
ホンダ Super-ONE/価格:339万200円(CEV補助金130万円)。KカーのN-ONE e:をベースにしたスポーツBEV。すでに1万台を大きく超える受注を獲得。西川さんは「日本が元気だった平成時代の勢い」を感じるという
ホンダのN-ONE e:をベースにしたSuper-ONEは、張り出したフェンダーやBEVながらエンジンスポーツカーを彷彿させる乗り味を盛り込むなど、まさに個性派の筆頭。「自分たちが創りたかったFUNなAセグメントモデルを目指した」と開発陣が語るホンダらしい1台です。このモデルにメーカーは「50代と20代の親子がコミュニケーションを持つキッカケになる」というテーマも持たせました。
20代の筆者がSuper-ONEを見て、実際に乗って感じたのは「平成レトロを徹底的に体現したクルマ」というものでした。平成レトロとは、平成初期から中期にかけて流行したカルチャーや商品を楽しむ近年の流行を意味します。令和を生きるZ世代には平成のカルチャーや商品が新鮮に思えることから、この言葉が誕生しました。
純正アクセサリーに“ブルドッグスタイル”なるものが用意されているようにSuper-ONEは、ブルドッグの愛称で親しまれた1983年登場のミニギャング、シティ・ターボⅡを彷彿とさせる存在といわれています。ホンダのプロモーションはもちろん、SNSでの反応もシティ・ターボⅡと重ねたものが多く見受けられます。Kカー規格のN-ONE e:を小型車規格に拡大&パワーアップし、各部にシティ・ターボⅡ風のディテールを取り入れたSuper-ONEは、昭和末期から平成初期にかけての、日本に熱気があふれていた頃の元気を感じさせます。だから私は“平成レトロ”という言葉を連想したのです。
まず平成を感じるのがエクステリア。最新モデルはモダンなフロントフェイスや先進的な灯火類で個性を演出するのが一般的です。対してSuper-ONEで印象的なのはブリスターフェンダー。平成初期の日本のハイパフォーマンスモデルの定番アイテムを令和のこの時代に復活させています。素直にカッコいいと思いますし、スポーティで好印象です。
走りは最新のBEVらしく洗練されていました。ノーマルモードでドライブを開始すると普通のBEVといった雰囲気。CITYモードにはアクセル操作だけで加減速と停止が可能なシングルペダルコントロールも用意されていて、若手ドライバーを中心に存在感が高まっている“BEVネイティブ”でも馴染める操作性となっています。
SPORT&BOOSTモードを選択すると仮想有段シフト制御とアクティブサウンドコントロールが目覚めます。“エンジンサウンドとシフトチェンジ”という20世紀のクルマには当たり前で、令和のBEVには無駄な挙動を再現しているのですが、BEVでエンジン車のスポーティな乗り味が“コト体験”として味わえるのは素晴らしいと感じました。まさに令和の時代に、昭和から平成にかけての“あの頃”を懐かしんで盛り上がる、いまでいう“平成レトロ”を実感する部分です。
今後、私たちが日常的に使っている乗用車というパーソナルモビリティのパワーユニットがどうなっていくのかはまだわかりません。もしかしたらエンジン車に乗れるのは限られた富裕層にしか許されない日が来るのかもしれません。時代が変化しても、クオーツが主流になりスマートウォッチが出てきた現在でも機械式時計が評価されているように、エンジン車の乗り味は、価値あるものとして認識され続けるのは間違いないでしょう。将来的に、エンジン車がいまのように気軽に乗れない時代が到来した場合、Super-ONEのようなクルマは、クルマ好きの若者にとっていま以上に価値ある存在として認識されると思います。
普段はBEVでありながら、失われたエンジン車の乗り味を“コト体験”として味わえる……それはバーチャルとリアルの間ともいえますが、エンジン車の乗り味を世間から忘れさせることなく、低価格なAセグメントで選ぶことが出来る価値は絶大です。Super-ONEをドライブして、エンジン車が嗜好品になった未来でも、楽しいクルマはいろいろ生まれるに違いないと感じました。
さて、自分の愛車としてSuper-ONEを見た場合、注文したい点があります。それはオーナーの好みに合わせたカスタマイズ性です。とくにそれを感じたのが疑似エンジン音です。大排気量エンジンを思わせるような現在のサウンドはホンダのコンパクトスポーツらしくないと感じました。これはハードウェア上の制約の中での最良解だったそうですが、エクストラコストを払ってでも “自分好みのサウンド”が選べるとうれしいと感じました。また、トリプルメーターデザインも、数種からチョイスできると、もっと気分が上がると思います。BEVだからこそ出来るパーソナルなカスタマイズが実現し拡大していけば、クルマ好きの先輩方がクルマで個性を表現していた“あの頃”が令和の文化として復活するのではないかと思いました。
“平成レトロ”と表現したSuper-ONEは、最新BEVながら、どこか懐かしい雰囲気を持った、エンジン車好きも魅了するキャラクターの持ち主でした。BEV×ノスタルジーが、新しいトレンドになったら、未来のクルマはもっと面白くなる。メーカーの狙いどおりSuper-ONEは、世代を超えてコミュニケーションが盛り上がる楽しいクルマに仕上がっていました。
[プロフィール]
にしかわしょうご/1997年生まれ、富士スピードウェイの近くで生まれ育つ。大学時代から自動車ライターとして活動開始。新車情報から旧車やチューニング、自動車に関するアイテムや文化、イベントの取材記事など幅広く手掛ける。定期的なサーキット走行や自身でのモータースポーツ参戦を通じて運転技術の鍛錬に励む。2026-2027日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
