1970年代モデルが持つ味わい

経済アナリストで大学教授、そしてミニカーのコレクターとしても有名な森永卓郎さんによる、ミニカーをテーマにした連載コラム。今回紹介するモデルはシュコー社のダイカストミニカー。66分の1というスケールで、トミカサイズよりやや大きいモデル。1970年代に生産されたモデルは、時代背景や商品特性もあって「正確性」という点では最新モデルに一歩譲る面がある。しかし、ミニカーだからこそ楽しめる「味わい」は1970年代に作られたモデルのほうが魅力がある、という。

物足りない部分が魅力を増加させる

森永卓郎さん160.jpg■プロフィール もりながたくろう●1957年、東京都出身。東京大学経済学部卒業。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。個人のコレクションを展示する"博物館(B宝館)"を、埼玉県・新所沢で一般公開中(毎月第1土曜日)

2018年2月号メインビジュアル.jpg▲左と中央が1970年代製シュコーのミニカー 右が最近のモデル 精緻な作り込みは最近のモデルが優れている 重量感や温もり感などミニカー特有の味わいは1970年代のモデルのほうがいい

 ドイツのシュコーというメーカーをご存じだろうか。かつては、ゼンマイ仕かけのマイクロレーサー・シリーズや、90分の1スケールのずっしり重いピッコロ・シリーズで一世を風靡したメーカーだ。このメーカーの作品でボクが一番好きなのは、70年代を中心に生産されていた66分の1スケールのダイカストミニカーだ。トミカよりもひとまわり小さいが、肉薄で、シャープなボディは、小粒であるにもかかわらず、大きな存在感をアピールしている。

 写真は、フォルクスワーゲン・ビートルのADACパトロールカー仕様。ADACというのは、ドイツ自動車連盟のことで、日本のJAFに相当する。左側の2台は、70年代に製造された当初のシュコー・モデルだ。子供のおもちゃとしての性格も持っていたため、ドアオープンのギミックがつく一方で、コスト削減のため、さまざまな省略がなされている。

 一方、右端のモデルは、最近のシュコーだ。一応、シュコーのブランドはついているが、おそらく香港のホンウェル社に製造を委託したOEMモデルになっている。

 どちらがよく出来ているかといえば、圧倒的に最近のモデルだろう。ロゴマークなどが印刷され、ウィンドウモールも、しっかり再現されている。ヘッドライトも別部品で、裏板を伸ばしてヘッドライトを作っている70年代モデルとは、雲泥の差となっている。

 ただ、ミニカーとして、どちらが魅力的かといえば、ボクは70年代モデルに軍配を上げる。ノスタルジーの部分もあるかもしれないが、ミニカーとしての味わいが、70年代モデルのほうが圧倒的に優れていると感じるからだ。

 これは、シュコーだけの話ではない。コレクターを対象にした最近のミニカーは、どんどん精緻になって、細かく作り込まれている。

 それはそれで、素晴らしい完成度だが、ミニカーとしては「どうなのかな」と疑問に思う。あまりに細かく表現されてしまうと、鑑賞する際の想像力をかき消されてしまう。それより、少し足りないところがあったほうが、イメージを膨らませやすいのだ。

 印象派の絵画といったらいいすぎかもしれないが、実車の持つ特徴を思いきりデフォルメして、コレクターに訴えかける。それは、実車を忠実にスケールダウンするよりも、はるかに難しい作業だ。それに挑戦するミニカーメーカーが、また出てきてほしいと思う。

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