経営再建中の日産の商品面での期待は2026年に日米欧に投入予定の第3世代e-POWER。最新版はエンジンを発電専用に特化し、ユニットのモジュール化(5-in-1)で大幅に実力アップ。試乗車はキャシュカイの欧州向け左ハンドル。第3世代e-POWERは従来課題だった高速時の燃費をはじめ各種効率と静粛性を大幅にアップ。キャシュカイの場合、高速燃費は15%(モード燃費9%)向上。静粛性は5.6dB低減
日産はイヴァン・エスピノーサCEOのもと、Re:Nissanと呼ぶ経営再建計画を展開中だ。2026年度までの自動車事業の営業利益およびキャッシュフローの黒字化を掲げ、大幅なコスト削減や生産工場の縮小(17工場→10工場)、2万人の人員削減などに取り組んでいる。
Re:Nissanは守りの戦略だけではない。商品戦略の再定義など、「売れるクルマ作り」にいっそう力を入れ、日産本来の魅力を取り戻すことにも積極的だ。
業績回復のキーとなるのが、先日発表された新型リーフと、2026年に市場投入を計画している第3世代のe-POWERである。中でも最新e-POWERは、日本はもちろん、北米や欧州でも展開するグローバルなコア技術。BEVの販売に翳りが見える中、世界は高効率なハイブリッドに注目している。
第3世代e-POWERは、まさに日産の未来を担う期待のキーテクノロジーである。そのプロトタイプに追浜のテストコースで試乗した。
第3世代e-POWERの特徴は、「バッテリーEVを基点とした100%モーター駆動のハイブリッド」というe-POWERの基本はそのままに、従来の課題だった効率を大幅に改善、いままで以上に緻密なモーター制御を通じて一段とストレスフリーでスムーズな走行を目指した点だ。
具体的にはエンジンを発電専用に特化した仕様とすると同時に、インバーターやモーターなどの伝達効率を向上。さらにインバーター、モーター、減速機に加え、発電ユニットと増速機を一体モジュール化(5-in-1と呼ぶ)し、パワーユニットのコンパクト化と高剛性化を図っている。
第3世代e-POWERのパフォーマンスは優秀。燃費は現行第2世代比で高速時15%、モード平均で9%向上。静粛性は5.6dBと大幅に低減したという(ともにキャシュカイの数値)。なおモーターやインバーターなどはBEVのリーフなどと共通仕様であり、結果としてコストは2019年比で30%も安くなっている。
従来のe-POWERは、トヨタTHSやホンダe:HEVと比較すると主に高速走行時の燃費が見劣りした。そのため北米仕様にはe-POWER車が未設定だった。しかし第3世代は弱点を解消。開発陣は、ライバルと同等以上の実力を持っていると胸を張る。
試乗車はスタイリッシュで魅力的なキャシュカイ。欧州向けの左ハンドル仕様だった。まずは発電用に1.5リッター可変圧縮比ターボを採用(つまり国内向けエクストレイルと同様)した第2世代をドライブ。モーター駆動ならではのスムーズさが印象的なものの、やはりエンジンが稼働したときの音や、若干しっかり感が薄いステアリングフィールが気になった。悪くはないが、走りは平凡という印象だ。
第3世代に乗り換える。走り始めてすぐに進化を実感した。これは完全な電動車である。エンジンの存在をまったく感じさせない。右足の踏み込みに応じスムーズに速度を上げ、離すと減速。まさにEVフィールの走りが味わえた。パフォーマンスはECOモードでも十分。スポーツを選ぶとレスポンスが明確によくなり気持ちがいい。
驚いたのはハンドリングの一体感が増し、乗り心地もいっそうフラットになっていたこと。開発者に聞くと、「5-in-1化でパワーユニットの剛性が高まったことが、すべてにプラスをもたらしている」という。第3世代e-POWERは、プレミアムな味わいが濃厚。実に魅力的である。
第3世代は日本では高級ミニバンのエルグランド、北米はSUVのローグ(日本名エクストレイル)、欧州はキャシュカイから導入予定という。近未来の日産車は魅力たっぷりと感じた。課題は新型車導入のスピード感と、販売ラインアップの拡充(とくに日本市場)だろう。それがRe :Nissanの成否を分けるに違いない。個人的にはキャシュカイを日本でも販売してほしい。