
プリウスは世界初の量産ハイブリッド車としてデビュー。エンジンと電気モーターを組み合わせた新駆動システムは“THS(トヨタハイブリッドシステム)と命名され、現在に続く第一歩を踏み出した。THSは従来の約2倍の燃費と、約1/2のCO2排出量を実現。さらに排出ガスも規制値の1/10のクリーンさを誇った
環境対応の次期エースといわれるハイブリッド車が、ついに正式デビューした。トヨタ・プリウスである。
量産乗用車としてはもちろん世界初登場ということになる。そんな記念すべきクルマを、冬季オリンピック開催が迫る長野でたっぷり味わってきた。快晴、無風、気温最適、湿度最適という最高のコンディションも手伝って、プリウスと過ごした一日は素晴らしく快適だった。
プリウスは斬新なスタイルとパッケージを持っている。イメージスケッチから抜け出てきたような姿に戸惑う人もいるかもしれないが、ボクは好きだ。斬新で合理的なプロポーションを見ていると、「これからの小型セダンはきっとこうなる」という思いにかられた。
プリウスはとても快適なキャビン空間を持っている。文字どおり、大人4名がくつろいで乗れるし、大きなガラス面積はキャビンに明るさと開放感をもたらしている。ただし大きなガラスエリアは、エアコンの利きとエネルギー効率という点でハンデになるはずである。
サイドガラスは平面に近いような曲率の大きなもの。それだけに頭の周辺の空間にもたっぷり余裕がある。ちなみに、身長165㎝のボクが前後に座った状態で、後席のひざ元にこぶし3個弱、頭上にはこぶし2個弱の空間が残った。シートサイズもゆったりしているし、後席はとてもくつろげる。
前席も、頭の上にはこぶし2個以上の大きな余裕がある。とにかく、快適で開放的でくつろげるキャビンだと報告しておく。
インテリアのデザインも新しい。誰でも新しさは認めるだろうし、“21世紀感”といったイメージに結びつける人も少なくないだろう。ただし、シート&ドアトリムの色柄は、相変わらず営業部門がイニシアチブをとって決めたような、古くさくて退屈なものだ。ボクがプリウスでいちばん嫌いなところはここである。
プリウスの走りだが、初めに結論をいえば、「とてもよくできている」ということになる。
エンジンと電気モーターという2種類の動力を適宜使い分けて走るわけだが、そのコントロールはすべて電子制御化されている。いままでのAT車とほとんど同じ手順で走れる。難しいことなど何ひとつない。昨日免許証を取得したばかりのドライバーだって難なく運転できる。
出足は実用上、十分に力強い。モーターでスタートして、後からエンジンがフォローし、速度が上がるにつれてエンジンがメインになりモーターはサブ側に回る。そして、加速や登坂など強い力が必要なときにはバッテリーから電気を取り出し、エンジンとモーターが力を合わせる。まあ、ざっとこんな形でプリウスは走るわけだが、エンジンと電気モーターの役割分担は実にうまくいっている。動力の流れをリアルタイムに表示するモニターの画面を見ていない限り、そのやりとりはほとんどわからない。
エアコンを切っていたり、負荷が小さいときは、交差点で停止するとエンジンは停止し、信号が青に変わってスタートするとエンジンは再始動する。そのときのフィールも悪くない。始動/停止時のエンジンの揺れ動きはごく軽く、意識していなければほとんど気づかないレベルだ。
しょっちゅうエンジンが停止したり始動したりするのはわずらわしくて不快だろうと想像している人もいるだろう。そんな心配は無用だ。なお、停車時にエンジンが停止するのは、バッテリーの充電レベルが十分なときであり。真夏にエアコンをフル稼働させているといったケースでは、ほとんどエンジンは停止しないという。
出足が十分に力強いということはすでに報告したが、これはスタート時に最大トルクを発生する特性を持つモーターが主役になっているからである。モーターはエンジンの弱みを巧みにカバーしている。
モーターとエンジンのコンビネーションによる力強い加速は80㎞/hあたりまで続く。無段変速なので、加速は滑らかそのもの。80㎞/hあたりまでなら、追越加速もなかなかのものである。80㎞/hを超えるあたりから加速の力強さは低下してくるが、それでも日本のハイウェイの常用速度の上限といえる130㎞/h程度の流れにはほとんどストレスなく乗っていける。
プリウスの最高速度は160㎞/h台の後半ということだが、エンジンスペックは58㎰/4000rpmに過ぎない。「本当に?」と疑問を持つ人もいるだろう。確かにエンジンだけでは最高速は140㎞/hといったところがせいぜいだろう。が、プリウスにはモーターというもうひとつの動力源がある。
プリウスのモーター出力は30kW(約40㎰)だが、このモーター出力とエンジンの出力を足せば100㎰くらいになる。だから、170㎞/h近い最高速度に達するということになるわけだ。
プリウスがリアシート背後に積むニッケル水素バッテリーはユニット全体で75㎏ほどの重さがあるが(バッテリーセルだけでは40㎏程度)、満充電状態からでもフルに負荷をかけ続けると、2~3分で充電レベルのワーニングサイン(亀マーク)が出る。つまり、空いた山岳路でアクセルを目いっぱいに踏み続けてヒルクライムにトライ、といったことをやれば、すぐにバッテリーは底をついてしまう。しかし、それでも1.5ℓのガソリンエンジンは働いているわけだから、一般のクルマの流れに乗って走る程度のことなら難なくこなしてくれる。
バッテリーへの充電は早く、上り坂で使い切ったバッテリーは、下り坂に入るとかなり早く満充電まで回復する。街中でも、ハイウェイでも、フル加速してバッテリーを使い切っても、すぐに取り戻してくれるといった印象だった。
フル加速するのはバッテリーに申し訳ないような気がして、初めのうちは少々遠慮ぎみに走っていた。しかし、充電の回復が早いことがわかってからは、遠慮なく走ったが問題はなかった。少なくとも、一般路上での常識的な走りなら、ストレスを感じさせられることはまずない、と報告しておく。
ブレーキは0.2Gあたりの制動までは回生機構が働いてエネルギーを回収する。いままではただ空気中に捨てていた制動時のエネルギーを回収できるのはうれしい気分になる。ブレーキを踏んでいるとき、バッテリーに回生エネルギーが送り込まれていく状態がモニターに表示されると、何か得をしたような気分になるし、いいことをしているような気分にもなる。ただし、ブレーキのフィールは悪い。“かなりひどいカックンブレーキ”的であり、スムーズに止めるのに苦労する。これは早急に改善してほしい。
乗り心地はけっこういいし、静かである。とくに静粛性はへたな高級車が青くなるほどのレベルだ。
プリウスはハイブリッドシステムに注目が集まりがちだが、ほかにもいろいろと話題の多いクルマだ。たとえばパワーステアリングはトヨタ初の電気式(アイドリングストップ時にも有効)だし、アクセルペダルはリンケージを使用せず電気信号を使った“ドライブ・バイ・ワイヤ”方式である。メーターをインパネ中央に設定したのは、視線移動を考慮した人間工学の成果だ。シフトセレクターがメーター類やマルチディスプレイに干渉しないように配慮している点も見逃せない。
人間工学といえばフロントシートの高さを575㎜に設定して“乗員のお尻の高さ”に合致するように配慮している。フロントドアは真横に開くのではなく、微妙に上向きに開く。こうすることで、乗員の頭回り圧迫感を少なくしたのだ。乗降性は抜群にいい。
安全面ではガソリン系統をボディの右側に、バッテリーとモーターの系統はボディ左側を通すことで事故時の着火の危険性に配慮した。他にもむち打ち症を回避するためにシート形状にも工夫を凝らし、ヘッドレストを従来比で数㎜前方に移動させている。エンジンは熱効率の優れたアトキンソンサイクルを応用した点も注目に値するポイントだ。
プリウスの「21世紀に間にあいました」というキャッチコピーは、ハイブリッド・システムを指すだけではない。プリウスはクルマの隅々まで21世紀の価値観で作り上げられている。だからこそ強いインパクトを発散するのである。
ボクはグリーンのボディカラーでVICS対応ナビとCDチェンジャーを付けたプリウスを注文した。たぶん12月中旬には納車されるだろう。とても楽しみである。
ちなみに、今回240㎞ほど走った試乗(3名乗車)での燃費は18.1㎞/ℓ。40㎞ほどは各種チェックのためのハードな走りをしているので、それを除けば20㎞/ℓには楽に届いたはずである。この分ならフルにエアコンを回して真夏の大都市圏を走っても、15㎞/ℓ前後の燃費は期待できそうだ。
※CD誌/1997年12月26日号掲載
