2024年3月にフルモデルチェンジを行ったMINIクーパー3ドア。BMW製になってから4代目となり、EVモデルも設定するなど、時代の要請に合わせた進化を果たしている。歴代MINIを所有してきたという竹岡氏は、新しいMINIクーパーをどう評価するのか。今回はベーシックな3ドアモデルに試乗して、その進化を検証してみた。
初代R50で7万㎞、2代目R56で6万㎞、3代目F55で3万㎞、3代目R60で7万㎞と、都合4台のMINIをしっかりと乗り継いできた私。買い替えるたび「またMINI買うの?」と言われ続けてきましたが、なにもMINIというブランド名だけで買い続けてきたわけではなく、仕事柄を生かしいろいろ乗り比べた結果、その時々の自分のライフスタイルにたまたまピッタリだったのがMINIだったんですよね。
とはいえ、モータージャーナリストでMINIを4台も購入した人は、私だけかもしれませんけど……(笑)。
となると、なぜに最新の4代目MINIを購入していないのか? と、疑問がわく方も多いかもしれませんが、それはまさにたまたま自分のライフスタイル的に、現在MINIの買い替え時期ではないからというだけであります。
クルマとしては、4代目もしっかりとMINIの精神は受け継がれているのですが、新しいデザインキーワード「シンプリシティ」に私がまだ慣れなくておりました……といえるのは、実は今回改めて試乗したからかもしれません。誤解を恐れずに正直にいっちゃいますと、ここに至るまで4代目MINIは、これまでのMINI乗りからすると、“MINIっぽくない”と感じていたのです。
基本性能はマジメに作り込まれていて、その性能もメチャクチャ高いんだけれど、いい意味で世界一ふざけたクルマがMINIらしさのひとつだと個人的には思っておりました。
その代表格がコンバーチブルにつけられていた“どれだけの時間ルーフを開けていたかメーター”とか、クロスオーバーの“どれだけの時間オフロードを走ったかメーター”なのですが、そういう無駄の美学的な遊び心、おふざけ感が若干薄れてしまったなと思っていたんですよね。
というよりも、MINIらしい遊び心が、美しい出来映えの大きな丸型の有機ELセンターディスプレイ、ここだけに集約されてしまったように感じていたのです。
これがまた多機能なおかげで、インテリアの象徴的だったアイコンのひとつ、トグルスイッチ類もここに集約されてしまったことも残念に感じていました。
このメーター、あまりに見た目が素晴らしいので、ドアを開けた瞬間、そこだけに目が行きがちではありますが、実は全体のインテリアデザインは、クラシックMINIの時代から基本のレイアウトは踏襲しながら最新のMINIになっていたりと、従来からのMINIファンが、思わず「ワァオ!」と叫びたくなるようなポイントはいくつもあります。
トリム類もリサイクル素材のファブリックを多用し、見た目の柔らかさと質感の高さを上手に表現したり、ステアリングスポークやセンターコンソールにはベルト生地を使うなど、従来の常識を覆し、素材から変更することで「こういうのだってアリなんじゃない?!」というMINIからの斬新なプレゼンテーションが盛り込まれています。
また、3代目から積極的に取り入れられた光を使ってMINIと会話をするような味付けは、今回も生かされていました。
4代目MINIはデザインされた光をメーター裏からハッキリと投影することでも、ダッシュボードのデザインを作っておりまして、たとえばドライブモードを変えると、その色が変わるという演出も盛り込まれています。
ちなみに3代目は、メーター周囲のリングの光が、エアコンの温度を下げると青く、上げると赤く光るなど、その色が徐々に変わったり、設定した温度になったらまた色が変わるなど、変化していく状態も教えてくれたので、より生き物っぽさがあったりしてペットのようで可愛かったのですが、そういった凝った演出がツウにしかわかりにくかったのも事実(笑)。
そこを4代目は、せっかくの演出が誰にでもわかるよう、より万人受けするように進化させたのかもしれません。
要はここから新しくMINIの世界に入って来る方は「さすがはMINIだよね!」と思うようなツボがたくさん盛り込まれているので、MINIの世界を堪能できるのは間違いありません。そして、対応力の高い方や頭の柔らかい方も「新しいMINIからの提案、素晴らしいじゃない!」と、瞬時に受け入れられたのだと思います。
半面、私のように2002年からMINIとガッツリ過ごしてきたユーザーは、進化を受け入れるのに時間がかかっているのかも(笑)。3代目からの4代目へとフルモデルチェンジまでの期間も長かったですからね。
そうやってブツブツいっている長年オーナーの私ですが、走ってみるとMINIが大好きなことに気がつきます。4代目にもしっかりと受け継がれたゴーカートフィーリング、オンザレール感覚の走り味は健在ながら、最新モデルはしなやかさ兼ね備えており、しっかり進化していることを感じさせます。
映画『ミニミニ大作戦』のように階段を駆け降りていた時代は終わり、時代に取り残されていたのはこっちのほうだったと気づかされました。
実際私がそうでしたから。やはり「MINIは世界一マジメに世界一ふざけたクルマである」というのは変わりません。MINIのヒットの真相はこのMINI精神にあるのだと思います。
1)美しい出来映えの大きな丸型有機ELセンターディスプレイはMINIらしい遊び心にあふれている。操作性もスマホ感覚で便利
2)これまでの常識を覆し、トリム類はリサイクル素材のファブリックを多用し、見た目の柔らかさと質感の高さを上手に表現
3)ゴーカートフィーリング、オンザレール感覚の走り味は歴代モデルを継承しつつ、最新モデルはしなやかさ兼ね備えて乗り心地が良好
たけおかけい /各種メディアやリアルイベントで、多方面からクルマとカーライフにアプローチ。その一方で官公庁や道路会社等の委員なども務める。レースやラリーにもドライバーとして長年参戦。日本自動車ジャーナリスト協会・副会長。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。