自動車の電動化が急がれている昨今だが、日本はハイブリッド分野の先進国だ。
では、最新のハイブリッドシステムはどのようなものがあるのだろうか?
トヨタ、日産、ホンダのハイブリッドに注目し、その違いについて検証する。
自動車業界は"100年に1度の変革期"と言われているが、その中での必須課題となるのがCO2問題、つまりカーボンニュートラルだ。その実現のためにはパワートレーンの改革が必須となっている。
とくに欧州メーカーは急速に電動化に舵を切る戦略を取っている。その動きの速さやアピールなどから、〝日本の自動車メーカーの電動化対応は遅い〟と苦言を呈するメディアも多いが、それは大きな勘違いである。日本の自動車メーカーは20年以上にわたり〝現実的〟な電動化戦略を着々と進めている。そのひとつがハイブリッドカーである。
改めてハイブリッドカーを説明すると、ガソリン/ディーゼルなどのエンジン(=内燃機関)とモーターを組み合わせた動力源を搭載したパワートレーンを持つクルマを示す。
エンジンとモーターはそれぞれ得意・不得意があるため、この2つを組み合わせる技術で、効率よくクルマを走らせることができる。モーターは駆動だけでなく発電機として使えるから、これまでは内燃機関では減速時に捨てていた運動エネルギーを電気エネルギーとして回収することも可能。そこで蓄えた電力を再び駆動に使えるので、燃料のセーブにもつながるというわけだ。
パラレル方式(マイルドハイブリッド)
スバル e-ボクサー(XV、フォレスター他)/スズキ S-エネチャージ(ワゴンR 、スイフト他)
シリーズ式
日産 e-パワー(ノート、セレナ他)/ダイハツ e-スマート(ロッキー)
シリーズパラレル式
トヨタ THS-Ⅱ(ヤリス、カローラ他)
シリーズパラレル切り替え方式
ホンダ e:HEV(フィット、ヴェゼル他)
そんなハイブリッドカーには、さまざまなシステムが存在する。1つめは、エンジンとモーターが同一軸上にあり、モーターが必要に応じてエンジンを適宜アシストしながら駆動するパラレル方式だ。
エンジンがメインでモーターはアシストに徹するシステムで、エンジンとトランスミッションの間にモーターをレイアウトする機構が多い。その特徴は構造がシンプルで、システムの重量が軽いこと。電動車に乗っている感覚は少なめだが、クラッチ機構を備えたモデルはモーター走行も可能である。
スバルのe-BOXER、さらに昨今ラインアップを大きく増やしている欧州車の48Vマイルドハイブリッドなどがこれに当たる。
2つめはエンジンを使って発電機を動かし、その電気でモーターを回して走行するシリーズ方式だ。エンジンで発電した電力をモーター駆動に利用する方式で、わかりやすくいうと〝自家発電が可能な電気自動車〟である。そのため、走行フィールや乗り味などはBEVと同じになり、電動車に乗っている感覚は強い。バッテリー残量が多いときはエンジンを始動させずモーターだけでの走行も可能だ。
日産のe-POWERやダイハツのe:smart、ホンダのe:HEVがこれにあたるが、e:HEVはエンジンだけで駆動するモードも存在するため、「シリーズパラレル切り替え方式ハイブリッド」と呼んでいる。
そして3つめは、この2つのシステムを組み合わせたシリーズパラレル式だ。エンジンは動力分割機構を用いて発電用/駆動用に分割、モーターは走行用/発電用の2つを搭載という複雑な機構となる。それゆえにエンジンとモーターの両方を駆動に使うことができ、モーターだけでの走行も可能だ。つまり、その名称のとおりシリーズ式とパラレル式の〝いいとこ取り〟の性能を備えている。モーター走行も可能なうえに、エンジンに上乗せされたモーターのアシスト感もある。だが、どこかシャキッとしない独特の乗り味に賛否があるのも事実。
トヨタのTHS-Ⅱがこれに当たる。ただし、最近ではFR系のモデルで変速機構(4速AT)を組み合わせる技術を使い、ダイレクトな乗り味を実現するマルチステージハイブリッドも用意されている。
1997年に世界初の量産ハイブリッドカー、プリウスと共に登場したトヨタ独自のパワートレーン。シリーズ式でもパラレル式でもない、独創的かつ効率的なシステムだ。エンジンは動力分割機構を用いて発電用/駆動用に分割、モーターは走行用/発電用の2基を搭載。エンジンとモーターの両方が駆動に使えるうえ、モーター単独走行も可能。デビュー当初は効率を優先した制御ゆえに、エンジン回転数と加速感にズレがあることから"ラバーバンドフィール"と呼ばれた。この点は進化・熟成を重ねて、日常域では気にならないレベルに到達。基本的な機構は1stプリウスの時から不変だが、つねに進化しており、最新モデル用は第7世代になっている。
量産EVとして登場したリーフの開発で培った技術を用いたシステムがe-POWERだ。基本的なシステムはエンジンで発電した電気でモーターを駆動する"シリーズ式ハイブリッド"だが、日産は"自ら発電する電気自動車"、"ガソリン車の感覚で電気自動車の走行フィーリングを楽しめる"と位置づける。その走りはEVならではのレスポンスのよさや力強さを電欠の心配なしに体感でき、しかも未来を実感できるようなフィーリングが高く評価された。当初は苦肉の作だったようだが、現在は重要なパワートレーンのひとつに成長して、積極的なモデル展開を計画中。なお、世界初の可変圧縮エンジンを組み合わせた次世代e-POWERも登場間近といわれている。
1999年に登場した初代インサイト以降、さまざまなハイブリッドシステムの研究・開発を進めてきたホンダが到達した、ひとつの最適解がe:HEV。2012年に発表されたスポーツハイブリッドシリーズの中型車用i-MMDの進化版になるが、組み合わせるエンジンやモーター次第でコンパクトモデルからミドルクラスまで対応できる多様性を備えている。機構的にはエンジン+発電用/走行用モーターで構成されるシリーズハイブリッドだが、走行状況に応じてエンジンの軸と車軸を直結するクラッチによりエンジン走行モードも可能だ。一見シンプルに思えるが、その裏ではかなり複雑な制御を行っているホンダらしい独創的なシステムといえる。
このようにハイブリッドといってもさまざまな特徴や個性が存在する。各システムに共通しているのは、燃費がいい、CO2排出量が低いは当たり前で、内燃機関だけでは実現できない独自のドライブフィールを持たせていることだ。つまり、〝ハイブリッドはつまらない〟ではなく、〝ハイブリッドは面白い〟という時代なのである。