【時代の証言_日本車黄金時代】大切にしたのは「鍛えるコト。遊ぶコト。楽しむコト。」すべてが新鮮だった1991年スポーツ・シビックの世界感

ホンダ・シビックはクラスレスの魅力を発散するベーシックカーとして1972年に誕生。世界に先駆けて低公害CVCCエンジン搭載車を設定するなど、「市民のクルマ」ならではのポジションを築いてきた。「スポーツ・シビック」と呼ばれた第5世代は1991年9月に登場。カタログでは、これからの人と地球の指標となる「ニュー・ベンチマークカー」を目指した点が強調され、デザイン/走り/安全のすべての面で発想の転換を図った点が光った

ホンダ・シビックはクラスレスの魅力を発散するベーシックカーとして1972年に誕生。世界に先駆けて低公害CVCCエンジン搭載車を設定するなど、「市民のクルマ」ならではのポジションを築いてきた。「スポーツ・シビック」と呼ばれた第5世代は1991年9月に登場。カタログでは、これからの人と地球の指標となる「ニュー・ベンチマークカー」を目指した点が強調され、デザイン/走り/安全のすべての面で発想の転換を図った点が光った

スタイル&ファッションセンス抜群。世界を変える熱気があった

 小型2BOXカーは、1959年に登場したクラシック・ミニが源流である。ユーティリティの高い基本形の中に、必要な機能を合理的に封じ込めるのが、定番のコンセプトだ。シビックもそうだ。機能面に大きなプライオリティを置くという基本姿勢は1972年のデビュー以来変わっていない、ボクは多少のブレはあったにしろ、基本コンセプトを守ってきたことが、現在の地位に導いたと考えている。

 一般的に「顔がない」といわれる日本車の中にあって、欧米のユーザーの間でシビックのイメージが鮮明だという事実。これは「枝葉は変わっても、幹の部分は変わらないコンセプト」を、守り続けてきたことを証明している。

イメージ

コラージュ

 スポーツ・シビックと呼ばれる5代目も、基本の考え方は変わっていない。カタログには「新しいコンセプト」という言葉が頻繁に出てくるが、これはいわば枝葉の部分にすぎない。

 歴代シビックは、小型2BOXカーの本来あるべき姿をきっちりと守りながら、その中で、時代の流れを巧みに取り入れ、付加価値をプラスしてきた。基本骨格となる“機能”の表現方法を変えてきた。それがシビックのフレッシュ感覚の源であり、ほかのクルマにはない大きな特徴である。

 スポーツ・シビックは「遊び」とか「ファッション」という面を大切にしている。だからといって、小型2BOXカーとしての基本を置き去りにしてはいない。歴代シビックと同様に機能性と合理性を真摯に追求している。後席を2名用と割り切ってデザインした点を、ボクは非合理的だとは思わない。新しい時代に向けた合理性の提案だと受け取った。日本という国の中でのクルマの使い方を考えたうえで、2B0Xカーの持つ機能性をどうアレンジするとベターなのか、より楽しく使えるのか、という命題に対しての回答である。

合理的な2BOXスタイルには多彩なアプローチがある

 合理的なクルマの一般的なイメージは、ルーフを高くしたボクシーなスタイルでスペースをたっぷり稼ぎ、キャビンもトランクも広々しているクルマだろう。多くの人はそう考えるはずだ。

 しかし、ボクはそうは思わない。ルーフが低く、いかにもファッショナブルな2BOXカーがあってもいいと思っている。現在、あるいは今後の2BOXカーは、必ずしもスペース性に優れていることが絶対条件にならないと思うからである。いまや「遊びの要素」は大切な機能だ。ファッションにも同じことがいえる。そのクルマに与えられたキャラクターを満たすスペース性を最低限持っていさえすれば、あとの過剰部分はどう使おうと構わないのだ。低いプロポーションは、スタイリッシュというプラスだけでなく、走行安定性や視界の面でもプラスをもたらす。ドライビングプレジャーを加速する要素にもなる。視点を変えれば、低いことは合理的な選択といえなくもない。

フロント

室内説明

 クルマは、与えられた目的と性格に合わせて、パッケージングの方向性を選べばいいのだ。すべてが型どおりの機能性/合理性を持つ必要はない。得手、不得手があっていいし、2BOXカーだからといって、すべてをカバーできなければならない、ということではない。オールマイティなクルマが必要なら、そういうクルマをチョイスすればいいのである。ボクたちには、クルマを選ぶ自由がある。いまの世の中には、それこそ無数のクルマが存在するのだから問題はない。

 もちろん、「遊び」の要素を取り入れたせいで、不必要に大きく、重くなっていると問題だが、スポーツ・シビックは違う。いろいろな意味で“分”をわきまえた中で新しい提案を持ち込んでいる。ボクは喜んで歓迎する。これだけカッコがよければ、それだけでうれしいではないか。とくに後席をプラス2的にデザインした(大人2名は十分に乗れる……念のため)ことで、このクラスの2BOX車にはない贅沢なキャビンの雰囲気を創造した点に拍手を送る。

 空間をある種ムダに使うことの贅沢さ、 “2名だけのキャビン”といった香りを強く感じさせるという贅沢さである。ボクは、そんなスポーツ・シビックに“2BOXスペシャルティ”の名を与えたい。とにかくコンパクトなボディサイズの中に、フレッシュな雰囲気を凝縮した手腕は見事だ。2BOX車としてクラスレスの魅力秘めている。

アピアランスの完成度はピカイチ。走りも劇的にグレードアップ

 2BOXスペシャルティに進化した、スポーツシビックの魅力を、具体的にチェックしていこう。まずルックスである。

 新型シビックのルックスは、文句なしにカッコいい。世界に2BOX車は多数あるが、スタイリングの点で頂点に立つ1台である。スタイリングはヒトそれぞれで好みも判断基準も違う。だから、どれが世界一だとはいえない。それでも、世界規模で人気投票を行ったら、スポーツシビックが最も多くの票を集めるのではないか。そんな気がしてならない。

リア

インパネ

 スタイリングが、初代シビック以来の伝統をしっかりと受け継いでいる点もうれしい。もし、バッジを外したとしても、このクルマがシビックだと誰もが理解できるだろう。少なくとも旧型シビックを知っている人なら、まず100%わかるはずである。そして同時に、これが新型であることも、その人は認識するに違いない。洗練度、質感、美しさが、誰にでもはっきとわかるレベルで向上しているからだ。しかし、洗練度の高さゆえに“乗り手を選ぶ”というところもある。

 シビックのカッコよさに負けないためには、乗り手にはかなりのセンスが要求される。クルマに無粋な飾り付けをする人には似合わない。シンプルで清潔なオシャレができる人……そんなユーザーにシビックはマッチする。いままでもシビックには日本車には珍しい独特の香りがあった。スポーツ・シビックはそんな風合いがさらに加速している。

 インテリアもボクは好きだ、とくにイタリアン・モダンファニチャーのようなシートとドア回りのデザインがいい。ワンアームのヘッドレストを備えたシートは厚み感こそそこそこだが、その軽快さ、引き締まった印象がボクにはとても快く見える。リアシートも、シンプルさとスリムさをカッコよく感じた。贅肉のない健康的でしなやかな体を、ゆったりとした真っ白いコットンのシャツとタイトなジーンズで包み、裸足に軽そうな白のスニーカーを履いている……そんな人が乗っていたら、きっと最高にキマるだろう。スポーツシビックはエクステリアもインテリアもそうしたイメージを抱かせるクルマである。

リア

 走りの印象は、最強バージョンのSiR-Ⅱに絞って報告しよう。エンジンはNAながら、リッター当たりの出力は100㎰を超えるツインカム16VのVTECだ。そう、SiR-Ⅱは1.6リッターの排気量から、170㎰/7800rpm、16㎏m/7300rpm(MT)のパワー/トルクを絞り出している。このエンジンには“最高”という賛辞を贈りたい。パワー/サウンド/エキサイトメント、そして日常の中でのつきあいやすさ……すべてが揃っている。

 5スピード・ギアボックスの出来栄えもまた文句なしだ。全身を熱くほてらせながらワインディングロードを攻めまくってみれば、キミたちにもその真価はすぐにわかるはずだ。このホットなエンジンとギアボックスのコンビネーションには、熱い走りを加速するエネルギーがふんだんに詰まっている。

 4輪ダブルウィッシュボーン式の足もまたゴキゲンな出来だ。いままでのシビックは、路面がドライでかつ平滑な場合は、けっこういい走りを演じてくれた。切れ味のいいハンドリングも楽しめた。しかし、いわばゴーカート的なキャラクターの足は、路面が荒れるととたんに凹凸に追従できなくなってしまった。路面が滑りやすくなると、トラクション性能に明らかに不満が出てきた。コーナーでブレーキングするとあっけなく挙動を乱し、そのコントロールには優れた反射神経と技術が要求された。

メカ説明

 スポーツ・シビックのSiR-Ⅱは、そんなマイナス要素をすべてクリアしてしまった。トラクション能力は素晴らしく、上り勾配のタイトコーナーで170㎰をフルに引き出しても、ほとんど無駄なく路面に伝える。そのエネルギーを見事にスピードへと置き換えていく。ステアリングを意識的にオーバーに切り込んでもSiR-Ⅱの前輪はそのきつい仕事をこなしてくれた。「これなら、もっとパワーがあってもいい!」。そう思わせる余裕があった。

 前輪側がいよいよ限界に近いな、という感触が手のひらに伝わってくると、後輪側はタイミングよく、しかも穏やかに流れだす。速くて、コントロールしやすくて、洗練されていて、そしてエキサイトメントを備えたSiR-Ⅱの走りを、ボクは最高に気に入った。

 乗り心地は固めではあるが、けっして粗い感覚ではない。路面の不整をうまくいなし。直接的なショックをパッセンジャーに伝えない。見た目以上にクッションが厚いシートとのコンビネーションで文句のない快適性を提供する。ボディのしっかり感がハイレベルなのもプラスに働いている。フロントがベンチレーテッドタイプの4輪ディスクブレーキは、全力を上げてワインディングを攻め込んだボクの走りに耐えてくれた。オプションのABSの設定も適当だ。
 シビックの走りは本当によくなった。ボクはスポーツ・シビックが気に入った。とくに「SiR-Ⅱにはしびれた!」。
※CD誌/1991年12月26日号掲載

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