【旬ネタ】パフォーマンス・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したホンダ・シビックって、どんなクルマ?

 

「感動的なドライブフィールを味わえる」クルマが、パフォーマンス・カー・オブ・ザ・イヤーの対象である。受賞車はホンダ・シビックe:HEVとタイプR。

 e:HEVの走りの感動を、山本シンヤさんのレポート(本誌『CAR and DRIVER』2022年9月号より一部抜粋)で味わってもらいたい。

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 ホンダは「2030年までに日本の四輪車の100%電動化」を宣言済みだ。

 その内訳の多くはハイブリッドであり、まだまだパワーユニットの進化は止まらない。

 その代表がシビックに追加された進化版e:HEVである。今回は量産車を公道で試乗した。

 シビックe:HEVは、エンジン+モーター(発電・駆動用)で構成するシリーズ式を基本に、エンジン直結モードを備えたハイブリッドである。システムの考え方は他のe:HEVと同じ。だがシビック用は、2リッター直噴ユニット(141ps/182Nm)を新開発、その他のメカニズムも一新した新世代になっている。

 駆動モータースペックは184ps/315Nm。WLTCモード燃費は1.5リッターターボの標準車(16.3km/リッター)を大幅に上回る 24.2km/リッターをマークする。

 システム的にはエンジンで発電、モーターで走る状態で、エンジンと駆動系とは機械的な繋がりはない。だがドライバーは、絶妙な「直結感」を感じる。シリーズハイブリッド最大の難点である、車速とエンジン回転数のズレ、アクセルを踏んだときの応答性やレスポンスの悪さが、ほぼ解消されているのだ。これはダイレクトアクセルやリニアシフトコントロールなど制御技術の進化の効果に違いない。

 ただし、日本の一般公道のペースだとアクセルに対する反応がよすぎる、と感じた。ドライブモードは、「ノーマル」よりも穏やかな特性の「ECON」のほうが乗りやすい。つまり、それほどスポーティなのだ。気持ちのいい走りが満喫でき、しかも気がついたら「燃費がよかった」というハイブリッドである。

 フットワークはe:HEV搭載に合わせて、サスペンション/タイヤを専用チューニング。回頭性/安定感のバランス、コーナリング時のコントロール性、しっとりした足の動きが印象的だ。ただし乗り味は、ドライバーによっては若干硬めに感じるかもしれない。

 シビックe:HEVの走りの完成度は驚くほど高い。個人的には、「タイプS」を名乗るのがふさわしいと感じた。だからこそ、不満は内外装である。通常ガソリン車との差は、間違い探しレベル。つまり、見た目からこのクルマのすごさはまったく感じられない。

 開発陣は「乗っていただければ、わかってもらえます」と説明するが、その前に「乗ってみたい」と思わせることが大事である。走りがいいだけに、もったいない。

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 シビックの走りの性能を徹底的に引き上げたタイプRは、鈴鹿サーキットで河村康彦さん(モータージャーナリスト)が試乗した。鈴鹿サーキットでFF量産車最速タイム持つモデルの性能をレポート(本誌『CAR and DRIVER』2023年1月号より一部抜粋)する。

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 新型シビックは、まず1.5リッターターボの「純エンジンバージョン」が、2021年9月に登場。その10カ月後には完全新開発されたe:HEVハイブリッドが追加された。そして2022年9月には、スポーツ派の本命となる「赤バッジ」のタイプRがデビューした。

 最新タイプRは、「スポーツカーの枠を超えたアルティメット・スポーツ」を標榜。これまでのタイプRが追い求めてきた絶対的なスピード性能に加え、官能面にも強く訴えかけるGTカー的要素も重視している。新型はドライバーとクルマの対話性、さらに所有する歓びに徹底的にこだわった。内外装は精悍にして上質である。

 試乗の舞台は鈴鹿サーキット。タイプRの「聖地」へと踏み入れた新型の走りは、まさにメーカーがアピールするキャラクターを心底納得できるパフォーマンスだった。

 試乗車は標準装着されるミシュラン・パイロットスポーツ4Sタイヤを、同じミシュラン製でもよりドライグリップ力を重視したオプションのパイロットスポーツ・カップ2コネクトへと履き替えただけのストック状態である。

 最高出力330ps、最大トルク420Nmという数字は、いまやオーバー420psで500Nmというユニットさえ存在するターボ付き2リッターのデータとしては、必ずしも特筆できるレベルではない。しかし、実際にアクセルペダルを踏み込んでみると、まったく不足や不満を感じなかったことも事実。

 軽量フライホイールを採用するもののアイドリング+αでクラッチミートを行ってもストールする気配に見舞われるようなことはなく、低回転域でのフレキシブルさは十二分。

 一方で回転の上昇に伴う伸び感は、スポーツエンジンらしくゴキゲンそのもの。全力加速のシーンではレッドラインの7000rpmに達したことを知らせるブザーが鳴るまで、まさに何の頭打ち感もなくパワフルに吹き上がってくれる。

 ドライ路面で乗れたことも幸いしたが、トラクション能力は満足できる。この点でも、スペック重視で出力やトルクの数字だけを追い求めず、比較的穏やかな出力特性にまとめたことが、前2輪駆動のこのモデルに適した判断だったと考えられる。

 高いグリップ限界にも目を見張った。前述のようにオプションタイヤを装着したことも奏功しているが、何といっても基本が素晴らしい。

 フロントヘビーのFFモデルでありながら目立ったアンダーステアを感じさせる場面はなく、その一方でリアの安定感も十分に高い。超高速のコーナーにも安心して進入する気になれたことは、強く印象に残ったポイントである。

 昨今、あらゆる新車が値上がり傾向を示す中、このモデルが500万円切りの価格を設定していることは「大バーゲン」だ。そのコストパフォーマンスの高さは圧倒的なレベル。歴代のホンダ・タイプR車の中にあって、完成度の高さは抜群と言い切れる1台である。

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 山本シンヤさんはシビックe:HEVを「タイプSを名乗るのがふさわしいと感じた」という。タイプSは、タイプRよりもやや穏やかなスポーツ性能を持ったホンダ車につけられていた歴史がある。タイプSとすることで、e:HEVのスポーツ性能の追求具合が多くのユーザーに意識してもらえるのではないか、という主張といえる。

 シビック・タイプRと聞くと、スピードを中心にしたパフォーマンス追求モデルのように思いがち。だが、河村さんはペック重視で出力やトルクの数字だけを追い求めず、比較的穏やかな出力特性にまとめた」と指摘している。タイプRであっても、速さ一辺倒のモデルではないのである。

 スポーツ性を高い次元でまとめたe:HEVとタイプRの2台が味わわせてくれるダイナミックな性能は、ぜひ一度体験してほしい。

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■ホンダ・シビック・タイプR主要諸元

グレード=タイプR
価格=6MT 499万7300円
全長×全幅×全高=4595×1890×1405mm
ホイールベース=2735mm
トレッド=フロント:1625/リア:1615mm
車重=1430kg
エンジン=1995cc直4DOHC16Vターボ(プレミアム仕様)
最高出力=243kW(330ps)/6500rpm
最大トルク=420Nm(42.8kgm)/2600〜4000rpm
WLTCモード燃費=12.5km/リッター(燃料タンク容量47リッター)
(WLTC市街地/郊外/高速道路:8.6/13.1/15.0km/リッター)
サスペンション=フロント:ストラット/リア:マルチリンク
ブレーキ=フロント:ベンチレーテッドディスク/リア:ディスク
タイヤ&ホイール=265/30ZR19+アルミ
駆動方式=FF
乗車定員=4名
最小回転半径=5.9m

2022-2023日本カー・オブ・ザ・イヤー最終選考会・表彰式の様子

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