
初代NSXは1989年2月のシカゴ・ショーでプロトタイプを公開。日本初のスーパースポーツとして1990年秋に発売された。NSXはドライビングに長けた一握りのマニア向けだったスーパースポーツを革新。誰もが高性能を味わえる新たなハイパフォーマンスの世界を実現する。その圧倒的な速さと高度な信頼&日常性、入念な作り込みはポルシェやフェラーリに大きな衝撃を与えた
NSXとスカイラインGT-Rは、世界中に強いインパクトを与えた。とくに高性能を得意とする欧州メーカーには、強い衝撃を与えたようである。彼らのいろいろな反応の多くは「日本車の走りの技術もとうとうここまできたのか」という、驚きと尊敬と、そしてある種の恐れの念が複雑に入り混じったものだった。
ヨーロッパのメーカーにとって、高性能技術は聖域であり、日本に対してアドバンテージを持つ数少ない分野のひとつだという意識を当然持っていたと思う。それは長いあいだ事実でもあった。しかし、相次いで登場したGT-RとNSXは、そんな意識を大きく揺るがした。
GT-Rもそうだったが、NSXもニュルブルクリンク・サーキット(ドイツ)を走ったときに、その実力に驚かされ、感激した。第1に感じたのは、ボディ剛性の高さだ。世界初のアルミモノコックボディは、とにかくガッチリしている。ニュルブルクリンクの荒れた路面を高速/高Gで走り抜けても、まったく弱音を吐く気配は見せない。こいつは相当すごい!
V6のツインカム24Vエンジンも素晴らしい出来だ。280ps/30kgm(MT)を発生する3リッターエンジンは、まるで4リッターエンジンのような強力なパンチと、2リッターエンジンのような滑らかさで、1350kgのウェイトをグイグイと引っ張り回した。レブリミットは8000rpmだが、まったくのストレスを感じさせずに回り切る。ホンダのエンジン技術は、さすがにすごいと実感したものだ。
しかもこのエンジン、混雑した街を這うようにして走っても文句をいわない。クラッチは軽くてミートはやさしい。だから渋滞のなかでも「MTのハンディキャップ」に腹立たしさを感じることはない。
NSXの性能は本当に素晴らしい。0→100km/h加速は5秒ちょっとで走り切ってしまうし、リミッターを解除しただけのヨーロッパ仕様はいとも簡単に200km/hオーバーの世界に突入する。少し長いストレートさえあれば、250km/hにもたちまち達するのだ。
AT仕様がまたいい。8000rpm対応のATを開発したという技術的な成果に拍手を送りたいし、その実力は文句なしに素晴らしい。
エンジンとATのマッチングは最高である。このAT仕様NSXは、たとえばサーキットに持ち込んでもほとんど不満を感じることはないし、かなりのラップタイムを叩き出してくれる。
これでポルシェのティプトロニックのような、くつろいだ時間と刺激に満ちた時間とを使い分けられるソフトをNSXが持ち合わせていたなら、ものすごくセンセーショナルなニュースになったに違いない。
ハンドリングは高度なレベルに達している。ミッドシップカーの宿命ともいえる限界域のハンドリングのシビアさを、NSXは相当に高いレベルまで抑え込むことに成功していた。テールを不用意に大きく張り出すようなことをすると、さすがにコントロールはシビアになるが、さほど大きくない張り出しならば、ガッチリ固めたボディと足回りがグンと踏ん張って、何事もなかったかのようにコーナーを立ち上がってくれる。コーナリング速度は、文句なしの超一級品だ。
しかし、こうした性能はボディとサスペンション、そしてタイヤの高度なバランスの上に成り立っていることを忘れてはならない。タイヤの摩耗などによる特性の変化には、気を配る必要がある。
(コラージュ)
ワインディングロードを駆け抜けるNSXのスピードは超一級品だが、もちろんパーフェクトというわけではない。将来に向けての課題は残っている。その中でもボクがいちばん望みたいのは、高速域でのヨーダンピングの向上だ。高速での速いレーンチェンジや、緊急回避における急なステアリング操作をしたとき、NSXの安定性には明らかに不満が残る。簡単に200km/hをオーバーする実力の持ち主だけに、この点はもっとレベルアップしてほしい。
ブレーキは日本一と表現していいレベルだ。この点ではスカイラインGT-Rも遠く及ばない。
ポルシェにもフェラーリにも、衝撃を与えたNSXだが、次の段階ではいくつかの課題をクリアすると同時に、より以上の軽量化を果たした素晴らしいエボリューションモデルを送り出してほしいものだ。
※CD誌、1992年1月26日号掲載
