を追求するための決断

 2022-2023日本カー・オブ・ザ・イヤーの「デザイン・カー・オブ・ザ・イヤーはBMW・iXが受賞した。大型化したキドニーグリルに目を奪われがちだが、電気自動車(BEV)専用設計モデルとしてデザインされているからこそ、「駆け抜ける歓び」が追求できているのだと、モータージャーナリストの西川淳さんは指摘している。本誌2022年12月号のレポート(抜粋)を紹介しよう。

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 BMWのリアウィンドウには以前、「駆け抜ける歓び」を意味する公式ステッカーが貼られていた。このフレーズ、ドイツ語の「フロイデ・アム・ファーレン(=Freude am Fahren)」はBMWの目指すクルマ造りの伝統であり真髄である。いわばブランドの個性を生み出してきた源泉だ。どんなに小さいモデルであっても、そして逆に大きなモデルであっても。

 BMWのフラッグシップといえば長らく、そしていまも7シリーズである。メルセデス・ベンツSクラスに対抗するビッグサルーンだが、闇雲にライバルを追随することはなかった。そう、「駆け抜ける歓び」を貫いてきたのだ。このたび新型へとモデルチェンジされ、フラッグシップグレードとして電動モデルを設定するなどセダン劣勢の情勢にあっても、意気軒高だ。

 一方で、BMWといえば現代のSUVブームを牽引する大きな勢力でもあったことを忘れてはいけない。アメリカ市場での堅実なSUV需要を背景に日本のトヨタ(レクサス)が実現した高級SUVというカテゴリーに、BMWは新たな魅力を与えた。

 iXは他のiモデルとは異なり、既存の内燃機関モデルとプラットフォームを共有しない。そういう意味において、BMWにおける電動モデルのフラッグシップといっていい。

 X5の誕生以降、世の中のSUVは乗用サルーン領域のドライバビリティを手に入れて、セダンに代わる実用車の地位を確立した。マーケットはSUV主体となり、市場によってはセダンの姿など見る影もなくなった。他のジャーマンプレミアムブランドと同様にBMWも従来のセダン&クーペに匹敵するSUVラインアップを構築し、堂々のフルラインアップメーカーに成長したのだ。

 そして自動車の歴史が始まって以来の大転換期=2020年代を迎えたというわけだ。BMWといえば内燃機関(エンジン)主体のブランドというイメージが確かに強い。シルキーシックスなどはその際たるものだ。けれども、彼らは次世代パワートレーンというテーマに関してつねにこうアピールしてきた。「駆け抜ける歓び」を実現するためには「手段を選ばない」と。

 極論すればBMWにとってピュアな内燃機関を積むか電気モーター+バッテリー駆動か、はたまたその組み合わせ(ハイブリッド)や他の出力装置であるかは、もはや関係ないのだろう。結果的に顧客が望むドライビング・ファンが実現できるのであれば、それはそれでよしとする。実はそれこそがBMWの考えだ。ジャーマンプレミアムの中でも最も早くから電動化に取り組んできたブランドがBMWであった事実を思い出せば、それも納得できるに違いない。

 インパネはシンプルで開放的なデザイン。14.9インチセンターディスプレイと12.3インチのメーターで構成する高機能設計。ステアリングは2本スポーク形状、センターコンソールはフローティングタイプとなる。日本仕様は右ハンドルのみ。

 BMWの意気込みを表すモデルが完全専用設計のBEV、iXである。他のiモデルとは異なり、既存の内燃機関モデルとプラットフォームを共有しない。そういう意味において、BMWにおける電動モデルのフラッグシップといっていい。また、個性豊かな内外装デザインやまったく新しいドライブフィールを考慮すれば、未来に向かって躍進しようとするブランド全体の「いま」を表現する旗頭といえなくもない。iXは産業激変の時代においてフラッグシップの新しいあり方を提案しているのだ。

 そう思ってこの新しい電気自動車を味わうと、これまでのBMWにはなかった、新しい次元の「駆け抜ける歓び」があると知る。緻密に制御されたアクセルレスポンスはつねにドライバーの意志に寄り添いつつも、EV特有のパンチ力で期待に応えてくれる。乗り心地は重厚かつ洗練されており、それでいて操る楽しみもある。

 実際には安楽にクルージングを続けたくなるようなライドフィールなのだが、ドライバーがその気になればよくできたハンドリングマシンにもなり得るという点で、これまでの「せっかちなBMW」のドライブフィールとは一線を画す。

 そして何より、内外装のデザインだろう。キドニーグリルの新たな表現に気を取られがちだが、重要な点はパッケージングが現代のニーズと電動化を極めて合理的に組み合わせていることにある。そのうえでBMWはiXにまったく新しいレベルのドライビングファンを与えた。ひょっとすると、筆者を含めこれまでのBMWファンには納得のいかない点もあるだろう。けれども彼らはこれが未来だと信じてiXの市場導入を決めたのだ。

 走りだけではない。ヒューマンインタフェースからコネクタビリティまで、iXには新たな提案がぎっしり詰まっている。BMWの現在と未来を知るにはiXが最適である。

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 BMWは「駆け抜ける歓び」を提供するために、すべての決断・決定をしているようだ。電気自動車だからこそ、何をどのようにiXに投入し、活用すれば、本来の狙いが達成できるのか。すべての価値判断は「駆け抜ける歓び」がユーザーに提供できるのかどうか。BMWにとっては、ぶれない価値をひたすら追求するためのパッケージングであり、デザイン、パワートレーンといえそうだ。

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■BMW iX 主要諸元

グレード=iX M60
価格=1740万円
全長×全幅×全高=4955×1965×1695mm
ホイールベース=3000mm
トレッド=フロント:1660/リア:1690mm
最低地上高=200mm
車重=2600kg
モーター型式=HA0002N0/HA000N0(交流同期電動機)
モーター定格出力=フロント:70kW/リア:125kW
モーター最大出力=フロント:190kW(258ps)/8000rpm/リア:360kW(490ps)/13000rpm
モーター最大トルク=フロント:365Nm(37.2kgm)/0〜5000rpm/リア:650Nm(66.3kgm)/0〜5000rpm
一充電走行距離=615km(WLTCモード)
交流電力量消費率=199Wh/km(WLTCモード)
駆動用バッテリー=リチウムイオン電池
駆動用バッテリー総電力量=111.5kWh
サスペンション=フロント:ダブルウィッシュボーン/リア:ウィッシュボーン
ブレーキ=前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール=275/40R22+アルミ
駆動方式=4WD
乗車定員=5名
最小回転半径=6.0m

2022-2023日本カー・オブ・ザ・イヤー最終選考会・表彰式の様子

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