カーボンニュートラル・ジャパンを目指すクルマ関連の経済対策あれこれ

▲トヨタMIRAI   購入補助金は140万円前後になるもよう
▲トヨタMIRAI 購入補助金は140万円前後になるもよう

 2022年1月以降の自動車関連経済対策がほぼまとまった。

 当初はBEV(バッテリー電気自動車)への補助金積み増しという案が有力だったが、2021年度補正予算に375億円の規模で盛り込まれたのは登録車のBEVおよびPHEV(プラグインハイブリッド車)、軽自動車のBEV、FCEV(燃料電池電気自動車)に対する購入補助だ。
 
 さらに、水素エネルギーの使用促進と合成燃料e-Fuelについても予算を盛り込んだ。

▲マツダMX-30EV
▲マツダMX-30EV

 登録車のBEVについては、現在の購入者補助である最大40万円を2倍の80万円に引き上げる。軽自動車のBEVは現在の最大20万円を50万円に引き上げ、PHEVも現在の最大20万円を50万円に引き上げる。

 登録車BEVについては、2020年度第3次補正予算で環境省が最大80万円の交付としたが、総額が決まった予算だったため、すでに受付は終了している。その意味では、最大80万円という欧米並み補助金の復活といえる。

▲ホンダe
▲ホンダe

 同時に、今回の補正予算を使った最大80万円の補助金については、2020年度第3次補正予算のときに条件だった「自宅あるいは事業所の電力をすべて再生可能エネルギーでまかなう」を撤廃した。

 代わりに「外部に電力を供給できるよう100Vの車載コンセントを有していること」「給電口を使って外部から車載電池に貯めた電力にアクセスできること」という条件が付いた。これは災害時などにBEVを電力インフラとして活用するためであり、この2つの機能のどちらも有しないBEVの場合は補助金額が最大60万円止まりとなる。

▲三菱アウトランダーPHEV  2021年12月に発売されたプラグインハイブリッド車
▲三菱アウトランダーPHEV 2021年12月に発売されたプラグインハイブリッド車

 一方、水素を発電燃料に使うFCEVについては、従来の補助金最高額である225万円を約10%アップした250万円とする。

 ただし、補助金計算方法には同クラスのICE(内燃エンジン)車との価格差などが関連するため、ICE車との価格差がそれほど大きくないトヨタMIRAIの場合は140万円程度(現在は115万円)になり、約20%のアップだ。さらに補正予算には水素補給ステーションの整備関連費用として60億円程度が計上される予定だ。

 これらの補助金は2022年3月末までに受付が開始される。かつてエコカー補助金実施時には補助金対象だったHEV(ハイブリッド車)は対象外である。実は、この補正予算の検討段階では、FCEV以外の水素関連を政府として支援する案が含まれていなかった。

 前菅政権が打ち出した「2050年にカーボンニュートラル(炭素均衡=CO2排出を実質ゼロにすること)」の達成にはBEV普及が必須という見方があったためだ。

▲2021年12月14日「トヨタのバッテリーEV戦略」について発表する豊田章男社長
▲2021年12月14日「トヨタのバッテリーEV戦略」について発表する豊田章男社長

 日本自動車工業会(JAMA)の豊田章男会長は、自動車産業を代表して「目標はカーボンニュートラルであってICEが敵なのではない」「選択肢をBEVだけに狭めるのは技術の発展を妨げる」と主張してきた。

 日本にとって自動車産業は、売上高でも納税額でも最大規模の産業であると同時に、外貨獲得手段である。最終的には政府が自動車産業の声を聞いたことになる。

▲BMW320d・xドライブMスポーツ 2リッター直4ディーゼルターボ(190ps/400Nm)
▲BMW320d・xドライブMスポーツ 2リッター直4ディーゼルターボ(190ps/400Nm)

 もっとも、経済支援をBEVだけに限定する場合は矛盾が噴出する。現在、日本の電力は大半が火力発電である。すでに市販されている熱効率40%のディーゼル車や、トータルの効率ではディーゼルを上回ることもあるHEVは「石炭火力で発電した電力でBEVを走らせる場合よりもCO2発生は少ない」といわれている。

 最も効率の高い天然ガス発電でやっとHEVを上回る程度との試算もある。

 水素関連の予算が盛り込まれた理由は、将来的に水素を燃料とするICEや大気中のCO2と再生可能エネルギーで生成した水素を使った合成燃料e-Fuelの実用化を目指すという目的がある。

 トヨタはFCEVだけでなく水素を燃料として使うICEの開発を進めているが、そこで使う水素を福島県のFH2Rのような再生エネルギーだけで水素を生成する設備で調達すれば、カーボンニュートラルになる。水素を燃やしても、排出されるのは水と、微量のエンジンオイル由来の炭素化合物だけだ。

 欧州でも、EU(欧州連合)政府が現在のようにBEVへの誘導政策を始める前はe-Fuelの研究が進められていた。

 アウディは、大気中のCO2と太陽光発電による水素を使った気体燃料e―ガスの実験プラントを8年前に稼働させている。天然ガスを原材料とした液体燃料であるGTL(ガス・トゥ・リキッド)も実用化されていた。しかし現在はBEV以外は推奨しないというのがEU委員会の姿勢である。

 水素関連の補正予算では、水素インフラの整備に対する補助が盛り込まれている。政府は2030年度には全国に1000基の水素ステーションを設置する予定であり、その手始めに補正予算の60億円が使われる。

 e-Fuelについては、政府が整備する2兆円のグリーン・イノベーション基金から研究費が拠出されることが決まった。

 e-Fuelは、基本的には水素と炭素で構成される。水素分子4つと炭素分子1つを持つ場合は気体燃料であるブタンと同じである。問題はどうやってe-Fuelを作るか、だ。

 この分野の技術は、まだ量産レベルには到達していない。さらに、コスト面でも「相当に高いハードルを越える必要がある」といわれている。その一方で、水素関連の研究開発は日本国内のさまざまな業種・企業で進められており、今回の補正予算はそこに対する間接的な支援策にもなる。

▲トヨタのリチウムイオンバッテリー
▲トヨタのリチウムイオンバッテリー

 もう一点、政府は今回の補正予算の中から車載用蓄電池の工場建設を支援する予算として100億円程度を振り向ける方針だ。LiB(リチウムイオン電池)を世界で初めて量産したのは日本だったが、現在は中国が生産量でダントツの状態。

 電動車の重要部品であるLiBを中国に牛耳られないためには国内の生産拠点を増やす必要がある。

 以前は「国内に需要がないから生産規模は増やせない」という状況だったが、幸い、日本の自動車メーカーのLiB必要量は急激に増えており、需要はある。問題は1000億円規模にもなるLiB工場の建設費である。政府は今回の補正予算で100億円規模を支援する予定。

 しかし、EU委員会がすでに配布した車載LiB関連の補助金は、研究開発だけで約4300億円、工場の建設では加盟国および自治体が1工場について100億円程度の支援を行う用意があるという。

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