※本記事は雑誌『CAR and DRIVER』(2026年12月号)の巻頭コラム「from Editors - カー・アンド・ドライバー編集部の視点」より抜粋したものです
今月号の特集で掲げた言葉「クルマを愛するライフスタイル」。内容としては、グッドウッド・リバイバルとマツダ・ロードスターという2つの軸で構成した。英国の歴史あるヒストリックカーの祭典と、日本が生んだライトウェイトスポーツ。一見、異色の組み合わせに思えるかもだが、その根底に流れるものは同じであり、地続きでつながっていると考えたからだ。
ライフスタイルなどというといわゆる“意識高い系”に聞こえてしまうが、要は人生を楽しむことのそばにクルマがある、というだけの話だ。それでもあえてこの言葉を掲げたのは、表紙に掲げている「『クルマのある人生』を楽しむライフスタイル・マガジン」というコンセプトを、特集というかたちで真正面から表現してみたかったから、というわけだ。
実際にグッドウッド・リバイバルを見て驚いたのは、その文化度合いの高さだった。1940〜60年代という時代設定に合わせたドレスコードは、あくまで推奨である。にもかかわらず、来場者の多くが思い思いの装いで臨み、誰にいわれるでもなく、その世界観を自ら守り、楽しんでいる。もちろん、クルマやドライバーも凄い。しかし、来場者であれエントラントであれ、共通しているのは、主催者が用意した舞台上で、来場者一人ひとりが演者となり、自らの意思で共に場を作り上げようとしている。
この“自らの意思”という感覚は、イギリス現地での移動ドライブでも強く感じた。日本と比べて、右ハンドル左側通行は同じだが、速度表記はマイルで、一般道含めて速度レンジは高め。そこで感じたのは、皆運転が上手だな、ということだ。速度規制が頻繁に切り替わり、また速度レンジが高めでありながら、秩序が乱れることなく、交通網が動いている様子だった。スキルの差はもちろんあるだろうが、遅いクルマも速いクルマも、どうしたいかは伝わってくる印象だった。
そして取材とは関係ないが、先日プライベートで訪れたハワイで、レンタカーを借りて一日ドライブをした。交通事情として、スピードレンジや交通ルールもさることながら、ハワイは高速道路でも道幅が広くないため、日本よりも周囲のクルマとの距離感が近いように感じた。加えて、ウインカーを出す習慣が弱いこともあり、一人ひとりがしっかりと周りを見て、状況を把握していないと危ない。アメリカの運転が決してラフというわけではないが、そこには「自分の身は自分で守る」という前提があった。
日本の交通事情はどうかといえば、誤解を恐れずにいえば、わりと“過保護”であり、性善説同士が揃っている印象がある。相手はきっと譲ってくれる、きっとルールを守ってくれる。それは日本の美徳であり、世界に誇れる安全の礎でもある。一方で、その安心感に甘えるあまり、自ら周囲を見て判断するという、ドライバーとしての主体性が薄れてはいないだろうか。
グッドウッドの来場者、そして異国の交通事情。両者に共通するのは、自らの意思で動き、自らの責任をもって臨むという姿勢だ。以前の当コラムで、多様なパワートレーンの中から「自ら責任をもって選ぶのが今の時代」と書いたが、それはクルマ選びに限った話ではない。どう装い、どう走り、どう楽しむか。そのすべてを自分の意思で選び取る、主体性こそが、ライフスタイルを語るうえで本質なのだと思う。
ロードスターが37年にわたって愛され、メディア対抗ロードスター耐久レースがその歴史と共に歩んできたのも、作り手と乗り手、そして集う人たちが、それぞれの意思でこの文化を育ててきたからにほかならない。クルマを愛することというのは、人生を自ら楽しもうとすることと同義なのかもしれない。
文/山本善隆(CAR and DRIVER / FM STATION 統括編集長)
<プロフィール>やまもとよしたか/1980年東京都生まれ。ITコンサルティング会社、自動車Webメディア企業、広告会社を経て、マーケティング会社にて企業の戦略立案・事業開発支援業務に従事後、2020年に独立。2021年より現職。クルマを運転する時間が一日の中で最も好き。1995年以降は大のF1ファン。日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員
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