自動車メーカーの開発陣は、いろいろなことを考えながらクルマを開発し、少しでもよいクルマに仕上がるよう日々努力していて、それは透けて見える。どれぐらい思い入れを強く持って作られたのか、乗ればわかる――と書くと、“上から視線”で述べているように思われるかもしれないが、そうではない。まったく逆で、開発の方々の努力は、大なり小なりちゃんと“伝わる”ということを言いたいのだ。
ただしクルマ自体も、それを使う人も非常に多様化している。どこにどんな「価値」を見出すかは無限大のケースバイケースである。ひとつ確かなのは、いずれも場合も、そのクルマを使う人にとって、“期待に応えている”ことではないかと思う。
最近登場した車種を例に考えてみたい。今年は、伝統あるビッグネームの新しい動きが目立った。ただし方向性はまったく正反対だ。フェアレディZは、往年モデルをモチーフにしたスタイリングだけでも、Zファンの期待に大いに応えている。かたやクラウンは自身の伝統を打破して駆動方式を変えたほか、ガラリと全体の雰囲気が変わった。賛否の声があるが、注目度が非常に高いのは、車名がクラウンなればこそにほかならない。
ミニバンやSUVや軽自動車などの売れ筋のカテゴリーでも、いくつものニューモデルが登場し、完成度の高さに感心させられたクルマはいくつもある。中でも印象的だったのがエクストレイルだ。まず、内外装のクオリティが驚くほど高い。さらに走らせてみて、予想を上回る性能と静粛性に驚いた。それでいてエクストレイルとして期待されるタフギアの要素も損なわれていない。
ミニバンでは、ノア/ヴォクシーが見た目はキープコンセプトで中身を全面刷新したのに対し、ステップワゴンは中身を熟成させつつ外見をガラリと変えた。お互い方向性は真逆でも、ユーザーの期待するものに応えつつ、新しいものを積極的に取り入れている点では共通しているといえそうだ。
最小のシエンタは、これまでかなりユニークだった外見を、誰が乗っても絵になる、オーソドックスでも新しさのあるデザインに変えた。
軽自動車では、ムーヴキャンバスが、中身を全面刷新しながらも、外見はほとんど変えなかった。これらはまさにユーザーの期待に応えた好例といえる。それぞれ価値あるクルマたちである。
最近では電動化や運転支援技術をふんだんに盛り込んだ車種も増えてきた。この分野もユーザーが大いに期待をよせていることには違いない。テクノロジーの進化自体にも大きな価値がある。
価値あるクルマの条件はいろいろある。やはりユーザーの期待にいかに応えているかというのは重要な要素かと思う。そして、その価値をいかに引き出すかもまたユーザー次第ではないか。価値あるクルマが、より価値あるものになるためには件の価値に目を向け、理解を深めることが求められる。
おかもとこういちろう/1968年、富山県生まれ。幼少期にクルマに目覚め、小学校1年生で街を走るクルマの車名すべて言い当てるほどになる。大学卒業後、自動車専門誌の編集などを経てフリーランスへ。AJAJ会員、日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
本誌執筆陣9名のジャーナリストが考える「価値あるクルマ」とは?